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石川県における肝炎ウイルス検診陽性者に対するフォローアップシステム

(IASR Vol.42 p6-8: 2021年1月号)

 
はじめに

 C型肝炎ウイルス(HCV)およびB型肝炎ウイルス(HBV)感染は, 肝硬変, 肝がんの高リスク群であり, 肝炎ウイルス検査を行い(受検), 専門医療機関を受診し(受診), 抗ウイルス療法(受療)を行うことが重要である。この受検, 受診, 受療に加えて, 肝炎ウイルス陽性者について専門医療機関を継続的に受診する「フォローアップ」も極めて重要である。石川県では2002(平成14)年度から老人保健事業, その後の健康増進事業に基づいて市町村が実施した肝炎ウイルス検診陽性者を対象に, 検査を行った市町村の保健担当者がフォローアップを行ってきた。さらに2010(平成22)年度からは, 肝炎ウイルス検診陽性者のフォローアップを県内唯一の肝疾患診療連携拠点病院(拠点病院)である金沢大学附属病院が実施するフォローアップ事業「石川県肝炎診療連携」を開始した。

石川県肝炎診療連携開始の背景

 石川県では, 平成14年度から肝炎ウイルス検診を実施した市町村の保健担当者が, 肝炎ウイルス検診陽性者に対して毎年, 肝臓専門医への受診状況確認, 未受診者への受診勧奨を行ってきた。さらに平成22年度から, 石川県, 市町村および医師会の協力のもと, 肝炎ウイルス検診陽性者が, 少なくとも年1回, 石川県が選定した20の肝疾患専門医療機関(専門医療機関)を受診し, 肝臓専門医の診察, 肝画像検査を受けることを目的としたフォローアップ事業「石川県肝炎診療連携」を開始した。石川県肝炎診療連携は, 県内唯一の拠点病院である金沢大学附属病院が, 市町村に代わって直接フォローアップを行う(図1)。このフォローアップ事業の開始に当たり, 個人情報保護のため市町村が有する肝炎ウイルス検診陽性者の氏名, 住所などの個人情報を拠点病院へ直接移管できないことが問題となった。しかし, この事業に参加し, 個人情報を, 拠点病院と市町村とが共有することに関する同意書(図2)を, 市町村を通じて肝炎ウイルス検診陽性者に郵送し事業への同意を確認した。これにより拠点病院は, 同事業への同意を得られた肝炎ウイルス検診陽性者に対して直接アクセスすることが可能となった。

石川県肝炎診療連携開始の概要

 拠点病院は, 毎年7月に, 同連携参加同意者に対して専門医療機関受診を勧めるリーフレットと専門医療機関での診察内容を記載する調査票(図2)を直接郵送する。患者は, 調査票を持って専門医療機関を受診し, 診察を行った専門医療機関の肝臓専門医は, 診察を行った日, 実施した肝画像検査の種類, 今後の望ましい検査・治療方針などを調査票に記載する(図1)。同連携参加同意者が, 最初にかかりつけ医(非肝臓専門医)を受診した場合は, 調査票を紹介状として, 専門医療機関を受診することもできる。調査票は3枚複写となっており, 記載後かかりつけ医と拠点病院へ送付される。専門医療機関での診療内容は, 調査票を通じてかかりつけ医へフィードバックされる。また, 拠点病院では返送された調査票により専門医療機関の受診を確認し, 治療内容, 病態などをデータベース化している。さらに調査票の1回目の発送後, 同年の11月になっても拠点病院へ調査票の返送がない連携参加者に対しては, 12月頃, 再度専門医療機関の受診を勧めるリーフレットと調査票を郵送している。

 2019(令和元)年度末時点で, 平成14年度からの3,202名の肝炎ウイルス検診陽性者のうち, 同連携参加同意者は1,632名(51.7%), 参加拒否が525名(16.4%), 意思表示のない参加未同意者が1,045名(32.6%)である。参加未同意者1,045名に対しては, 同連携参加を呼びかけるリーフレットと同連携参加同意書を送付し続けている。なお, 同連携参加拒否および未同意者に対しては, 従来通り市町村が毎年フォローアップを行っている。

石川県肝炎診療連携のメリット

 石川県肝炎診療連携には, 患者側, かかりつけ医, 市町村保健担当者, 拠点病院, 石川県, それぞれにメリットが存在する。患者側のメリットとして, 受診忘れなどによる定期受診の脱落を予防できるだけでなく, 年に1回, 専門医療機関の受診を介して, 肝画像検査を受け, 肝臓専門医から最新の治療情報を得ることができる。さらに肝炎初回精密検査費用・定期検査費用助成制度を利用するためには, このフォローアップ事業への参加が必須である。かかりつけ医は, 肝炎ウイルス検診陽性者のフォローアップを専門医療機関に一任できるため, 訴訟リスクの回避が可能である。市町村の保健担当者は, 毎年のフォローアップを拠点病院に一任できるため, 業務の軽減が可能である。拠点病院および石川県は, 調査票の情報を解析することで, 肝炎ウイルス検診陽性者の動向を把握し, 適切な肝炎対策の遂行が可能である。例えば, 石川県肝炎診療連携に参加同意したHCV抗体陽性者495名中378名(76.4%)が抗ウイルス療法を施行され, 340名(68.7%)がウイルス駆除を達成していること, 49名(9.9%)に肝がんを発症していること, 24名が死亡(うち肝疾患関連死が9名)していること, などのデータを得ている。

おわりに

 石川県では, 拠点病院が直接肝炎ウイルス検診陽性者のフォローアップを行う石川県肝炎診療連携を行っている。同連携への参加をきっかけに専門医療機関を受診し, 抗ウイルス療法の導入や肝がんの早期発見・治療につながった症例が多数存在する。また当初は, 市町村が実施した肝炎ウイルス検診陽性者のみを対象としていたが, 現在は, すべての肝炎ウイルス検査陽性者が, 石川県肝炎診療連携へ参加することができる。しかしながら, いまだに石川県肝炎診療連携参加への意志表示のない方が存在する, また石川県肝炎診療連携に参加同意したにもかかわらず, 毎年の専門医療機関受診率が約50%に留まっている, といった課題も存在し, 今後, 解決が必要である。


 
金沢大学附属病院消化器内科
 島上哲朗 金子周一 

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