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異性間性的接触による女性の梅毒感染リスク因子の検討, 2017~2018年

(IASR Vol. 41 p10-11: 2020年1月号)

国内では主に異性間性的接触を介し, 女性での梅毒感染が急激に増加しており, 東京都からの女性梅毒患者の届出数は日本全体の1/4から1/3を占めている1-3)。そのため, 国内で女性が梅毒に罹患する原因の究明と対策は喫緊の課題である。そこで, 東京都での女性における異性間性的接触による梅毒感染リスクを明らかにすることを目的に, 東京都の診療所において自記式質問紙を用いた前向き症例対照研究を行った。

2017年6月~2018年3月に東京都内にあるクリニック(計5カ所)で梅毒抗体検査を受けた成人女性で, 調査日より過去6カ月以内に異性間のみの性行為を行った者を対象にした。症例は感染症法に基づき, 臨床所見と抗体検査により活動性の梅毒(晩期顕症梅毒を除く)と診断された者とし, 対照は同結果から梅毒未罹患ないし, 梅毒治癒後と判断された者と定義した。

合計524例(症例60, 対照464)が解析対象となった。60症例のうち10人(17%)は学生(「雇用状況」の「それ以外」に含まれる), 梅毒の既往がある者は3人(5%) のみであり, 14人(23%)は過去半年以内の性行為相手が1人という結果であった(表1, 2)。過去半年以内に性風俗産業に従事した者は症例35人(58%), 対照135人(29%)であった。性風俗産業の種別は多岐にわたったが, 両群ともに店舗型ないし非店舗型のみまたは, その両方のみと回答した者が8割以上を占めた(表1)。過去半年以内に, 国内で外国籍の性行為相手がいた者やネットサイト等を利用し性行為相手と出会った者の割合は同様であり, 両群で有意な差を認めなかった(表2)。単変量解析では, 性風俗産業従事歴(オッズ比:3.40, 95%信頼区間:1.96- 5.90)および, 性感染症の既往, 年齢, 最終学歴, 雇用状況の項目において, 梅毒感染との有意な関連性を認めた(表1, 2)。

最終的に, 性風俗産業従事歴の有無で層別化した後, 年齢, 学歴, 性行為相手の人数, 膣・肛門性交の頻度, およびコンドームの使用頻度の5つの項目で多変量解析を実施した。その結果, 性風俗産業従事歴のある者では, 膣・肛門性交の際のコンドームの不使用, および不定期での使用と梅毒感染で高いオッズ比を認めた(オッズ比:3.42, 95%信頼区間:0.92-12.70)。一方, 従事歴のない者では, 若年者であること(年齢群が上がるにつれオッズ比は低下)(オッズ比:0.36, 95%信頼区間:0.19-0.70), 最終学歴が高等学校までの卒業であること(専門学校・短期大学以上の卒業者 [但し, 在学生を含む]と比較)(オッズ比:5.24, 95%信頼区間:1.95-14.10)と梅毒感染とに強い関連性を認めた。なお追加解析にて最終的に, 性行為相手の人数, 膣・肛門性交の頻度, 雇用状況については, 性風俗産業従事歴の有無に関わらず梅毒感染との強い関連性を認めなかった。

本研究より, 過去半年以内の性風俗産業従事歴が梅毒感染リスクの1つとして示唆され, 加えて, 性風俗産業従事歴の有無により異なるリスク因子が確認された。従事歴を有する者ではコンドームの不使用および不定期での使用が, 従事歴無しの者では, 若年者であることの他に, 最終学歴(社会的要因の一例と想定)が梅毒感染との関連を認めた。また, 東京都においては, 過去に梅毒感染歴がなく, 性交渉相手が1人しかいないと報告した女性にも梅毒感染が広がっている可能性が示唆された。本結果から, 梅毒流行への対策には, リスク群に応じ, コンドームを適切に使用した安全な性行動の啓発, 学生を含む若年者を対象にした安全な性行動の予防教育, 早期診断のためのスクリーニング機会の拡充などの包括的アプローチが重要である。

謝辞

本研究に多大なるご尽力を賜りました関係者の皆様に深謝致します。なお本研究は, 厚生労働科学研究費補助金を受け実施した。

 

参考文献
  1. Takahashi T, et al., Sex Transm Dis 45(3): 139-143, 2018
  2. 藤倉 裕之ら, 日性感染症会誌 30: 1-7, 2019
  3. Sugishita Y, et al., Western Pac Surveill Response J 10: 6-14, 2019
 
 
国立感染症研究所細菌第一部
 錦 信吾 大西 真
医療法人社団新宿レディースクリニック会
 濱田 貴
国立感染症研究所感染症疫学センター
 有馬雄三 山岸拓也 高橋琢理 砂川富正
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