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SARS-CoV-2不検出検体における呼吸器感染症ウイルス検索―秋田県

(IASR Vol. 42 p46-48: 2021年2月号)

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が2020年2月1日に指定感染症に定められて以降, 全国の地方衛生研究所等で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の遺伝子検査が実施されている。当センターでは2021年1月11日現在で92名の陽性者を確認しているが, 検査対象の大部分はSARS-CoV-2不検出であり, 他の呼吸器感染症が疑われた。これら不検出例を対象に, 他の呼吸器感染症ウイルス等の検索を行ったので報告する。

対象と方法

 2020年2月14日~12月31日までに当センターに検査依頼のあった2,100名中, COVID-19確定患者70名および濃厚接触者等で無症状者の1,044名を除いた有症者986名を対象とした。

 検査はインフルエンザウイルス(Flu), RSウイルス(RSV), ヒトメタニューモウイルス(hMPV), パラインフルエンザウイルス(PIV), ライノウイルス(HRV), エンテロウイルス(EV), ヒトコロナウイルス(cHCoV), アデノウイルス(AdV), ヒトボカウイルス(HBoV), 肺炎マイコプラズマ(Mp)を対象に, AdVはconventional nested-PCR, 他はreal-time PCRにて実施した。

結果と考察

 重複感染例を含め有症者986名中195名からいずれかの病原体が検出され, 検出率は19.8%であった。若年層で検出率が高く, 80代以上の高齢者で低い傾向がみられた(表1)。高齢者の呼吸器症状には, 基礎疾患や細菌性感染症等の関与も大きいことから, 本検討においてもこれらウイルス性感染症以外の患者が多く潜在していたと考えられた。

 病原体別では, HRV 114例(検出率11.6%), cHCoV 58例(5.9%), hMPV 10例(1.0%), HBoV9例(0.9%)の順に多く検出された(表2)。HRVは期間を通じて検出されたが, 10~11月に検出率の増加がみられたことから, 同時期に県内で流行が拡大していたものと推察された。cHCoVも継続的に検出されたが, 6月以降に検出率は減少しており, cHCoVの冬季流行性1)を支持する結果となった。

 次いで, 同期間に病原体定点観測調査として採取された呼吸器検体からのウイルス検出結果と比較した(表3)。本検討は主に成人(対象者の86.6%)を対象としていたが, 全検出数に占めるcHCoVの割合は主に小児を対象とした病原体定点観測調査の1.5倍であった。これまでcHCoVは軽い鼻かぜ程度の病原体とされてきたが, COVID-19が疑われる患者からも検出されたことで, 成人の呼吸器感染症における主要な病原体の1つと確認された。また, 病原体定点観測調査では1例も検出されなかったhMPVが, 本検討では3番目に多く検出された。陽性例が採取された2~4月はhMPVの流行期(3~6月)に重なっており, 秋田県内でも広く流行していたと推察された。病原体定点観測調査においては, 迅速診断キットの普及により医療機関で容易に診断が確定することから, 検体提供が抑制されていた可能性が考えられた。一方で, 病原体定点観測調査では全検出例の15.2%を占めたAdVが, 本検討では2例(10代1例, 30代1例)のみの検出であった。小児では40℃近い高熱や肺炎等, 重症例からの検出も多い一般的なウイルスであるが, 成人に対する病原性および感染性は低い可能性が示唆された。

 COVID-19が疑われた高熱や肺炎を訴える患者の中に, HRVやcHCoV等, 一般的な呼吸器感染症ウイルスの関与が認められたことからも, 県全体の感染症対策を行うにあたり, 総合的な感染症対策の重要性が改めて確認された。

 
参考文献

 
秋田県健康環境センター            
 柴田ちひろ 佐藤由衣子 樫尾拓子 齊藤志保子 藤谷陽子
 秋野和華子 斎藤博之 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan