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保育園で発生した腸管出血性大腸菌O121による集団感染事例

(IASR Vol. 42 p93-94: 2021年5月号)

 

 2020年7月, 長崎市内の保育園1施設で発生した腸管出血性大腸菌(EHEC)O121:H19(VT2)による集団感染事例について, 概要および検査結果等を報告する。

 患者は3歳男児で, 2020年7月9日, 37.9℃の発熱・腹痛・下痢の症状があり, 同日市内の小児科を受診。その後解熱したが血便を呈したため再度受診し, 7月16日に発生届が出された。

 当所において, 当該患児, 患児家族4名, 患児が通園している市内保育園の職員21名, 園児81名(クラス:0・1, 2, 3, 4, 5歳児)の検査を行った。さらにその検査で陽性になった者の家族など接触者34名(11家族)の検査を行った。

 検査方法は, 増菌培養にノボビオシン加mEC培地(N-mEC), 分離培養にソルビトールマッコンキー寒天培地およびクロモアガーSTEC培地を使用した。スクリーニングとして一晩培養したN-mECからキレックス熱抽出でDNAを抽出してリアルタイムPCR法によりVT遺伝子の検出を行い(以下スクリーニングPCR), VT遺伝子陽性であった検体についてN-mECから分離培養を実施した。併せて当該患児と家族については, 直接の分離培養と, 増菌培養液から分離培養を並行して行った。菌不分離の検体については, 免疫磁気ビーズを用いてN-mECから集菌し, 再度分離培養を試みた。

 その結果, 当該患児の他, 保育園職員2名, 園児11名(9家族)および当該患児の家族2名からEHEC O121:H19(VT2)が検出された。この16株について, 国立感染症研究所に反復配列多型解析(MLVA)法による解析を依頼したところ, すべて, 17m5022で一致した。また, 検査中に園児の家族1名が発症し, 医療機関において陽性が確認されたが, 当該患児以外の当所で検査した140名はすべて無症状であった。当該患児は2歳児クラスであるが, 陽性者はクラスをまたいでみられ, 検査対象者のほとんどが無症状であったことや, 兄弟姉妹で通園している家庭が複数あることが関係しているのではないかと推測された。

 無症状者において, 免疫磁気ビーズを用いた場合においても発育が遅く, 1日以上経過してからコロニーが認められることが多く, スクリーニングPCRでVT(+)となったが菌不分離のものが職員, 園児, 接触者それぞれにみられた()。

 2018年に大分県で発生したEHECによる集団感染事例1)において, 無症状病原体保有者が多くみられたことや菌分離が容易でなかったことが報告されており, 本菌の特徴と考えられる。

 無症状であったことに加え, 幼児ということで抗菌薬の投与がなされずに陰性確認検査をすることとなり, 自然に陰性化を待つことになったため長期間排菌がみられた園児もおり, 最後の保菌者の陰性化を8月16日に確認し, 本事例は終息した。

 

参考文献

 
長崎市保健環境試験所 
 仁位和加奈 島﨑裕子 江原裕子 片上隼人  

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan