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白菜キムチを原因とする腸管出血性大腸菌O157の集団食中毒事例について

(IASR Vol. 42 p91-92: 2021年5月号)

 

 2020(令和2)年6月, 品川区内の製造施設が製造した白菜キムチを原因とする腸管出血性大腸菌(EHEC)O157〔VT1, VT2, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem repeat analysis: MLVA)型:17m0143〕による食中毒が発生したため, その概要を報告する。

1. 事案の概要

 令和2年7月10日, 港区みなと保健所に, EHEC感染症発生届が提出された。患者は7月6日より下痢, 腹痛等の症状を呈し, 調査の結果, 品川区内の施設で製造・販売された白菜キムチを7月2~4日にかけて喫食していた。

 また, 「7月3日に4名で夕食を喫食後, 1名が7月7日深夜から腹痛, 血便の症状を呈し救急搬送され, 検便の結果, EHEC O157が検出された」との届出が7月15日に品川区保健所にあった。患者調査の結果, ともに食事をした3名も, 7月4~13日にかけて下痢, 腹痛等の症状を呈しており, 患者が7月3日に購入した品川区内の施設で製造・販売された白菜キムチを4名全員が喫食していた。

 さらに, 当該施設が白菜キムチを自主回収したところ, 7月2日および7月3日に白菜キムチをインターネットで購入した3グループ9名が体調不良を呈していることが判明した。

2. 調査結果等

 調査の結果, 患者宅に保管されていた残品のキムチ1検体および患者3名の医療機関による検便3検体からEHEC O157が検出され, 遺伝子解析の結果, MLVA型が一致した。そして発症者14名のうち, 白菜キムチを喫食後1~14日以内に消化器症状を呈しており, 感染症を疑う情報がなかった10名をEHEC O157による食中毒の患者とした。

3. 汚染経路の考察

 施設では, 原材料の白菜の流水洗浄および塩素系漂白剤による殺菌を行っていなかった。また, 常温で塩漬け(26℃に設定したエアコンを使用)しており, 原材料に菌が付着していた場合, 適切に除去, 殺菌できず, その後の塩漬け工程で増殖してしまう可能性があった。さらに, 白菜キムチを製造する時間帯や製造場所を区分して調味料, 総菜, 食肉等を扱っており, 食肉からの汚染の可能性を否定することができず, 汚染源の特定には至らなかった。

4. 営業者への指導(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)

 営業者に対し衛生講習会を実施し, 漬物の衛生規範や過去のEHEC O157食中毒事例を用いて, 日常的な衛生管理の徹底や体調管理の記録を行うことの重要性について伝えるとともに, 食中毒の原因の一つと考えられる原材料の洗浄や消毒の実施, 塩漬け時の冷蔵保存について指導した。営業者は, 食品添加物の安全性や有効性の面から, 使用することに対して抵抗が大きく, 塩素系漂白剤による消毒を敬遠していた。そこで, 消毒の効果を確認することを目的に, 白菜(原材料), 白菜(水洗後), 白菜(水洗後消毒)および白菜(原材料水洗後消毒, 塩漬け)をそれぞれ収去し, 品川区保健所にて細菌検査を行った。その結果はの通りである。

 原材料の水洗いや消毒工程により細菌数, 大腸菌群数が減少し, 一定の効果が認められた。この検査結果を基に洗浄および消毒の重要性を改めて指導した。営業者は指導を受け作業工程を見直し, 原材料に使用する白菜の洗浄, 消毒工程を追加し, 塩漬け工程では冷蔵保管を行うこととした。

 さらに, 施設での衛生管理を向上させるために, 事業者は「漬物製造におけるHACCPの考え方を取り入れた安全・安心なものづくり(小規模事業者向け衛生管理の手引書)」を使用し, HACCPに沿った衛生管理に取り組んだ。保健所職員による助言を必要としたが, 手引書に様式や記入例が示されていたため, 事業者が内容を理解し, 最終的には衛生管理計画と記録の様式を自ら作成することができた。

5. 総 括

 本件は店頭だけではなく, インターネットで販売された食品であったため, 広域に発生したEHEC O157(VT1, VT2)による食中毒事件といえる。事件の探知は, EHEC感染症発生届によるものだが, その後, 同じ喫食歴を持つ別の患者が発生し食中毒の疑いが強まったため, 検便や食品の検査等の食中毒調査を行った。名古屋市の事例では, インターネットで同施設で製造された白菜キムチを購入し, 家族4名全員が発症した患者グループ(家庭内感染を否定できなかった1名を患者から除外)のEHEC感染症発生届が提出されたが, 共通食が多く, 当該患者グループのみの調査では, 原因の特定には至らなかったが, 当所からの調査依頼とMLVA型の一致によって本事例との繋がりが判明したものと思われる。本件においては, 探知時の患者は1名であったが, 患者への丁寧な喫食調査により, 当所へ調査依頼がなされたことで迅速な調査が可能となった。

 現在は新型コロナウイルス感染症の影響により, インターネットによる食品の販売について相談が多く寄せられており, 今後もインターネットを利用した広域流通食品が増えていくものと思われる。食品衛生法改正により, 2019(平成31)年4月1日から広域的な食中毒事案への対策強化が規定され, 国や都道府県等の円滑な連携が期待されるが, それを効果的なものにするためには, 各自治体の食品衛生監視員における食中毒調査の適切な聞き取り調査が必要不可欠である。加えて, 迅速な遺伝子検査とその共有が何よりも重要であると考える。


  
品川区保健所生活衛生課食品衛生担当
 小吹拓也 中村小津枝 神谷隼基 小澤 脩  

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