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3歳未満小児におけるインフルエンザワクチンの有効性:2018/19シーズン(厚生労働省研究班報告として)

(IASR Vol. 41 p204-205: 2020年11月号)

背 景

インフルエンザワクチンの有効性研究は, 「複数シーズンにわたり, 統一的な疫学手法で継続的に有効性をモニタリングする」という考え方が主流になっている。欧米諸国で採用されている疫学手法は, 症例・対照研究の一種であるtest-negative designである。検査確定インフルエンザを結果指標としながらも, 受診行動に起因するバイアスを制御できるという利点がある1-4)

厚生労働省研究班(研究代表者・廣田良夫)では, test-negative designにより, 小児におけるインフルエンザワクチンの有効性を継続的にモニタリングしている。2013/14~2017/18シーズンの5シーズンは, 6歳未満小児を対象に調査を実施した。2回接種の有効率は41-63%とすべてのシーズンで統計学的に有意であり, 接種により発病リスクが約1/2に低下するという一定の見解を得た5)。2018/19シーズンは規定接種量の少ない3歳未満小児に対象を絞り, これまでと同様の手法で調査を実施したので, 公表済みの研究班報告書に基づいて概要を報告する6)

方 法

デザインは多施設共同症例・対照研究(test-negative design)である。大阪府内あるいは福岡県内の小児科診療所で, 本研究への参加に同意した7施設が参加した。研究期間は, 各地域におけるインフルエンザ流行期である。

対象者の適格基準は下記の通りである。

①研究期間に, インフルエンザ様疾患〔ILI:38.0℃以上の発熱+(咳, 咽頭痛, 鼻汁and/or呼吸困難感)〕で参加施設を受診した小児

②受診時の年齢が3歳未満

③38.0℃以上の発熱出現後, 6時間~7日以内の受診

その他, 2018年10月1日の時点で月齢6か月未満の者などを除外した。

本研究のソース集団(研究対象者を生み出す集団)から研究対象者(病原診断の検査結果を有する者)を選定する過程で, 選択バイアス(selection bias)が生じることを回避するため3,4), 「偏りのない登録と検査」を達成しうる系統的な手順をとった()。登録時に, 対象者の個人特性に関する情報(含:インフルエンザワクチン接種歴)を収集するとともに, 全例から鼻汁を吸引し, real-time RT-PCR法でインフルエンザウイルス陽性の者を症例, 陰性の者を対照とした。条件付き多重ロジスティック回帰モデルにより, 「医療機関受診検査確定インフルエンザ」に対するワクチン接種の調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出し, ワクチン有効率は(1-OR)×100%で推定した。

結 果

研究期間中の登録総数は511人であった。PCR陽性者の内訳はA(H3N2)型が最多であり, 全国のウイルス分離・検出状況7)と一致していた。過去の調査での扱いにならい, データ解析段階で「地域のインフルエンザ定点当たり報告患者数が5人以上の期間」に登録された者に限定した結果, 最終解析対象は399人となった(平均年齢1.3歳)。

に, インフルエンザワクチン接種のORを示す。1回接種の調整ORは0.25(95%CI:0.04-1.55), 2回接種は0.53(95%CI:0.22-1.28)であり, 1回接種および2回接種ともにORが低下する傾向を認めた。ワクチン有効率は1回接種で75%(95%CI:-55-96%), 2回接種で47%(95%CI:-28-78%)であった。地域別にみても, 2地域ともに調整ORは低下する傾向にあるが, 統計学的に有意ではなく, 全対象者の結果と同様であった。

考 察

3歳未満小児における2018/19シーズンのインフルエンザワクチン有効率は, 検査確定インフルエンザに対して1回接種で75%, 2回接種で47%であった。いずれも発病を予防する傾向を認めたが, 統計学的に有意ではなかった。有意差を検出できなかった理由として, 結果的に流行期間外の登録となってしまった者が多く, 解析対象者が少なくなったことが挙げられる。さらに, 地域におけるサーベイランスデータと本研究における登録数の推移からみて, 福岡県において流行のピークを逃したことも大きく影響した可能性がある。

過去5シーズンの調査結果は6歳未満小児を対象としていたが, 1~2歳に限定したサブ解析では, 2回接種の有効率は55-80%であり, 今回の調査と同じくA(H3N2)型が主流行株であった2014/15シーズンと2016/17シーズンの有効率は59%と55%であった8-10)。いずれも発病リスクを約1/2程度に低下させたと解釈すると, 2018/19シーズンの有効率(47%)は過去の調査と比べて大きな違いはないと考えられた。

次シーズンも引き続き3歳未満小児を対象にワクチン有効性を評価する予定である。解析対象者数を確保し, 流行のピークを確実に捉えるため, 調査開始時期を適切に決定することが重要である。

 

参考文献
  1. Jackson ML, et al., Vaccine 31: 2165-2168, 2013
  2. Foppa IM, et al., Vaccine 31: 3104-3109, 2013
  3. Fukushima W, et al., Vaccine 35: 4796-4800, 2017
  4. Ozasa K, et al., J Epidemiol 29: 279-281, 2019
  5. 福島若葉ら, IASR 40: 194-195, 2019
  6. 福島若葉ら, 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性の臨床評価とVPDの疾病負荷に関する疫学研究 令和元年度総括・分担研究報告書: 60-68, 2020
  7. IASR 40: 177-179, 2019
  8. 福島若葉ら, 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究 平成28年度総括・分担研究報告書: 30-44, 2017
  9. 福島若葉ら, 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性の臨床評価とVPDの疾病負荷に関する疫学研究 平成29年度総括・分担研究報告書: 23-36, 2018
  10. 福島若葉ら, 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性の臨床評価とVPDの疾病負荷に関する疫学研究 平成30年度総括・分担研究報告書: 27-39, 2019
 
 
厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)
ワクチンの有効性・安全性の臨床評価とVPDの疾病負荷に関する疫学研究       
定点モニタリング分科会長:福島若葉  
(大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学)
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