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GAPⅢを含む世界的なポリオ根絶戦略の進捗に対するわが国の取り組み

(IASR Vol. 41 p20-21: 2020年2月号)

はじめに

急性灰白髄炎 (ポリオ) については, 昭和63(1988)年5月の世界保健総会における決議に基づき, 世界保健機関(WHO)によるポリオ根絶に向けた取り組み(世界ポリオ根絶計画)が推進されている。

国内においては, 昭和56(1981)年以降, 野生株ポリオウイルスによる症例は報告されておらず, わが国を含むWHO西太平洋地域においても, 平成12(2000)年以降, 輸入例を除き, 野生株ポリオウイルスによるポリオ症例の根絶状態が続いている。また, 世界全体でも野生株ポリオウイルスによる症例は, 野生株ポリオウイルスの伝播が確認されているアフガニスタンおよびパキスタンの2カ国となったものの, 市中伝播しているワクチン株(cVDPV)症例の発生も続き, 今後の動向には注意が必要である。

WHOは, 中長期にわたるポリオ対策の進捗を踏まえ, ポリオ根絶に向けた最終的な取り組みとして, 「ポリオ最終段階戦略2019-2023(The Polio Endgame Strat-egy 2019-2023)」を公表した。ポリオウイルス(野生株およびワクチン株)による症例の根絶状態からポリオウイルスの封じ込めへの移行期として, ポリオウイルス伝播のリスクを最小限にするための方向性が示されている()。

ポリオ根絶に関するWHOおよびわが国の取り組み

WHOによるポリオ対策の主な経緯としては, 1966年の世界保健総会(World Health Assembly:WHA)決議により顕著な進行をみた天然痘根絶対策を受け, 1974年のWHAにおいて, 予防接種の拡大プログラム(拡大予防接種事業:EPI)に関する決議がなされたこと, そして1988年のWHAにおいて官民パートナーシップ(WHO, ロータリー国際財団, 米国CDC, ビル&メリンダゲイツ財団による)であるGlobal Polio Eradication Initiative(GPEI)の設置が決議されたこと, が挙げられる。さらに, ポリオ根絶のなかでも, 根絶以後を視野にいれた, 実験室封じ込めに関する方向性が示されることとなり, WHO global action plan for laboratory containment of wild poliovirusesが1999年(第2版が2003年)に刊行され, 全国レベルでのポリオウイルス野生株の実験室での所有状況の調査による把握など, 具体的な対策が示された。わが国でもこの時期からの累次の調査により, ポリオウイルス野生株の所有状況を調査しWHOへ報告した。

その後, ポリオウイルスの実験室封じ込めの計画的な推進について, 第3版にあたるWHO Global Action Plan to minimize poliovirus facility-associated risk after type-specific eradication of wild polioviruses and sequential cessation of oral polio vaccine use(GAPⅢ)が2014年に刊行された。このGAPIIIでは, 封じ込めの具体策, ウイルス保有施設に求められる要件などバイオリスクマネジメントの詳細が示されるとともに, 特定の型のウイルスの封じ込めに連動した, 経口生ワクチンの切り替え(型の配合や不活化)といった, 根絶後をにらんだ, より具体的な方策が踏み込んで明示されることとなった。

わが国では, 平成24(2012)年よりポリオウイルスの経口生ワクチンから不活化ワクチンへと切り替えを行い, 平成27(2015)年, ポリオウイルスの保管状況調査の協力依頼や, 不必要なポリオウイルスの廃棄の周知・協力依頼を行ってきた。さらに, 平成30(2018)年からは, これまでの感染症法に基づく急性灰白髄炎の発生届(2類感染症)に加え, 急性弛緩性麻痺(acute flaccid palarysis: AFP)についても5類感染症全数の届出としてサーベイランスを開始している。さらに, GAPIIIの主要テーマでもある, 実験室封じ込めについては, 国内のポリオウイルス保有認証施設の候補施設を絞り, その認証に向けた国内体制確立に向けた準備を進め, 認証プロセスを開始したところであり, 対応を進めているところである。

また, ポリオウイルスそのものの保有状況に加え, ポリオウイルスが含まれる可能性がある試料〔ポリオウイルスの感染性がある可能性がある試料(potentially infectious materials: PIM)〕についても, その試料の特徴によってはポリオウイルスに準じたバイオリスクマネジメントによる管理(あるいは不要なものは破棄)が求められ始めている。本年, 以前のポリオウイルス保管状況調査に協力いただいた施設を中心に, PIMの所有状況を調査しWHOへ報告したところである。

おわりに

今後は, ポリオウイルス根絶に向け, 具体策を進めていくことになるが, ポリオウイルス保有施設の認証に向けた手続きなどを進めるとともに, PIMについても, より広い範囲の実験室等への情報提供を行い, 今後の調査や対応の円滑化を図る必要がある。

 

参考文献
  1. IASR 30: 181-182, 2009
  2. 厚生労働省健康局結核感染症課長通知, 「世界的なポリオ根絶に向けた, 不必要なポリオウイルスの廃棄について(周知及び協力依頼)」(健感発1211第1号), 平成27年12月11日
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/polio/dl/topics_20151211.pdf
  3. 厚生労働省健康局結核感染症課長通知, 「ポリオウイルス保管状況の調査について(協力依頼)」(健感発1217第1号), 平成27年12月17日
    https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000128661.pdf
  4. 厚生労働省 ポリオ(急性灰白髄炎)
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/polio/
  5. The Global Polio Eradication Initiative(GPEI)
    http://polioeradication.org/
 
 
厚生労働省健康局結核感染症課 医療専門職(IDES5期)
 吉見逸郎
Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan