国立感染症研究所

IASR-logo

2019年大阪市の大型商業施設で発生した麻疹集団発生事例の概要と対応

(IASR Vol. 41 p57-58: 2020年4月号)

端緒および事例の概要

2019年2月9日市内医療機関より大阪市内区保健福祉センターへ麻疹疑い患者の届出があり, 2月10日, 大阪健康安全基盤研究所でウイルス遺伝子検査(PCR検査)を実施したところ陽性となり, 麻疹と確定した(発端例)。同2月10日, 大阪府より大阪市保健所へ, 府下保健所管内で麻疹患者が発生しているとの一報があり, 疫学調査の結果, 2名はいずれも発症前に大阪市内の同一の商業施設で勤務していたことが判明し, 同一感染源からの曝露が考えられたため, 当該施設での集団発生と考え, 対応を開始した。調査の結果, 当該施設内で感染したことが疑われる麻疹患者(従業員, 客, 関連事業者)は, 近隣自治体からの届出患者を含め, 計25名確認された()。検出された麻疹ウイルスの遺伝子型はD8であった。保健所・保健福祉センターは, 関係機関と連携して感染拡大防止策を行い, 当該施設内で麻疹患者との最終接触者発生から4週間が経過した2019年3月28日をもって終息したと判断した。

記述疫学

本事例では発端例の発症日(2019年2月3日)から終息と判断された2019年3月28日までに麻疹として届出がなされ, PCR検査あるいは抗体検査により麻疹と診断された患者のうち, 発症前3週間以内に当該商業施設への訪問歴があった患者を「当該施設関連麻疹患者」と定義した。また, 患者の病型分類は以下のとおり定義し, 疫学調査での症状経過の聞き取り結果から分類した。

典型麻疹:38℃以上の発熱, 全身性の発疹, 1つ以上のカタル症状(咳, 鼻汁, 結膜炎)の3症状すべてを満たすもの

修飾麻疹:①もしくは②を満たすもの

①前述の典型麻疹の3症状のうち1症状もしくは2症状を満たす

②37℃台の発熱または体熱感, 限局性の発疹, 1つ以上のカタル症状, のうち1症状以上を満たす

当該施設関連麻疹患者は計25例で, 従業員13例(52%), 客11例(44%), 関連事業者1例(4%)であった。年齢中央値は22(範囲17~52)歳, 病型分類は, 典型麻疹7例(28%), 修飾麻疹17例(68%), 不明1例(4%)であった。麻しん含有ワクチン接種歴は無・不明11例(44%), 1回有8例(32%), 2回有6例(24%)であった。ワクチン接種歴別の病型は, 接種歴2回有の6例はいずれも修飾麻疹で, 1回有では8例中1例(13%)が, 接種歴無・不明では11例中6例(55%)が典型麻疹であった。転帰について, 入院を要したと報告された患者は2例(8%)で, ワクチン接種歴無もしくは不明の患者であった。PCR検査陽性であった21例中, 同定不可あるいは不明の3例を除く18例すべてD8型であった。

疫学調査の結果, 2月3~14日の間に発症した患者(従業員および客)23例のうち, 従業員12例中11例(勤務歴不明1例)および客11例中10例で, 1月25, 26, 27日のいずれかに当該施設での勤務歴もしくは利用歴があった。初発例(感染源)は特定されていないものの, 1月25, 26, 27日のいずれかで感染源との接触があったものと推定された。他の客1例は2月3日のみ当該施設への訪問歴があり, また2月20日, 2月28日に発症した患者(関連事業者と従業員)の2例は, それぞれ発症前3週間以内に当該施設での勤務歴が複数日あり, これら3例は感染可能期間内に勤務歴があった患者(従業員)からの二次感染例と推定された。また, 当該施設関連麻疹患者4例から家族・職場関係者への二次感染6例の報告があった(0歳児1例を含む)。感染源となった4例に2回のワクチン接種歴のあった者はいなかった。本事例での三次感染例の報告はなかった。

対 応

保健所・保健福祉センターは, 感染拡大防止策として患者の行動調査と接触者調査を実施した。施設の全従業員を接触者と判断し, 施設の協力のもと, 文書配布や館内アナウンスにより健康観察, 有症状時の出勤自粛要請と受診勧奨, 受診時の注意点, 未接種・未罹患者へのワクチン接種勧奨について周知徹底した。感染可能期間内に施設で勤務歴のあった患者(従業員)の不特定多数の接触者(客等)について, 2月11日より終息日まで全10回報道発表を行い, 注意喚起を行った。また, サーベイランス強化のため近隣自治体や医療従事者等との密な連携が必要であり, 2月21日より終息まで全7回, 文書(取扱注意)で, 近隣自治体や大阪府内医師会等に対して情報発信を行った。文書には, ホームページで未公表の追加情報(事例の発生状況, 患者の居住区もしくは市, 推定感染源, PCR検査実施状況等)も含めるとともに, 医療従事者へ麻疹の診療・対応における協力を依頼した。2月22日に国立感染症研究所の専門家と対策会議を行い, 対応に関して助言を得た。

考察とまとめ

本事例は大型商業施設内での集団発生であり, 近隣自治体を含む広域な対応を要し, 関係機関との連携が重要な課題となった。通常よりも詳細な疫学情報や患者情報を関係機関と共有することで連携強化に繋がったと考えられた。また, 麻疹ウイルスに曝露される頻度が高いと考えられる従業員などへの麻しん含有ワクチン接種の啓発が重要と考えられた。

 
 
大阪市保健所     
 金井瑞恵 岡田めぐみ 津田侑子 植田英也 浅井千絵 小向 潤
 藤森良子 藤原遥香 春見 真 桑原 靖 廣川秀徹 吉田英樹

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version