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C型肝炎からの肝発がん

(IASR Vol.42 p9-11: 2021年1月号)

 
わが国における肝細胞がんの増加と慢性C型肝炎

 わが国における原発性肝がんの死亡数は, 1970年代半ばに急速に増加し始め, 2005年頃にピークを迎えた。1989年のC型肝炎ウイルス(HCV)の発見を契機に保存血清を用いた研究によって, この増加が慢性HCV感染に起因することが明らかになった1)。後にTsukumaらが行ったコホート研究によって, C型慢性肝炎が高い肝発がんリスクを持つこと, 特に肝硬変でその傾向が著しいことが明らかになった2)

 に肝がんの罹患率が最も高かった2000年における50~79歳の肝細胞がん患者の背景肝疾患の内訳および一般人口のHBs抗原陽性者, HCV抗体陽性者割合を示す3,4)。当時は同年齢層におけるHBs抗原陽性者およびHCV抗体陽性者の割合は, それぞれ約2%, 3%であり, 合計5%の集団から実に肝細胞がんの80%が発生していた。

インターフェロンによる肝発がん抑止

 1992年にC型慢性肝炎に対してインターフェロンが保険適応となった。当時は単剤24週間投与のみが可能であったため, 血中HCV RNA持続陰性化(SVR)率は全体で30%, ゲノタイプ1型かつ高ウイルス量の患者においては, 6%に過ぎなかった。にもかかわらず2001年にリバビリンとの併用療法が保険適応になるまでに, 多くの患者が治療を受け, 1995年のNishiguchiらの無作為化比較試験5)を皮切りに, わが国から多数のコホート研究が報告された。そのうちの代表的なYoshidaらの報告結果をに示す6)。多変量解析によって, インターフェロン投与は肝発がんリスクを約50%に減少させること, その効果は主にSVRを達成できた患者にみられることが示された。さらに特筆すべきこととして, Tsukumaらによって示唆されたように, C型肝炎からの肝発がんリスクは肝生検で評価した肝線維化の程度によって詳細に層別化できることが明らかとなった。

 これ以後, C型肝炎治療は肝発がんの危険度を基準として, より医学的緊急度が高く, 利益が大きいと考えられる患者に推奨されるようになった。

直接作用型抗ウイルス薬による肝発がん抑止

 当初単剤, 短期間のみの保険適応であったインターフェロン療法であるが, リバビリンとの併用療法, 投与期間の拡大, ペグ化製剤の登場によって, 1型高ウイルス量であっても約50%のSVR率が期待できるようになった。一方でインターフェロン療法には, インフルエンザ様症状と呼ばれる発熱, 悪寒, 頭痛, 全身倦怠感に加えて, 白血球・血小板減少, 貧血, 消化器症状, 精神症状(うつ, 不眠), 間質性肺炎, 甲状腺機能異常等の副作用があり, 高齢者や線維化進展例には使いづらく, またこれらの患者ではSVR率も低率であった。そのような状況下で, ウイルス蛋白を直接阻害する直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antiviral:DAA)が開発された。当初, DAAはペグインターフェロン+リバビリン併用療法に加えて用いられていたが, 2014年に経口薬のみのダクラタスビル+アスナプレビル併用療法が認可され, 2015年に耐性変異を起こしにくいソフォスブビル/レジパスビルが登場すると, これまでインターフェロンの適応外とされていた患者や, インターフェロンでSVRに至らなかった患者の多くがDAAによる治療を受け, そのほとんどがSVRを達成した。

 DAAによってSVRが得られた場合にインターフェロンと同様に肝発がんを抑制できるかについては長らく議論があったが, フランスから多施設前向き研究が発表され, DAA投与によって肝発がん率は, 全体で34%, 肝硬変症例に限れば47%低下することが明らかになった7)

SVR後の肝発がん

 このように, ほとんどすべてのC型慢性肝炎患者でSVRを達成できるようになったが, 低率とはいえ, SVR後も肝発がんは起こる。SVR後の肝発がんリスク因子は, SVR前とほぼ同様であり, 高齢, 男性, 線維化進展例, AFP高値, アルコール多飲等である。SVR後も発がんリスクが経時的に下がり続けるのかについては明らかになっていないが, これまでの報告では, 少なくとも10年は一定の頻度で肝発がんが起こることが分かっており, 恐らく高危険群の場合は, 生涯肝がんサーベイランスを継続する必要があると思われる。一方で, SVR後の発がんが早期に診断できた場合の再発率は非SVRと比較して低率であり, 根治治療が行われた場合の予後も良好である。

 

参考文献
  1. Saito I, et al., Proc Natl Acad Sci USA 87: 6547-6549, 1990
  2. Tsukuma H, et al., New England Journal of Medicine 328: 1797-1801, 1993
  3. Yoshizawa H, Oncology 62 Suppl 1: 8-17, 2002
  4. 山岡 義ら, 肝臓 46: 234-254, 2005
  5. Nishiguchi S, et al., Lancet 346: 1051-1055, 1995
  6. Yoshida H, et al., Ann Intern Med 131: 174-181, 1999
  7. Carrat F, et al., Lancet 393: 1453-1464, 2019

 
東京大学大学院医学系研究科   
消化器内科学 建石良介 小池和彦 

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