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千葉県内知的障害者施設で集団発生した新型コロナウイルス感染症対応の経験

(IASR Vol. 41 p114-115: 2020年7月号)

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本全国で猛威を振るう中, 軽症患者のホテルでの療養などは整備されてはいるが1), 介護施設や障害者施設での発生事例における対応が問題となっている。施設入居者の多くは高齢者や障害者など, 重症化のリスクを抱えていることが多いが, 認知機能や精神発達遅滞などの問題から, 可能であれば環境を変えることなく対応することが理想的である。しかし, 施設内感染対策や重症化した際の対応など問題点が多い。

今回我々は, 障害者施設内で対応したCOVID-19集団発生事例を経験したため, 課題や解決策の一案を報告する。

発生状況

2020年3月28日, 千葉県東庄町の障害者支援施設「北総育成園」でCOVID-19の集団発生が判明した。当施設は, 知的障害者の入所支援を行っている船橋市の指定管理者制度導入施設であり, 入所者70名, 短期入所・通所者12名, 職員67名が所属していた()。

疑い症例を37.5℃以上の発熱, または咳嗽などの呼吸器症状をもつ者, 確定症例を千葉県衛生研究所または香取保健所等の県保健所で実施したreal time RT-PCRで陽性が確認された者と定義した。最終的に, 入居者70名のうち確定症例は54例, 疑い症例は9例であった()。PCR検査の感度が70%程度であることを考えれば, ほぼ全員が感染していたと考えられる2)

入居者の管理状況

精神発達遅滞など入居者の背景や症例数から, 入院管理は困難と判断し, 施設内で対応することとした。また, 入居者居室はそれぞれ個室であり, 濃厚接触者である入居者と, 確定症例の入居者を分けることも考えたが, 意思疎通困難から, 個室管理など適切な感染管理上の指示が入りにくい入居者がいたこと, 居室移動で精神的に不安定になる入居者がいたこと, 入居者を分けた介護が可能となる介護職員数の確保が困難であったことから, 区域ごとの行動制限に留め, 部屋の移動は不可能と判断した。

施設1階をグリーンゾーンとして対策本部を立ち上げ, 入居者, 職員が出入りする居住スペースはすべてレッドゾーンとし, 感染管理を徹底した。

朝夕の2回, 医師, 看護師数名で入居者を回診し状況を把握し, その後の全体会議で情報を共有した。

入居者の罹患している病気や内服薬, アレルギーなどを早期にまとめ, 情報を整理し, 新規の医療従事者の入居者の把握や, 入院時の情報提供に役立てた。

患者の転帰

63名が発症し, うち54例の確定症例が確認された()。入院は8名で, 死亡者は2名(致命率3.2%)であった。本施設に外部から支援に加わった医療従事者や事務員に発症者は認めなかった。

考 察

今回我々は, 入居者の背景と臨床症状から, 可能な限り施設内で管理し, 必要と判断した入居者のみを入院管理とする方針とした。

管理が成功する鍵として以下があげられる。

①対策本部の確立

入居者の健康状態把握とともに日々の介護を担う施設職員, 個人防護服などの物資の確保や全体の状況把握のための事務職員も大切である。また, 入居者家族や通所利用者など, 濃厚接触者や感染経路の把握も必要であるため, 保健所との連携も必須である。

②入居者の生活支援

入居者への食事提供やリネン・ゴミ回収, 清掃など, 少ない職員での対応に苦渋した。刻み食などが必要な入居者のため, 弁当調達に加え, 別施設で食事形態を調整してもらい対応した。汚染リネンは人員が整うまでは原則破棄として業者に回収を依頼した。

③確定症例, 疑い症例, 濃厚接触者の健康状態と健康管理

障害の程度, 基礎疾患, 内服薬の整理が必要と考え, 介入直後に情報を電子化し, 関係者と情報共有を図った。COVID-19は急激に呼吸状態が悪化する可能性があり3), 悪化時に病院を探すと治療介入が遅れてしまう可能性がある。特に今回のように意思疎通や行動制限が難しい場合には, 病院選定には時間がかかると予想された。そのため, 状態悪化時の受け入れ先病院を保健所との事前協議で決め, 朝の回診時に入院の必要性を判断し, 日中の搬送を徹底した。

入院の判断は, 体温以上に意識状態や呼吸数, 食事摂取量に基づき行った。38℃以上の高熱を認めた入居者も多かったが, 意識や呼吸状態が安定し, 食事摂取が最低限可能な者に関しては慎重に経過をみることで十分管理が可能であった。それに対して, 頻呼吸や意識が普段と比較し低下している者, 食事が2日以上摂れていない者は入院適応と判断した。入院した8症例では, 全例胸部CTで肺炎像が認められた。

④感染管理, 二次感染の防止

ゾーニングに加え, 入居者に接する職員全員が個人防護服の着脱や感染対策の基本的事項を理解する必要があり, 感染対策認定看護師を中心に訓練した。結果として, 外部から参加した職員に新規発症者は認めなかった。

課 題

施設で集団発生が起こった場合には, 入居者の体調管理とともに, 職員確保や物資供給, 感染管理訓練が必須である。また, 施設職員の感染によって, 入居者の状態の把握が困難となる。状態悪化時の受け入れ病院の体制も可能な限り事前連携をとり, 日々情報共有を行っておくことが望ましい。

 

参考文献
  1. 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡, 新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養または自宅療養の考え方について, 令和2年4月23日
  2. Fang Y, et al., Radiology, 2020 [PMID: 32073353]
  3. Huang C, et al., Lancet 395: 497-506, 2020
 
 
総合病院国保旭中央病院         
救急救命科 坂本 壮 伊藤史生 中村聡志
同感染症科 中村 朗 倉澤勘太     
同総合内科 山田悟史          
千葉県健康保健部 石出 広       
同香取保健所 井元浩平         
同衛生研究所 蜂巣友嗣         
国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP) 門倉圭佑           
同薬剤耐性研究センター第4室 山岸拓也

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