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アシネトバクター属菌の薬剤耐性機構と検査

(IASR Vol. 42 p51-52: 2021年3月号)

 

 アシネトバクター属菌は, ブドウ糖非発酵, 非運動性の偏性好気性グラム陰性桿菌である。土壌や河川などの自然環境中に広く分布し, 現在報告されている60以上の菌種の多くが自然環境菌とされる。ヒトの臨床検体からの分離はAcinetobacter baumanniiが最も多く, 次いでAcinetobacter pittii, Acinetobacter nosocomialisなどが報告される1)。臨床上A. baumanniiが特に重要な菌種とされており, 中でもA. baumannii国際流行株(international clone)とよばれる系統株は, 多剤耐性傾向を示し, アウトブレイクを引き起こしやすいとされ2), 国内でも複数の院内感染事例がある。

菌種同定
3)

 生化学性状に基づく同定方法ではアシネトバクター属の種レベルの分類は困難であり, A. baumannii, A. lwoffiiなどの菌種名が報告された場合でも, 必ずしもその菌種とは限らない。正確な種レベルの同定には塩基配列解析が必要である。16S rRNA配列は菌種間の多様性が低いため適さず, rpoB遺伝子配列解析が最もよく用いられる。A. baumanniiの簡易鑑別法として, 本菌種が染色体に保有するOXA-51-likeカルバペネマーゼ遺伝子をPCR法で検出する手法が有用である。MALDI-TOF MSによる微生物同定では, 菌種レベルの同定が可能とされているが, 一方で必ずしも塩基配列解析に基づく同定菌種名とは一致しなかったとの報告もあり, データベース拡充等によるさらなる精度向上が期待されている。なお, 感染症法の届出には必ずしも種レベルの同定を求められておらず, アシネトバクター属の確認ができていればよい。

アシネトバクター属の薬剤耐性機構

 フルオロキノロン耐性には, 染色体上に存在するDNAジャイレースやトポイソメラーゼⅣのキノロン耐性決定領域(QRDR)のアミノ酸置換を引き起こす遺伝子変異が主に関与する。アミノグリコシド耐性には, 16S rRNAメチラーゼであるArmAのほか, アミノグリコシド修飾酵素(APH, AAC, AADなど)の産生が関与する。カルバペネム耐性には, 主にカルバペネマーゼ産生が関与する。表1にアシネトバクター属で報告のある主なカルバペネマーゼ遺伝子を示す。OXA-51-likeカルバペネマーゼ遺伝子は, 前述のとおりA. baumanniiの染色体上に存在し, プロモーター配列を有する挿入配列(ISAba1など)が上流に挿入されることで発現量が上昇し, カルバペネム耐性に寄与する。その他は, 外来性に獲得する遺伝子である。報告頻度は, OXA-23-likeをはじめとするOXA型カルバペネマーゼが世界的に最も多い。OXA型に比べるとメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)の報告は少ないが, IMP型やTMB型は主に日本4), NDM型は主に海外で報告がある。ただし, MBL産生株はフルオロキノロン系やアミノグリコシド系に感性の株も多く, 多剤耐性株に限定すると, 日本国内分離株であってもOXA型が主流である5)。腸内細菌科細菌で実施されるカルバペネマーゼ産生性試験であるmodified carbapenem inactivation method(mCIM)は, アシネトバクター属では感度が低く推奨されないため, CIMTris6)などのアシネトバクター属に適する変法が考案されている。

薬剤感受性試験における注意点

 感染症法に基づく薬剤耐性アシネトバクターの検査所見として, アミノグリコシド系抗菌薬であるアミカシンの薬剤感受性の基準が定められている。ただし, 臨床現場に普及している複数の自動薬剤感受性測定装置のうち, Vitek2(ビオメリュー社)はアシネトバクター属のアミカシン耐性株を正しく判定できない場合があり, 添付文書や結果報告書にも注意事項として記載されている。これはアシネトバクター属における主要なアミカシン耐性機構の1つである16S rRNAメチラーゼをコードするarmA遺伝子を有する菌株で主にみられる現象である7)armA保有株は, 微量液体希釈法, 寒天平板希釈法, Etest, ディスク拡散法など, Vitek2とは異なる手法で測定した場合は, アミカシンに耐性を示す(表2)。国内分離株においてもarmA遺伝子はしばしば検出されるため8), Vitek2を用いて薬剤感受性試験を実施した場合は, 必要に応じてEtestやディスク拡散法等による試験を追加実施することが望ましい。

 

参考文献
  1. Matsui M, et al., Antimicrob Agents Chemother 62(2): e02190-17, 2018
  2. Diancourt L, et al., PLoS One 5: e10034, 2010
  3. Vijayakumar S, et al., Future Sci OA 5(6): FS395, 2019
  4. 上地幸平ら, 日本臨床微生物学会雑誌 28(2): 83-97, 2018
  5. Matsui M, et al., J Med Microbiol 63(6): 870-877, 2014
  6. Uechi K, et al., J Clin Microbiol 55(12): 3405-3410, 2017
  7. Jung S, et al., Ann Clin Lab Sci 40(2): 167-171, 2010
  8. Tada T, et al., Antimicrob Agents Chemother 58(5): 2916-2920, 2014

国立感染症研究所薬剤耐性研究センター     
 松井真理 鈴木里和 菅井基行

 

 

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