印刷
IASR-logo

東京都での新型コロナウイルス感染症への対応(2020年)―感染状況と医療提供体制のモニタリング体制について

(IASR Vol. 42 p43-45: 2021年2月号)

 
はじめに

 感染症対策における基本的な対応は, 感染予防を第一に(予防接種等), 早期に発生を探知し(感染症サーベイランス), 病原体を特定して(検査), 感染源を断ち(隔離・消毒), 感染症の特徴に応じた拡大防止策を迅速に行い(疫学調査・保健指導等), また, 感染した患者の重症化防止や早期回復を図ること(医療提供)であり, 被害を最小限にするための体制を整えることが重要となる。

 今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策において, 感染症法に基づく従来の感染症サーベイランスでは把握が難しかった「検査陽性率」, 「療養状況」, 「重症者の動向」なども併せて, 感染状況と医療提供体制を評価し, 具体的な対策につなげる体制を立ち上げたので報告する。

モニタリング体制について

 1. 緊急事態宣言下のモニタリング

 2020年4月に発出された最初の緊急事態宣言下において, 東京都では緊急事態措置による外出自粛等を徹底し, 感染を最大限抑え込んだ。そして, 新たな感染者の発生が減少する中, 感染症防止と経済社会活動の両立を図るという, 今後の「新しい日常」社会の実現に向けたロードマップを5月22日に公表した1)

 このロードマップでは, 適切なモニタリングを通じて感染拡大の兆候を把握した場合には, 都民に警戒を呼び掛けるなど, 感染拡大防止を徹底していくことを盛り込み, 7つのモニタリング項目(①新規陽性者数, ②新規陽性者における接触歴等不明率, ③週単位の陽性者増加比, ④重症患者数, ⑤入院患者数, ⑥PCR検査の陽性率, ⑦受診相談窓口における相談件数)を設定した。これらの項目のうち, ①~③については目安となる数値を設定し, 外出自粛・休業要請等の段階的な緩和や再要請, およびアラート発動を判断する目安とした。

 モニタリング項目を使用して感染の状況を検討した上で, 5月26日に緊急事態宣言の解除が行われ, 6月12日には都内事業者への休業要請を全面的に解除した。

 2. 新たなモニタリング体制の構築

 (1)モニタリング項目の設定

 緊急事態宣言に伴う緊急事態措置が終了し, 都では, 新型コロナウイルスと共に生きていく「ウィズコロナ」という新たなステージに移行した。これに伴い, これまでモニタリングしてきたデータとの連続性に加え, 都民が感染の状況や変化について理解し, 適切な「自衛」策を講じられるよう, 分かりやすく情報発信するという観点から, 新たなモニタリング項目を設定することとした。

 新たな項目については, 「医療提供体制維持のための都内感染状況把握」を目的に, 医療需要を示す「感染状況」と医療供給を表す「医療提供体制」の2区分とし, 計7項目を設定した。「感染状況」については, 医療需要にダイレクトにつながる「新規陽性者数」に加え, 潜在需要を示す「#7119(東京消防庁救急相談センター)における発熱等相談件数」と市中感染の状況を示す「新規陽性者における接触歴等不明者」の数と増加比を設定, 「医療提供体制」については, 検査体制の整備状況を示すものとして「検査の陽性率」を, 医療機関等の受け入れ体制を示すものとして「救急医療の東京ルールの適用件数」, 「入院患者数」および「重症患者数」を設定した(図1)。

 (2)専門家による評価

 従来のように判断の目安とする数値は設けず, モニタリング項目に加え, 関連する様々なデータも考慮しながら, 都内の状況を専門家が総合的に分析し, 都はそれを踏まえて, 柔軟に対応することとした。具体的には, その週のデータに基づき, 感染症の専門医, 救急医療の専門医, リスクコミュニケーションの専門家等からなる専門家チームにより項目ごとに状況分析がなされ, 都内の感染状況と医療提供体制それぞれについて「総括コメント」として4段階で評価が行われる(図1, 図2)。モニタリング項目の分析・総括コメントは, 都のホームページ上に最新のものを掲示し, 疫学情報をまとめたグラフとともに閲覧および入手可能である2)

 (3)モニタリング会議の設置

 モニタリング分析の結果は, 「専門家によるモニタリングコメント・意見」として, 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議において専門家チームから報告される。報告された感染の状況を踏まえ, 都として必要な対策を検討し, 対応を決定している(図2)。2020年7月1日からの試行を踏まえて, モニタリング会議は7月9日から本格実施され, 以後, 毎週開催されている(2020年12月30日現在)。会議は公開とし, メディア等の各種広報媒体を通じ, 広く都民に周知されている。

 (4)モニタリング分析に基づく対応の具体例

 2020年12月30日のモニタリング会議での報告に基づく対応を一例として示すと, まず, モニタリング分析では, 感染状況・医療提供体制とも, 4段階のうち最高レベルの4段階目で, 専門家からは, 新規陽性者数は急速に増加しており, 医療提供体制が逼迫し, 危機的状況に直面しているとの指摘があった3)。これを受け, 「東京は, いつ感染爆発が起きてもおかしくない非常に厳しい状況にあり, 年末年始での感染を抑えなければ, ますます, 厳しい局面に直面し, 緊急事態宣言の発出を要請せざるを得なくなる」ことから, 人流を抑え, 人と人との接触を避けることを最も重要なポイントとして, 都としての対応策を打ち出した。

 都民・事業者の方々には, 人の動きを抑えるための, 徹底した取り組みを小池都知事よりお願いした4)。「年末年始ステイホーム」の実施, 忘年会・新年会の中止, 帰省や初詣の自粛, 年明けのテレワークやオンライン授業のさらなる推進のお願いのほか, 若い方への夜間の外出自粛もアナウンスした。

 また, 英国や南アフリカ共和国で発生した変異株ウイルスの都内での発生状況を把握するため, 都独自にウイルスの遺伝子解析を開始し, 政府には, 入国時の検査体制の強化や, 入国者の行動管理の徹底などの水際対策と, 罰則規定や財政支援などを盛り込んだ特別措置法の早期改正を, 改めて強く要望した。

 このようにモニタリング分析の結果に基づいて, 都民に必要な呼びかけをするなど, 対応の強化を図っている。

おわりに

 東京都では, COVID-19に関する各種データを収集し, 分析結果から現状を客観的に評価する部分を専門家チームが担い, 専門家チームのモニタリング結果を踏まえ対策につなげるという体制をいち早く確立し, 実践している。専門家と連携し, 継続したモニタリングを行い, 現状の評価に基づく公衆衛生上の対策や介入を速やかに実行することで, 感染拡大の抑制につなげていくことが重要である。

 謝辞:専門家としてモニタリング項目の分析評価を担当する東京都新型コロナウイルス感染症医療アドバイザーの皆様, 新型コロナウイルス感染症の対応を最前線で担う医療機関, 保健所, 検査所, 東京消防庁等, 関係機関の皆様に深謝する。

 ※救急隊による医療機関選定において, 5医療機関への受け入れ照会または選定開始から20分程度以上経過しても搬送先が決定しなかった件数

 

参考文献
  1. 東京都ホームページ, 報道発表資料, 東京都新型コロナウイルス感染症対策本部2020年5月22日, 新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップの策定について(第382報), 「新しい日常」が定着した社会の構築に向けて
    https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/05/22/11.html
  2. 東京都福祉保健局ホームページ, 最新のモニタリング項目の分析・総括コメントについて
    https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/monitoring.html
  3. 東京都防災ホームページ, (第26回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和2年12月30日)
    https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1009676/1012612.html
  4. 東京都ホームページ, 小池知事「知事の部屋」/記者会見(令和2年12月30日)
    https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/governor/governor/kishakaiken/2020/12/30.html

 
東京都福祉保健局       
 杉下由行 石丸雄二 矢沢知子

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan