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輸入型薬剤耐性菌に対する伝播防止の取り組みについて

(IASR Vol. 42 p53-54: 2021年3月号)

 
はじめに

 院内において国外で治療歴のある患者から薬剤耐性菌の検出を認め, 環境調査をはじめとする感染対策の強化と医療スタッフによる接触予防策の徹底を実施した。その結果, 当該患者からは定期的検査により薬剤耐性菌の検出は継続したが, 環境と他患者への伝播の防止が可能であった。伝播防止に取り組んだ経過と対策を報告する。

症 例

 50代日本人男性, 中国四川省滞在中に心肺停止となり, 心肺蘇生が施行されるも, 蘇生後脳症発症, 維持透析が必要な状態となり東京都内の病院に搬送され, その後当院に転院となった。

 当院入院43日目に喀痰よりカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)(菌種 Klebsiella pneumoniae)が検出され, その後, 尿から多剤耐性アシネトバクター(MDRA)(菌種 Acinetobacter baumannii)が検出された。CREの遺伝子型はblaKPCblaNDMであった(表1)。MDRAの耐性遺伝子型はblaOXA-23, blaOXA-66であった。

実施された感染防止対策

 環境汚染の拡がりを早期に押し止めるために, 1例目の発生から広島大学病院感染症科, 広島大学院内感染症プロジェクト研究センターと国立感染症研究所薬剤耐性研究センターのサポートを受けた。院内感染を確認するために, 1)接触者の保菌調査を行い, 院内伝播を防止するために, 2)入院後患者が使用した病室・検査室等の環境調査, 3)接触予防策の徹底と病院環境清掃・消毒, の3点を実践した。

 1)接触者の保菌調査

 接触患者は, ICUでは11名中入院継続患者が2名。透析室では24名中入院継続患者は1名。臨時の会議で協議し, 保菌調査は入院継続中の3名と決定し, 担当医の協力のもと, 同意を得て保菌検査を実施した。

 結果:3名のうち2名から, Klebsiella pneumoniaeが検出され, 1名は耐性菌なし, 1名はイミペネムのみ耐性で遺伝子検査でカルバペネマーゼ遺伝子は検出されなかった。CRE, MDRAの検出はなく, 当該患者からの伝播はなしと判断した。

 2)入院後患者が使用した病室・検査室等の環境調査

 入院当初治療していたICUと, 転棟先の一般病室, 一般病棟の注射準備室等と, 透析室, 胃ろう造設のために訪れた内視鏡室を含む84カ所を調査した。

 結果:84カ所のうち, 病室内の3カ所からMDRAが検出された(表2)。

 対応:マンシェットは使用後アルコール含有ワイプで清拭。尿収集カップは紙コップを使用し, 使い捨て。便座については, 尿破棄ごとに次亜塩素酸ナトリウム含有ワイプで表裏を清拭。再調査の結果, MDRAの検出はなかった。

 入院して約半年後に転院が決定し, 転院後の病室清掃は, 業者に特別清掃を依頼。搬送に使用した救急車は, 使用物品を確認し, アルコール含有ワイプで清拭。病室の環境調査の結果を確認し, 使用開始とした。

 3)接触予防策の徹底と病院環境清掃・消毒

 当該患者の対策:個室管理, 接触予防策の徹底, 6床ある透析室を当該患者のみが使用できるように関係診療科科長と看護部関係所属長が話し合い, 他の透析患者と交わらないように透析時間を調整した。

 接触予防策の徹底:個人防護具の着脱のタイミングを指導・確認し, 環境清掃の徹底は, チェック表を用いて, 統一した清掃を実施した。手指衛生は5つのタイミングを意識して行えるようにご家族にも説明し, アルコール手指消毒薬を使用していただいた。

 4)その他

 環境調査は国立感染症研究所薬剤耐性研究センター第三室で2回, 当院で2回の計4回実施した。最初の84カ所の調査場所から, 多剤耐性緑膿菌(MDRP)の検出もあり, 検出場所の清掃見直しや, 単回使用のブラシを導入し, 再調査の結果, MDRPの検出はなかった()。

 また, 病棟内, 病室と透析室を箕面市立病院感染管理認定看護師:四宮 聡先生にラウンドをしていただき, 指導を受け, 看護師, 臨床工学技士とともに一丸となって取り組むことができた。

最後に

 定期的な当該患者からの喀痰・尿検査では, CREとMDRAは検出が継続したが, 取り組んだ接触予防策と環境清掃の徹底により, 環境と他患者への伝播を防止することができた。

 謝辞:国内での検出が稀な遺伝子型を持つCREおよびMDRAが同時に検出されたが, 広島大学病院感染症科, 広島大学院内感染症プロジェクト研究センターおよび国立感染症研究所薬剤耐性研究センターの先生方と, 四宮 聡先生に多大なるご支援を賜り, 迅速な感染対策を実践することができました。皆様に深甚なる謝意を申し上げます。


 
独立行政法人国立病院機構呉医療センター感染対策室
 新開美香 

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