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新型コロナウイルスワクチンの接種優先順位と副反応について

(IASR Vol. 42 p37-39: 2021年2月号)

 
新型コロナウイルス感染症の発生動向と重症化リスク

 世界保健機関(WHO)によると1), 2021年1月3日現在の感染者数は83,326,479人, 死亡者は1,831,703人にのぼる。国内では, 1月8日現在, 279,855人の感染者と3,995人の死亡者が報告されている2)。1月6日18時時点で, 20代の感染者数が最も多いが, 年齢が高いほど致命率が高い(80代以上12.0%, 70代4.8%, 60代1.4%, 50代0.3%, 40代0.1%)。また, 重症化のリスク因子として, 65歳以上の高齢者, 悪性腫瘍, 慢性閉塞性肺疾患(COPD), 慢性腎臓病, 2型糖尿病, 高血圧, 脂質異常症, 肥満(BMI30以上), 喫煙, 固形臓器移植後の免疫不全が挙げられている3)

新型コロナウイルスワクチンの接種優先順位

 これらの状況から, 厚生労働省において新型コロナウイルスワクチンの接種優先順位が定められた。上位に位置づけられる者として, 医療従事者等約400万人, 高齢者約3,600万人, 基礎疾患を有する者約820万人, 高齢者施設等の従事者約200万人, 60~64歳約750万人, 合計約5,770万人が挙げられた4)。医療従事者等から始まり, 高齢者, 基礎疾患を有する者, 高齢者施設等の従事者等への接種が検討されている。基礎疾患を有する者としては, 慢性呼吸器疾患, 慢性心疾患, 慢性腎疾患, 慢性肝疾患, 治療中の糖尿病, 鉄欠乏性貧血を除く血液疾患, 治療中の悪性腫瘍を含む免疫機能低下者, ステロイド等による免疫機能抑制療法中の者, 免疫異常に伴う神経疾患・神経筋疾患, 神経疾患・神経筋疾患による呼吸障害等, 染色体異常, 重症心身障がい者, 睡眠時無呼吸症候群, BMI30以上の肥満, 等が挙げられている。

新型コロナウイルスワクチンの副反応

 2021年1月現在, 国内で接種が想定されているワクチンはmRNAワクチンが2種類, ウイルスベクターワクチンが1種類である。

 ファイザー社のmRNAワクチンについては, -75℃±15℃での保管が必要とされる。21日間隔で2回接種するが, 1回接種後より2回接種後のほうが有害事象の発現割合が高かった5,6)。最も高い頻度で認められた有害事象は接種部位の疼痛であった。全身性の有害事象としては, 軽度から中等度の発熱, 倦怠感, 悪寒, 頭痛であった。その他, 筋肉痛, 関節痛が認められた。発熱については, 通常, 発症から1日以内に改善したが, 1回接種後より2回接種後の頻度が高かった。ほとんどすべての局所反応と全身性反応は接種後2日目までにピークに達し, 7日目までに改善した。18~55歳と比較すると, 65~85歳のほうが有害事象発現頻度は低い傾向が認められた。検査結果では, 一時的なリンパ球数の減少がみられたが数日以内に解消した。

 武田/モデルナ社のmRNAワクチンについては, -20℃±5℃での保管が必要とされる。28日間隔で2回接種するが, 1回接種後より2回接種後のほうが有害事象の発現割合が高い傾向があった7,8)。主な有害事象は, 接種部位の疼痛, 倦怠感, 発熱, 悪寒, 頭痛, 関節痛, 筋肉痛, 等であった。18~55歳と比較すると, 56歳以上のほうが有害事象発現頻度は低い傾向が認められた。症状は通常, 接種日またはその翌日に発生し, 早期に消失した。

 アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンについては, 2~8℃での保管が必要とされる。28日間隔で2回接種する。主な有害事象は9), 接種部位の疼痛, 発熱, 悪寒, 筋肉痛, 頭痛, 倦怠感, 等であった。最も多く報告された全身反応は倦怠感と頭痛であった。なお, 予防的にパラセタモール(アセトアミノフェン)を使用することにより疼痛, 発熱, 悪寒, 筋肉痛, 頭痛および倦怠感が有意に減少した(p<0.05)。接種後の局所反応と全身反応の重症度と強度は接種後1日目で最も高かった。検査結果では, 一時的な好中球減少症が観察された。

 海外では既に接種が始まっているが, ファイザー社ならびにモデルナ社のmRNAワクチン接種に関連したアナフィラキシーが3例報告された10,11)。ワクチンには多くの成分が含まれているが, その中でポリエチレングリコール(PEG)またはポリソルベートについてはアレルゲンとしての可能性が想定されている12)。米国食品医薬品局(FDA)は, 即時型過敏反応を治療するための薬剤が必要であることを製品情報に追加するように要求した10)。また, 初回接種で重度のアレルギー反応を認めた場合, ワクチン成分に対する過敏症のある患者はワクチン接種不適当者にすべきであるとのアドバイスがなされた。英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)も接種を受ける人を対象に, 様々な情報提供を行っている13)

 新型コロナウイルスワクチンに限ったことではないが, 接種に際しては, 血管迷走神経反射による失神の可能性にも注意する必要があり, 接種後15~30分は, 接種医療機関で体調を観察することが望ましい。重篤な副反応は報告されていないが, 臨床治験段階では稀な副反応は探知することが困難であることから, 接種後1カ月以内の健康状態には十分な注意が必要である。接種直後のアレルギー反応や血管迷走神経反射のみならず, 中長期的な反応についても監視が重要となる。また, 被接種者がその後, 感染を受けた時の症状についても注視していく必要がある。

 接種後の健康状況調査を実施するとともに, ワクチンによる副反応が疑われる症例については, 予防接種法に基づく副反応疑い報告書の提出が義務づけられている。これらの報告を精査し, 迅速な対応に繋げていく必要がある。

 

参考文献
  1. 世界保健機関(WHO),
    https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports
  2. 厚生労働省,
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
  3. 診療の手引き検討委員会, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第4.1版
    https://www.mhlw.go.jp/content/000712473.pdf
  4. 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会
    https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_127714.html
  5. Walsh EE, et al., N Engl J Med, 2020
  6. Mulligan MJ, et al., Nature, 2020
  7. Jackson LA, et al., N Engl J Med, 2020
  8. Anderson EJ, et al., N Engl J Med, 2020
  9. Folegatti PM, et al., Lancet, 2020
  10. Garvey LH, et al., Br J Anaesth, 2020
  11. California Department of PublicHealth
    https://www.cdph.ca.gov/Programs/OPA/Pages/NR21-021.aspx
  12. 米国CDC,
    https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/safety/allergic-reaction.html
  13. Medicines & Healthcare products Regulatory Agency,
    https://www.gov.uk/government/publications/regulatory-approval-of-pfizer-biontech-vaccine-for-covid-19/information-for-uk-recipients-on-pfizerbiontech-covid-19-vaccine

 
国立感染症研究所感染症疫学センター      
 多屋馨子

 

 

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