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繁華街Aホストクラブにおける風疹アウトブレイクへの対応

(IASR Vol. 41 p156-157: 2020年9月号)

探知と初動

2019(令和元)年8月2日, 都内保健所(以下, 保健所)に, 風疹の臨床診断例発生届出があり, 8月6日に, PCR法により風疹が確定診断された。患者は20代男性で, 繁華街AのホストクラブB(以下, B)に勤務していた。7月31日より発疹と発熱, 8月1日より頸部リンパ節腫脹を呈し, ワクチン接種歴は不明であった。保健所は, 店長による職場の健康観察を依頼したが, 当初は協力を得ることが難しく, 本人を通じて職場の健康観察を開始した。しかし, 8月15日, 16日, 23日にBの従業員の風疹発生届が保健所に提出され, 拡大中の集団発生と判断し, 8月26日に訪問調査を行った。

施設概要

Bは主に居酒屋, バー等が入居する雑居ビルの1フロアにあった。従業員数は約30人で, 1日平均20人程度が出勤していた。利用客数は, 1日約20-30人程度であった。主な客層は20代女性で, 特に風俗営業店に勤務する女性が多かった。室内は, 外気との換気はなく, 密閉性が高い状態であった。Bの勤務形態は, 日雇いで, 売り上げに応じた日給が支払われていた。店による健康管理は行われていなかった。

症例定義

症例は「2019年7月26日~8月25日の間に, Bの従業員または利用客で, 風疹ウイルスに対するPCR検査で陽性または風疹IgM抗体の検出により, 医療機関で風疹と診断された者」とした。

発生状況

従業員が第30週に1人, 第31週に1人, 第33週に3人発症し, 利用客は第33週に1人発症した()。性別は男性が5人(すべてB従業員), 女性が1人(利用客)であり, 年齢中央値は, 従業員が25.5歳(範囲21-32歳), 利用客が27歳であった。症状は, 発熱が6人(100%), 発疹が5人(83%), リンパ節腫脹が6人(100%)に認められた。重症例は認めなかった。ワクチン接種歴は全員不明であった。風疹ウイルスの遺伝子型は, 6人すべてが1E型であった。

対策および対応

保健所は8月26日に訪問調査し, Bの店長に風疹の特徴, 感染期間およびワクチンによる予防等を説明した。また, 女性客における風疹感染, 特に先天性風疹症候群(CRS)のリスクについて強調して伝え, さらに, 発熱などの症状を呈した従業員は, 出勤をさせず, 病院受診を勧めるよう指導した。風疹の周知と予防策の徹底を図るために, 休憩時に使用する喫煙室に風疹対策のポスターの掲示を依頼した。店長は, 繁華街Aの他のホストクラブでも風疹患者が複数発生していることについての認識があり, 対策の必要性は意識しており, 従業員全員へのワクチン接種も検討中で, 保健所の指導への理解も良好であった。

アウトブレイクの終息確認および経過

Bの症例数は第33~34週がピークで , 以降6週間の期間中に新規症例は認めなかった。9月30日(第40週)に終息と判断し, 調査を終了とした。なお, 2020(令和2)年1月31日の時点で, CRSを疑う症例の発生はなかった。

考 察

2019年4月中旬と6月中旬に, 繁華街Aにおける複数のホストクラブで風疹症例の発生数が増加した。利用客の大半が妊娠可能年齢の女性であったため, 彼女らの風疹罹患, ならびにCRSの発生が懸念され, 従業員や利用客への集中的な啓発活動や拡大防止策を必要とし, その一環として保健指導のために罹患者へ連絡を試みた。しかしながら, 店舗からの応答がない, 勤務先の情報が得られない, 管理者への健康観察の協力が十分得られない, 等のアプローチが困難な症例が少なからずみられた。繁華街Aには, 多数の風俗営業店があり, 効率的に風疹の情報提供を行う方法について検討したが, 行政として店舗を網羅的に把握する術がなく, 店舗の特定が不可能であった。このように, 調査・介入が困難であったことが, 繁華街Aの風俗営業店における風疹アウトブレイクの終息に, 時間を要した一因と考えられた。

保健所は, 本調査を行った店舗Bに対してのみならず, 風疹症例が発生した店舗に対し, 健康観察を依頼すると同時に, 啓発活動を行った。また, 許可が得られた店舗には, 直接説明に赴き説明や環境調査を行うなど, 可能な限りの活動を行った。

調査より, 店舗内での風疹集団発生には, 複合的な要因があると考えられた。1つは, 接触感染・飛沫感染を起こしやすい環境である。店舗室内には, 窓や換気扇がないため密閉性が高く, 換気が不十分になりやすいことがうかがえた。また, 寮で集団生活をしているケースでは, 密閉・密集・密接をもたらす環境に置かれやすく, 同居している者の間で集団感染になりやすいということが予測された。さらに, カラオケや掛け声など大声を出す, グラスの回し飲みを行う, 有症状でもマスクの装着が不可能である, という勤務中の状況も, 接触感染・飛沫感染をもたらす原因となったと考えられた。2つ目に, 労働形態の問題がある。日雇い労働・歩合制であることが多く, 体調不良により欠勤すると収入減となってしまうため, 有症状でも出勤してしまうことがしばしばある, ということであった。3つ目に, 風疹やワクチン予防可能疾患の知識がない者, ワクチン接種歴が不明な者が大多数であり, これも風疹症例拡大の一因の可能性となったと考えられた。さらに, 店舗同士の交流が盛んであることが, 複数の店舗にわたり感染の伝播が発生した一因となった可能性が考えられた。

本調査から, 風俗営業店の就労環境, 雇用形態, 従業員の背景等を勘案すると, 麻疹, 水痘, 結核, 侵襲性髄膜炎菌性髄膜炎, その他新型コロナウイルス感染症など, 未知の公衆衛生上重大な疾患が発生した場合, アウトブレイクの発生の可能性が否定できないと考えられた。また, 今後インバウンドの増加により繁華街Aの国際化がさらに進むとすれば, 輸入感染症の集団発生のリスクも考えられる。繁華街の風俗営業店が, 感染症アウトブレイクのハイリスクグループとして認識すべき群であると知りえたことは, 今回の事例の重要な気づきであった。

 
 
厚生労働省健康局結核感染症課
 岩本和世         
新宿区保健所保健予防課   
 井瀧まりや 島村実奈 平山葉月 平島萌子 カエベタ亜矢 高橋郁美

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