国立感染症研究所

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解説:Acinetobacter bereziniae

(IASR Vol. 42 p55-56: 2021年3月号)

 
はじめに

 多剤耐性アシネトバクター(MDRA)感染症や, アウトブレイク事例は, そのほとんどがAcinetobacter baumanniiによるものであり, それ以外のnon-baumannii Acinetobacterのヒトへの病原性やアウトブレイク報告の頻度は少ない。本稿ではnon-baumannii AcinetobacterであるAcinetobacter bereziniaeの病院における検出事例を提示し, 本菌について解説する。

経 緯

 1例目は胸部術後の男性。難治性細菌性肺炎を合併し, 各種抗菌薬の投与が続いていた。4カ月後に喀痰から3剤耐性のAcinetobacter spp.(MDRA)が分離された。その4カ月後に別病棟の術後患者の創部ガーゼより, 7カ月後に別病棟の肺炎患者の喀痰よりMDRAが検出されたが, いずれも保菌と考えられた。本菌は16S rRNA, rpoB遺伝子解析からA. bereziniaeと同定された。メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)陽性であった。環境, 他の入院患者からは同菌の検出はなかった。4年後, 肺炎患者の喀痰からの同菌検出があり, 以後, 複数の患者気道検体より同菌を検出した。環境調査では患者が入床していた病棟のシンク排水溝から同菌を検出した。標準予防策徹底, 環境整備等の対策を行い, 同菌の検出は終息した。pulsed-field gel electrophoresis(PFGE)による解析では, すべてが同一ではないものの, 近縁性が認められる株が存在した。

解 説

 Acinetobacter属は50以上の種から構成されているブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌である1)。本事例のA. bereziniaeは, 1986年にA. genomospecies 10として新種として認識され, 2009年にA. bereziniaeへと改名されたものである。

 本菌のAcinetobacter属の中での分離頻度は, 極めて低い。本邦のKishiiらの東京都の2病院の血液培養陽性Acinetobacter属の分析で2株/123株(1.6%)がA. bereziniaeであったことを報告している2)が, アジア・欧米においても同様の傾向がみられ, 臨床分離Acinetobacter属の数%を占めると考えられる。一方, MBL陽性Acinetobacterの中では, 本邦ではYamamotoらが, 2001年2月~2006年12月まで, 京都府, 滋賀県の5病院において収集した48株のMBL陽性株(全アシネトバクターの2.8%)のうち9株(19%)がA. bereziniaeであったことを報告している3)。また韓国でもカルバペネム耐性non-baumannii Acinetobacter 17株のうち2株(11.8%)がA. bereziniaeであったとの報告がある4)。カルバペネム耐性やMBL陽性株の中では一定程度を占めると考えられる。

 環境からは, 井戸, 牛乳, 野菜, 下水汚物, 環境表面, 肉, 動物, ヒトの皮膚などからの検出報告がある5,6)

 本菌による感染症事例については, これまでに, 基礎疾患がある患者の敗血症, 肺炎, 尿路感染症などの報告がみられる7,8)程度で, その病原性は弱いと考えられる。

 Acinetobacter属のアウトブレイク報告はA. baumanniiによるものが大部分を占め, non-baumannii AcinetobacterとしてはA. junii9,10), A. pittii11), A. nasocomialis12)等がみられるが, A. bereziniaeによるアウトブレイクは非常に稀である。

 環境中のnon-baumannii AcinetobacterはMBL, 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)などの多くの耐性メカニズムをもち6), 本菌属が自然環境における耐性遺伝子の蓄積場所となっている可能性がある。ことにMBLの存在は重要で, A. bereziniaeについても世界各地から様々なMBLの検出が報告されている()。

 A. bereziniaeは環境, 人体表面から検出され, その検出頻度, 病原性ともにA. baumanniiほどは高くはないが, 他のnon-baumannii Acinetobacterと同様に, 基礎疾患のある患者における感染病原体になり得る。最近まで自動分析装置やMALDI-TOF MSのデータベースに本菌がなく, 同定にはrpoB遺伝子配列決定などが必要であったが, 現在はMALDI-TOF MSによる同定も可能となっており, 今後その実態がより明らかになる可能性がある。また, 耐性遺伝子の保有株の存在にも注意が必要である。

 

文 献
  1. Vijayakumar S, et al., Future Sci OA 5: Fso395, 2019
  2. Kishii K, et al., Clin Microbiol Infect 20: 424-430, 2014
  3. Yamamoto M, et al., Clin Microbiol Infect 19: 729-736, 2013
  4. Park YK, et al., Int J Antimicrob Agents 39: 81-85, 2012
  5. Al Atrouni A, et al., Future Microbiol 11: 1147-1156, 2016
  6. Al Atrouni A, et al., Front Microbiol 7: 49, 2016
  7. Kuo SC, et al., J Clin Microbiol 48: 586-590, 2010
  8. Lee K, et al. Int J Antimicrob Agents 36: 259-263, 2010
  9. Vaneechoutte M, et al., Res Microbiol 146: 457-465, 1995
  10. Bernards AT, et al., J Hosp Infect 35: 129-140, 1997
  11. Horrevorts A, et al., J Clin Microbiol 33: 1567-1572, 1995
  12. van Dessel H, et al., J Hosp Infect 51: 89-95, 2002

鳥取大学医学部附属病院感染制御部
 千酌浩樹 上灘紳子 森下奨太 藤原弘光 高根 浩

 

 

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