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2019年に分離された腸管出血性大腸菌のMLVA法による解析

(IASR Vol. 41 p71-72: 2020年5月号)

国立感染症研究所(感染研)細菌第一部では2014年シーズンから腸管出血性大腸菌O157, O26, O111, 2017年からさらにO103, O121, O145, O165, O91について, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem repeat analysis:MLVA)法 による分子疫学サーベイランスを行っている。本稿では2020年3月25日時点における, 2019年分離株のMLVA法による解析結果をまとめた。

感染研に送付された腸管出血性大腸菌2019年分離株は3,097株(同時期前年比0.6%増;2018年6月29日付の厚生労働省事務連絡「腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について」に基づいて送付されたMLVAデータ286株分を含む)であり, このうち2,785株(90%)をMLVA法で解析し型名を付与した。各血清群における解析株数, 検出型数およびSimpson’s Diversity Index*(SDI)は, O157が1,701株, 719型, 0.996(0.994), O26が506株, 228型, 0.981(0.979), O111が164株, 86型, 0.960(0.980), O103が198株, 61型, 0.898(0.833), O121が78株, 39型, 0.947(0.913), O145が93株, 24型, 0.831(0.912), O165が4株, 4型, 1.00(1.00), O91が41株, 36型, 0.994(0.993)であった(カッコ内は昨年同時期のSDI)。株数の同時期前年比は, O157:3.4%減, O26:22%減, O111:91%増, O103:42%増, O121:50%減, O145:90%増, O165:増減なし, O91:17%増であった。

表1に血清群O157, O26, O111のうち検出された菌株数が多かったMLVA型およびその各遺伝子座のリピート数を示す。

MLVAでは, リピート数が1遺伝子座において異なるsingle locus variant(SLV)など, 関連性が推測される型をコンプレックスとしてまとめる様式をとっている。2019年は96のコンプレックスが同定された。

MLVA法によって試験した菌株に関し, 送付地方衛生研究所(地衛研)等(機関)の数に基づいて広域株の検索を行った。5以上の機関で検出された広域コンプレックスは15種類, コンプレックスに含まれないが5機関以上で検出された広域型は18種類であった。計632株が広域コンプレックス/型に含まれた。上位の当該コンプレックス/型および分離地域(ブロック)は表2に示す通りである。このうち, 2019年に発生した広域集団事例に関連した18m0541(本号610ページ参照), ならびに19c058(本号6ページの事例2参照)および19m6006について, 当該コンプレックス/型に含まれる菌株の分離地域およびMLVAに基づくminimum spanning treeをに示す。

MLVA法により迅速な菌株解析が可能となったことで, 集団事例および家族内事例における菌株の同一性, 散発例も含めた事例間の関連性および広域性の有無などの情報が, よりリアルタイムに還元できるようになってきている。MLVA法の結果に基づいて実施された自治体からの疫学情報の共有などから, 事例間のつながりが明らかにされるなど, 事例対応に有益であったことも少なからずあった。

上記事務連絡によって, 血清群O157, O26, O111について地衛研で実施したMLVAデータから直接MLVA型を付与し, 当該型の一覧をMLVAリストとして共有することが開始された。今後も迅速な菌株解析ならびに情報共有に努めていくので, 引き続き関係機関のご理解とご協力をお願いしたい。

*多様性を表す指数の一つ。0-1の範囲で1に近いほど多様性が高く, 0に近いほど多様性が低いことを示す。

 
 
国立感染症研究所細菌第一部        
 泉谷秀昌 李 謙一 伊豫田 淳 大西 真

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