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宮崎県における日本紅斑熱と重症熱性血小板減少症候群の臨床的特徴の比較

(IASR Vol. 41 p137: 2020年8月号)

日本紅斑熱(JSF)と重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は西日本を中心に発生するダニ媒介感染症である。宮崎県はいずれにおいても高浸淫地域であり, 特にSFTSの国内発症517例のうち70例(13.5%)は宮崎県で発生している(2020年5月17日現在)。JSFとSFTSを媒介するダニの一部は共通しており, 発生時期は春から秋に多い。急性熱性疾患であり, 逸脱酵素上昇を伴うことが多いなど共通点が多く, その鑑別は容易ではない。いずれも致死的となり得るが治療法は異なり, 早期の診断と治療開始が重要である。SFTSとつつが虫病についてはその鑑別点を検討した研究が韓国から2報あるが1,2), JSFとSFTSについて論文化された研究はない。また, JSFはつつが虫病に比して血小板減少症や入院を要する頻度が高いことが報告されており3), 国内においてはJSFがSFTSの鑑別疾患としてより重要と考えられる。

JSFとSFTSの臨床的差異を明らかにする目的で, 2008年1月1日~2018年8月31日までに宮崎県の基幹病院4施設において外来または入院で加療したJSF40例およびSFTS41例を対象とした症例集積研究を実施した。SFTSにおいてfavipiravir投与例は対象から除いた。

患者背景:JSFは4~11月に発症しており, SFTSは通年にみられたが4~11月に多かった。平均年齢はJSF(70歳)よりSFTS(77歳)の方が高かった。性別や基礎疾患(糖尿病/高血圧/脂質異常症/心疾患/脳血管障害/慢性腎不全/慢性肝疾患/膠原病/悪性腫瘍/免疫抑制状態), 日常生活動作(ADL)に差はなかった。いずれの疾患も発症から医療機関受診までの平均日数は4日と同等であった。

症状・身体所見:発熱は両疾患でほぼ全例にみられた。刺し口がみられる割合はJSF(83%)に多く, SFTS(32%)に少なかった。皮疹はJSF(98%)では手掌・足底を含む四肢や体幹に出現するが, SFTS(24%)では少なく, 刺し口周囲が淡く発赤する程度で目立った皮膚症状を呈さないことが多かった。JSFでは意識障害(28%), 食欲低下(58%)や下痢(10%)といった消化器症状, 紫斑(3%)や口腔内出血(0%)といった出血症状がみられる頻度は比較的少なく, SFTSでは意識障害(51%), 食欲低下(98%), 下痢(54%), 紫斑(20%), 口腔内出血(20%)が高頻度であった。

血液検査所見:初診時の検査所見を解析した結果では, JSFでは白血球(7,250±4,150/μL)が好中球主体(85±10%)にやや増加し, SFTSでは高度に減少していた(白血球1,450±910/μL, 好中球58±17%)。血小板は両疾患で低下していたが, JSF(9.2±4.6万/μL)に比してSFTS(5.8±4.2万/μL)ではより高度であった。逸脱酵素上昇はSFTSで高度であったが, 腎機能には差はなかった。C反応性タンパク(CRP)はJSF(14.1±7.14 mg/dL)ではほぼ全例で上昇したが, SFTS(0.16±0.49 mg/dL)では二次感染症を併発した例以外は上昇しなかった。JSF(38.8±11.8 sec)に比してSFTS(46.4±14.6 sec)では活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が延長していた。

合併症と転帰:中枢神経合併症(意識障害/口音障害/振戦/痙攣)はJSF(33%)に比してSFTS(61%)に多くみられた。呼吸器合併症(細菌性肺炎/肺真菌症/肺出血)はJSF(3%)に比してSFTS(27%)で多かった。感染症(細菌性肺炎/肺真菌症/菌血症)の併発もJSF(3%)に比してSFTS(32%)で多くみられた。致命率はJSF(5%)よりSFTS(32%)で高率であった。

まとめ

県内の3次医療機関で後方視的に行われた検討であり, 重症例が多く集まる選択バイアスがかかっている可能性があったが, JSF, SFTSいずれの疾患でも死亡例および多くの合併症がみられた。血小板減少は程度の差はあるもののいずれの疾患でもみられた。両者の鑑別を考える場合に, 特徴的な皮疹やCRP上昇があればJSFの頻度が高く, それらがなく白血球減少症があればSFTSを第一に考慮すべきであると考えられた。

 

参考文献
  1. Kim MC, et al., Clin Infect Dis 661: 1621-1624, 2018
  2. Park SW, et al., BMC Infect Dis 19: doi: 10.1186/s12879-019-3773-1, 2019
  3. Sando E, et al., Emerg Infect Dis 24: 1633-1641, 2018
 
 
宮崎大学医学部附属病院    
膠原病感染症内科       
 川口 剛 梅北邦彦 岡山昭彦
宮崎県立宮崎病院内科     
 山中篤志          
宮崎県立延岡病院内科     
 山口哲朗          
宮崎県立日南病院内科     
 原 誠一郎

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