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JANISデータからの知見

(IASR Vol. 42 p58-59: 2021年3月号)

 

 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の検査部門では, 参加医療機関で実施されたすべての細菌検査データを継続的に収集・集計し, 日本国内の主要な薬剤耐性菌の分離状況を明らかにしている。多剤耐性アシネトバクター(MDRA)について, 感染症法の判定基準を満たす株の分離された患者数(MDRA分離患者数)の2008~2019年までの推移を, 図1に棒グラフで示した。2017年からの3年間, MDRA分離患者数はそれぞれ80名, 99名, 98名であり, 同程度だと言える。図1の折れ線グラフは, MDRA分離患者数がAcinetobacter spp.分離患者数に占める割合であり, 2017年からの3年間は0.3%のままである。

 2018年と2019年のMDRA分離患者数の都道府県分布を, 図2の棒グラフに示した。どちらの年でもMDRAの分離された都道府県数は20弱であり, 約10の都道府県で両年ともにMDRAが分離された。図2の棒グラフには, MDRAの分離された医療機関が200床以上であるか未満であるかの内訳も示しており, 大半が200床以上の医療機関で分離されていることも分かる。JANISではこのように, 集計対象医療機関すべてのデータを集計して作成した公開情報に加え, 都道府県別および病床数別で公開情報を作成しており, 特定の耐性菌の分布を監視するのに有用である。なお, 図2の(●)は, MDRA分離患者数を検体提出患者数で割った分離率であるが, MDRA分離患者数は僅少の場合が多く, 分離率の値は非常に小さな値になる場合が多い。

 MDRAが分離される医療機関の特徴を明らかにするために, MDRA分離医療機関数あるいはMDRA分離患者数と病床数との関係について調べた。図3には, 医療機関の病床数を100床単位に区分して, 2019年のMDRA分離医療機関数(図3上)とMDRA分離患者数を(図3下)を示した。MDRA分離医療機関数は, 特に病床数と関連を示している訳ではなく, 例えば200床未満の小規模医療機関(図3上右)でMDRAが分離されやすい訳ではないことがわかる。一方, MDRA分離患者数は, 201-300床で28名, 601-700床で22名と多くなっているが(図3下), それぞれ図2で突出している山口県と長崎県での分離が大半を占めている。

 前述の感染症法のMDRAの判定基準とは, 具体的には, カルバペネム系〔IPM(Imipenem), MEPM(Meropenem)のいずれか〕が耐性, かつアミノグリコシド系のAMK(Amikacin)が微量液体希釈法で耐性, かつフルオロキノロン系〔LVFX(Levofloxacin), CPFX(Ciprofloxacin)のいずれか〕が耐性, である。カルバペネム系(IPM, MEPM)の耐性の判定基準は, MIC値≧16μg/mLである。これは, Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)2012 M100-S-22までの判定基準に準拠したものであるが, 2013年以降のCLSIではMIC値≧8μg/mLを耐性とする判定基準が採用されている。前者と後者の判定基準でそれぞれ集計した場合のIPM耐性株数, MEPM耐性株数を図4に示した。新しいMIC値≧8μg/mLの判定基準で集計すると, 耐性株数が20-30%多くなることが分かる。現在のJANISの公開情報・還元情報ではこれを見過ごしてしまうため, 2021年からは還元情報に, 新しいCLSI判定基準での集計結果の併記を行う。この変更を踏まえ, 参加医療機関が還元情報を院内での耐性株の分離状況の把握・監視に役立てていただければ幸甚である。


国立感染症研究所薬剤耐性研究センター 
 矢原耕史 川上小夜子 平林亜希 梶原俊毅 安齋栄子 藤村詠美 大木留美
 瀧 世志江 若井智世 青木貞男 柴山恵吾(併任) 菅井基行  

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