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Clostridioides difficile感染症に対する糞便移植を含めた治療について

(IASR Vol. 41 p46-47: 2020年3月号)

はじめに

Clostridioides difficile感染症(CDI)は抗菌薬使用等により腸内細菌叢の数や種類が減少し, 菌交代現象が生ずることにより発症する。CDIの治療は, メトロニダゾールやバンコマイシン等の抗菌薬治療が主流となるが, 繰り返す再発例に対しては, 近年腸内細菌叢の攪乱(dysbiosis)を劇的に回復させる糞便移植(fecal microbiota transplantation: FMT)が欧米で行われるようになった。本稿では, FMT含めたCDIの治療を概説する。

CDIの治療適応

「2歳以上で, ブリストル便形状スケールが5(軟便)以上の下痢を認め, CDI検査にて便中のトキシンが陽性もしくはトキシン産生性のClostridioides difficileを分離するか, 大腸内視鏡やその病理組織にて偽膜性腸炎を呈する」 CDIが治療適応となる1)

一般的にブリストル便形状スケールは3-5が正常と言われているが, 少しでも軟便(5以上)になればCDIを疑う。また糞便中トキシン検出の有無やCDIの重症度と便形状は相関しないと報告されている2)。世界保健機関 (WHO) は, 下痢を「24時間以内に3回以上もしくは平常時よりも多い便回数で泥状または水様便」3)と定義しているが, CDI患者は排便が自立していない高齢者が多く, 便回数が正確に把握できないことも多いため, わずかでも軟便になればCDIを疑うことが必要である。また, 重症例の麻痺性イレウスや中毒性巨大結腸症を呈する場合は下痢を認めないこともあるので注意が必要である1)

新生児(生後1か月以内)の無症候性保菌率は70%にのぼり, 2歳以下では33%と報告されている。これは腸内細菌が未成熟で防御的な細菌叢がないためと言われる4)。従って, 2歳未満の下痢患者では, まずその他の感染症や非感染性下痢症の原因を調べ,異常がなければCDI検査は推奨されない。一方, 成人でも無症候性キャリアは多いため, 症状がなければ便中トキシン陽性でも治療は不要である。また, 各種細菌学的検査は偽陰性, 偽陽性があるため, 症状や経過を鑑みて診断, 治療することが重要である。

CDIの治療

CDIの治療の前に, まず使用中の抗菌薬を可能であれば中止し, 脱水や電解質の補正が必要であれば輸液を行う。

抗菌薬治療は, 外来で治療できる軽症例であればメトロニダゾール(1回500mgを1日3回)を10日間内服が医療経済的に勧められる。ただ, メトロニダゾールに対し副作用を生じる場合や, 妊婦・授乳婦にはバンコマイシン(1回125mgを1日4回)を10日間内服させる1)。血清アルブミン3g/dL以下, 末梢血白血球数15,000/mL以上, 血清クレアチニン1.5mg/L以上, 腹部圧痛があるような重症例ではバンコマイシン(1回125mgを1日4回) の10日間内服が勧められる。さらに38.5℃以上の発熱, イレウス, 腹部膨満, 血圧低下, 巨大結腸症, 意識障害等の合併症例ではバンコマイシン1回500mgを1日4回内服, メトロニダゾール点滴静注500mgを1日3回内服, 胃管投与困難例ではバンコマイシン1回500mg/100mL生理食塩水を1日4回注腸する。それでも奏功しない場合は外科切除も考慮する5,6)

初回再発例には, 初発時と異なる抗菌薬や超狭域スペクトラムのフィダキソマイシン(1回200mgを1日2回) を10日間経口投与を行う。2回目以降の再発例にはバンコマイシンのパルス・漸減療法(125mgを1日4回10~14日間, 125mgを1日2回7日間, 125mgを隔日7日間, 125mgを2~3日ごと2~8週間)を行う6)。ただ, フィダキソマイシンや抗菌薬治療中に単回点滴静注するトキシンBに対するモノクローナル抗体(ベズロトクスマブ) は再発率を半分に抑制すると報告されているが, バンコマイシンのパルス・漸減療法を含め, いずれもdysbiosisをきたした消化管微生物叢を回復させる治療ではない。

FMTは2013年にvan Noodらが単回投与で81%, 複数回投与で94%の劇的な再発抑制効果と腸内細菌叢の多様性回復を示した報告7)を皮切りに世界中に広まっている治療法である。米国やオランダでは全国規模の糞便バンクが設立され, 再発性CDIの治療に用いられている。投与経路は大腸内視鏡による右側結腸への投与と上部消化管内視鏡や経鼻胃管・十二指腸ゾンデからの投与どちらでも有効であると言われている。便は排泄後6時間以内に処理し, 30g以上が必要である。また, CDIの治療に嫌気的条件下での便処理は必須ではなく, 新鮮便でも凍結便でもCDIに対する効果は同じと報告されている8)。当院でも, 再発性CDI症例に対しドナーがみつからない場合の事態に備え, 糞便バンクを用いたFMTを行っている(特定臨床研究jRCTs041190021)。一方, 2019年に米国で骨髄異形成症候群の高齢男性が造血幹細胞移植前後に研究目的で内服した経口カプセルによるFMT後に基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌による敗血症を発症し, 2日後に死亡した事例が報告された9)。この死亡事例はドナースクリーニングが適格に行われていれば防ぐことは可能であったと思われ, しかるべき施設で厳格なスクリーニング検査を行った後にFMTを行うことが肝要である。

当院のFMTの現況

当院では, 3回以上再発したCDI患者6例にFMTを施行した。全例下痢症状は改善し, 再発していない。また, FMT後に腸内細菌のα多様性, 便中有機酸濃度もドナー便レベルまで回復したことを確認している。1例劇的に改善した症例を提示する。

90代の女性。既存症:認知症。セフェム系抗菌薬の内服後に下痢を発症。全身状態は悪化し, 物盗られ妄想や昼夜逆転といった精神症状が出現。メトロニダゾール, バンコマイシンの内服投与を行うも, 6回再発をきたしたため, FMT目的で当院に転院となった。転院当時は寝たきりで, 話すこともできなかったが, 孫の便を移植した結果, 2週間後にはつかまり立ちで歩けるようになり, その後上述の妄想等の精神症状が消失し, テレビのニュースの話までするようになった。また手の震えがとれ, 自分で箸を使って食事がとれるまでに改善した。FMT半年~1年後には, むしろ便秘がちとなり下剤を内服するようになった。夜間睡眠がとれ, デイケアセンターに通えるようになり, 家人の介護の負担も軽減された。便の解析ではFMT後にα多様性がドナーレベルまで回復し, 便中の酪酸・酢酸などの短鎖脂肪酸濃度も増加していた。

上述のようにFMTはC. difficileをeradicateする治療ではなく, 腸内微生物叢ならびにその代謝産物を回復させることによりC. difficileを制御する治療法である。今後, 手法やドナーの選択に改良を重ねる必要はあるが, 日本でも先進医療を経て, 再発を繰り返すCDIに対しFMTが日常診療で行える時代が到来するものと期待される。

 

文 献
  1. ClostridiumClostrioidesdifficile感染症診療ガイドライン: 杏林舎, 2018
  2. Caroff DA, et al., J Clin Microbiol 52: 3437-3439, 2014
  3. World Health Organization. Health Topics, Diarrhoea
    https://www.who.int/topics/diarrhoea/en/
  4. Sammons JS, et al., JAMA Pediatr 167: 567-573, 2013
  5. Surawicz CM, et al., Am J Gastroenterol 108: 478-498, 2013
  6. McDonald LC, et al., Clin Infect Dis 66: 987-994, 2018
  7. van Nood E, et al., N Engl J Med 368: 407-415, 2013
  8. Cammarota G, et al., Gut 66: 569-580, 2017
  9. DeFilipp Z, et al., N Engl J Med 381: 2043-2050, 2019
 
 
藤田医科大学消化管内科学 大宮直木
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