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外部精度管理事業(麻疹・風疹)

(IASR Vol. 41 p161-162: 2020年9月号)

感染症法1)に基づく感染症の検査施設においては, 感染症法施行規則2)第7条の3第2項第2号にて, 国などが行う外部精度管理調査への定期的な参加が規定されている。それに基づき, 2018(平成30)年度および2019(令和元)年度の厚生労働省外部精度管理事業として, 麻疹および風疹ウイルスの核酸検査の精度管理が実施された。本稿では, その結果について概説するとともに, 本事業から明らかとなった麻疹および風疹ウイルスの核酸検査における注意点について解説する。

麻疹および風疹ウイルス核酸検査の精度管理の概要

2018年度は, PCR法による麻疹および風疹ウイルスの核酸検出検査の精度について68施設を対象に調査した。麻疹ウイルス1検体および風疹ウイルス2検体を含む計5検体を盲検化して送付し, 各施設が実際に行っている方法に従って検査を実施していただいた。その結果, すべての施設において各検体の陽性・陰性判定の正答率は100%であり, 核酸検出検査に大きな問題が認められる施設は存在しなかった。

2019年度は, 麻疹および風疹ウイルスの遺伝子型解析の精度調査について68施設を対象に実施した。各施設に麻疹ウイルス1検体および風疹ウイルス1検体を送付し, 普段の検査と同様の方法でウイルス核酸配列を決定し, 遺伝子型解析を実施していただいた。その結果, すべての施設において遺伝子型の正答率は100%であり, 各ウイルスの遺伝子型解析に大きな問題は存在しなかった。

しかしながら両年度の精度管理において, 実際の検査の際に影響を及ぼしかねない軽微な問題点も存在した。その点について以下に解説する。

核酸検出検査の注意点

麻疹および風疹ウイルスの核酸検出検査については, 病原体検出マニュアルにてリアルタイムPCRまたはコンベンショナルPCRによる方法が記載されている3,4)。多くの施設において病原体検出マニュアルに記載の方法か, それを一部改変した方法にて検査を実施していた。麻疹ウイルスの検出にリアルタイムPCRを用いた中の1施設は, 病原体検出マニュアルに記載のものとは異なるプライマー・プローブセットで実施していたが, 5コピー/反応の陽性コントロールが検出できることを確認しており, 感度の点では同等であると判断できた。このように, 国立感染症研究所(感染研)の配布する陽性コントロール(参照RNA)などを使用して, 検査法の感度を確認しておくことは非常に重要である。

リアルタイムPCRにおける問題点として散見されたのは, 検査の成立および陽性・陰性の判断基準とする陽性コントロールの濃度が, 一部の施設で変更されていた点である。病原体検出マニュアルにおいては, 検査系の感度を担保するために, 50コピー/反応以下の陽性コントロールを使用し, その反応がCt≦40であった場合に試験が成立すると規定している3,4)。今回の外部精度管理事業では, 麻疹の場合は3施設, 風疹の場合は4施設において100コピー/反応以上の陽性コントロールを使用していた。各施設での検査感度を一定以上に保つため, 病原体検出マニュアルに記載の陽性コントロール濃度で使用し, 判定基準を守ることが推奨される。

コンベンショナルPCRによる麻疹および風疹の核酸検出検査には, Nested PCR法が採用されている3,4)。Nested PCR法は, 2回のPCR反応を連続的に実施することで感度が高まる一方, 1回目のPCR反応で増幅後のチューブを開ける際にクロスコンタミネーションが起こるリスクが生じる。陽性コントロールからのクロスコンタミネーションによる誤判定を防ぐ目的で, 感染研より配布している参照RNAには, 増幅領域に人工的な配列が挿入されており, 増幅サイズの違いで判別できるようになっている。しかしながら今回の外部精度管理事業においては, いくつかの施設で陽性コントロールの増幅サイズが検体の増幅サイズと同じであった。今後は, 感染研より配布している参照RNAを使用することが推奨される。

遺伝子型解析における注意点

一部の施設においては遺伝子型解析に必要な領域の塩基配列が一部解読不能なケースが認められた。データを確認したところ, (a)シグナル全体が弱い, (b)バックグラウンドが高い, (c)途中に大きなノイズが認められる, などが原因だった。これらの問題は, 鋳型となるPCR産物の品質(濃度や精製方法など)や, シークエンス反応後の精製方法の検討などで改善される場合がある。また, 定期的なシークエンサーのメンテナンスなどが解決の助けとなることもある。

麻疹ウイルスの遺伝子型決定領域はN遺伝子内の450塩基, 風疹ウイルスの遺伝子型決定領域はE1遺伝子内の739塩基である3,4)。正確な遺伝子型解析を行うため, 得られた塩基配列を上述の長さにトリミングする必要があるが, 回答として送られてきた配列情報には過不足が認められるケースがあった。特に, 風疹ウイルスの遺伝子型解析の際は, 上述の領域を2断片に分けてPCRおよびシークエンスを行い, その後に塩基配列を繋いで解析に用いることが多い4)。その際, 誤ったトリミングにより, PCR反応に用いたプライマー配列を遺伝子型解析に用いている例が散見された。プライマー配列は検体中のウイルス核酸情報を反映していないので, 2断片のうち, PCRプライマー配列に起因しない方の配列を解析に採用することは必須である。

麻疹および風疹の排除状態を評価する上で, 適切な検査および詳細な塩基配列解析が必要となっている5)。今後も定期的な精度管理を実施することで, 現状のような高水準の検査系を維持していくことが非常に重要であると考えられる。

 

参考文献
  1. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)
  2. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則(平成十年厚生省令第九十九号)
  3. 病原体検出マニュアル麻疹(第3.4版)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/measles.v3-4.2017Mar.pdf
  4. 病原体検出マニュアル風疹(第4.0版)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Rubella20190703.pdf
  5. WHO, WER 94: 301-307, 2019
 
 
国立感染症研究所ウイルス第三部
 中津祐一郎 森 嘉生 大槻紀之 竹田 誠

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