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海外の麻疹―2019年の流行状況について

(IASR Vol. 41 p59-60: 2020年4月号)

世界保健機関(WHO)は, 分類する6地域のうち, 少なくとも5地域において麻疹・風疹を排除することを本年2020年までの目標に掲げている。しかしながら, 昨年2019年における症例報告数は未だ519,490例もあり流行が継続している1)。麻疹ウイルスは24の遺伝子型に分かれているが, 現在は世界的にみてB3およびD8の2種の遺伝子型が症例の大多数を占めており, ウイルスの遺伝子型のみで各国における土着株であるかの判別は難しい状況にあると考えられる。本稿では2019年の6地域における麻疹流行状況およびその遺伝子型について報告する。

アメリカ地域(AMR)では, 2019年1月~2020年1月までに14カ国から麻疹の流行が報告されており, その症例報告数は, 19例の死亡例を含む20,430例であった2)。特に大きな流行は2018年に続きブラジルで発生し, 大都市サンパウロを中心に15例の死亡例を含む18,037例の症例報告があった(2018年:10,326例)。2018年に大規模な流行の発生したベネズエラ(5,668例)からは, 3例の死亡報告を含む548例の症例報告があった。流行しているウイルスの遺伝子型は, D8型であった。米国では1992年以来の大規模な流行が発生し, 31州から1,282例の症例報告があった3)。感染者の多くはワクチン未接種者で, 検出されたウイルスの遺伝子型はD8型, B3型であった。

ヨーロッパ地域(EUR)からは, 102,794例の症例報告数4)があり, 2018年よりも増加していた(2018年:88,693例)。最も症例数の多い国は, 2018年に続きウクライナで, 全体の半数以上を占めていた(57,128例)。流行の多くは, カザフスタン(12,348例), ロシア(3,995例), ジョージア(3,916例), トルコ(2,785例), キルギスタン(2,246例), ウズベキスタン(1,963例), ルーマニア(1,616例)など, 東ヨーロッパ, 中央アジア諸国を中心に発生していた。流行しているウイルスの遺伝子型はD8型, B3型であった。西ヨーロッパでは前年に続きフランスにおいて大きな流行が発生し, 症例報告数は2,614例にのぼった(2018年:2,919例)。フランスにおける感染者の多くは4歳以下の乳幼児, 15~39歳の青年層で, ワクチン未接種または接種歴が不明の者が多かった。検出されたウイルスの遺伝子型はD8型, B3型であった。

西太平洋地域(WPR)における症例報告数は65,304例で, 2018年に比べて倍増していた(2018年:30,454例)。フィリピンでは, 2018年(22,862例)に続き, WPR全体の症例報告数の70%を占める大流行が発生した(47,868例)。死亡報告数の割合も高く, WPR全体(76例)の80%を占める61例となっていた5)。感染者の多くは, 4歳以下の乳幼児, 15~39歳の青年層で, ワクチン接種歴が不明の者が多かった。ベトナムでは8,611例の症例報告があり, その数は2018年の約7倍にも達した(2018年:1,249例)。ほぼすべての感染者はワクチン接種歴が不明で, 感染者の多くが9歳以下の児童・乳幼児と25~39歳の青年層であった。2017年に麻疹排除認定を受けたニュージーランドでは, 2019年に2,177例の麻疹流行が発生した。感染者の多くがワクチン接種歴不明の15~39歳の青年層, 4歳以下の乳幼児であった。流行しているウイルスの遺伝子型は, フィリピン:B3型, ベトナム:D8型, ニュージーランド:B3型, D8型であった。

南東アジア地域(SEAR)での症例報告数は25,046例で, 2018年の報告数の1/3以下(89,388例)となった。これまでに当地域において最多の感染者数が報告されてきたインドでは, 2018年に9か月~15歳を対象とした1.7億人へのワクチンキャッチアップ対策を実行した6)。その結果, 症例報告数が劇的に減少して前年の1/10以下となった(75,162例→7,367例)。その一方で, バングラデシュ(4,774例), ミャンマー(5,343例), タイ(5,296例)では流行が続いている。そのため, バングラデシュでは, 2020年に9か月~5歳, ミャンマー, タイでは2019年にそれぞれ9か月~15歳, 1~12歳を対象としたワクチンキャッチアップ対策を予定, または実行した。流行しているウイルスの遺伝子型は, インドではD8型, ミャンマーではB3型が主流で, タイでは, B3型, D8型であった。

東地中海地域(EMR)の症例報告数は19,296例で, 2018年と比較して1/3にまで減少した(2018年: 57,960例)。特に症例報告数の著しい減少がみられた国はパキスタンで, 32,921例(2018年)から2,068例まで減少した。これは2018年5~10月にかけて行われた, 6か月~10歳未満の年齢層を対象としたワクチンフォローアップ/アウトブレイク対応の効果と考えられた6)。アフガニスタンおよびリビア両国でも症例報告数が著しく減少した(アフガニスタン2018年: 1,889例, 2019年:177例, リビア2018年:1,049例, 2019年:153例)。アフガニスタンでは, 2018年9~11月, リビアでは12月にそれぞれ9か月~10歳, 9か月~14歳を対象としたワクチンフォローアップを実施しており, 翌年の2019年に対象年齢の感染者数が減少したことが報告されている。流行しているウイルスの遺伝子型はB3型, D8型で, パキスタン, アフガニスタン, チュニジアではB3型が検出されている。

アフリカ地域(AFR)における症例報告数は2018年を上回る197,683例であった(2018年:55,951例)。最も症例報告数の多かった国はマダガスカルで, 報告数の65%を占める127,579例の大流行が発生した6)。次いで, ナイジェリア, コンゴ共和国でも10,000例を超える流行が発生している(ナイジェリア:27,990例, コンゴ共和国:13,418例)。マダガスカルの感染者の約90%は0~25歳以下で, ワクチン未接種/1回接種者であった。マダガスカルにおける0~25歳以下の第1期麻疹含有ワクチン接種率は63±8.3%で, 第2期の接種は実施されていない。このような状況から, マダガスカルでは, 2019年に9か月~14歳児, 2020年に9~54か月児を対象としたアウトブレイク対応/ワクチンフォローアップを実行, 計画している。マダガスカル, ナイジェリア, コンゴ共和国で流行しているウイルス遺伝子型はB3型であった。

 

参考文献
 
 
国立感染症研究所ウイルス第三部
 染谷健二 大槻紀之 竹田 誠

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan