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バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)アウトブレイク発生時のスクリーニング

(IASR Vol. 42 p160-162: 2021年8月号)

 

 日本でのバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci:VRE)の感染症届出数は諸外国に比較し少ないが, 2020年には135例の届出があり増加傾向にある1)。当院では2018~2019年にかけてvanA遺伝子を保有したEnterococcus faeciumによるアウトブレイクを経験した。その間の新規陽性患者数は120人を超え, スクリーニング検査件数は24,000件を超えた。今回, アウトブレイク発生時に当院が実施したスクリーニング検査法について紹介する。

 Enterococcus属は腸管内常在菌であり, 便から検出されても通常は常在細菌叢の一部として薬剤感受性検査まで進むことはないが, アウトブレイク発生時にはそれが求められる。検体として提出される便にはVRE以外のEnterococcus属が混在しているため, VREを確実に検出するには, 培地中にバンコマイシン(VCM)が添加された選択培地への検体塗抹が欠かせない。スクリーニング検査で重要な要素は, ①高感度, ②簡便, ③安価, ④迅速性である。そこでまず検出感度を高めるためにbrain heart infusion(BHI)ブロスに抗菌薬を添加した検体前処理液を作製した。添加した抗菌薬はアズトレオナムとポリミキシンBで, 濃度はそれぞれ20μg/mLになるよう調整した。調整後の前処理液は滅菌スピッツに2mL分注し, 2週間以内に使い切るようにした。保菌検査に用いる検体は便, またはシードスワブ(栄研)に採取した直腸ぬぐい液とした。

検査法

 1. 抗菌薬添加前処理液にシードスワブを入れボルテックス後, 35℃, 30分間孵卵器で反応させ, 検体処理液とする。

 2. VRE選択培地(日本BD)を4分画し, そのうちの1分画に検体処理液を5μL定量白金耳で塗抹。35℃で48時間好気培養, さらに室温で48時間培養(図1)。

 3. コロニー観察は24時間ごとに行い, 疑わしい菌の発育が認められた時点でグラム染色を行う。そこで楕円形で短めのレンサ球菌であることが確認できたらVRE疑いとして血液寒天培地で純培養。その際塗抹面にVCMディスクを置き35℃, 5%CO2で6時間以上培養し阻止円形成の有無を観察。

 4. 阻止円の形成が認められなければVREとして検査を進める。菌液をマックファーランド(McF)0.5に調整し同定・感受性検査, およびEtest(ビオメリュー)によるVCM最小発育阻止濃度(MIC値)を求める。vanA遺伝子を保有している場合それぞれのMIC値は, VCMが64μg/mL以上, テイコプラニン(TEIC)は16μg/mL以上を示す(図2)。なお当院で採用している感受性パネルでは, VCMのMIC値は32μg/mLまでしか測定できない。そのためVCMに関してはEtestで測定している。

 当院が抗菌薬添加BHIを用いている理由は, 前処理の段階でグラム陰性菌(GNR)を殺菌し, VRE以外の菌が選択培地に発育してくることを徹底的に阻止するためである。VRE選択培地に限らず, 多くの選択培地には目的としない菌が発育してくることが多々ある。今回添加した抗菌薬は市販されているVRE選択培地に添加されているものと同じ抗菌薬であるが, BHIブロス内で30分間検体と反応させることで, ほぼ確実にGNRの発育を阻止できる。また発育してきた菌の純培養作業も容易である。当時608床だった当院で, 1日当たりVREスクリーニング検査だけで病床数とほぼ同じ数の検体を処理するには, 簡便かつ確実に検出できるこの方法は大いに役立った。VREの初検出から10件程度の菌株はパルスフィールドゲル電気泳動法で菌の相同性を検証したが, それ以降の検出菌についてはVCMとTEICのMIC値でvanA遺伝子保有を推定し, 併せて菌株の保存のみを行った。

 VREが入院中の患者から検出された場合, すでに院内感染が拡がっている可能性が高い2)。可能であれば全入院患者または疫学的関連のある病棟に入院中の患者すべてをスクリーニング対象とすることが望ましい2)。しかし現実的にわずか1件VREが検出されただけで, ここまで広くスクリーニングをかけることに対して臨床現場および経営部門から理解を得ることは難しい。また地域でVREが蔓延している場合, 入院時に行った保菌検査の結果が出るまで全員をVRE保菌者とみなし, 厳重な感染対策をとる必要が出てくる。このような新規入院患者の個室隔離またはコホート隔離はベッドコントロールを困難にし, 最終的には地域への良質な医療の提供をも困難にしてしまう。しかし, 院外からのVREを院内に入れることを確実に防ぐためには, 陰性確認は, 慎重に行うべきと考える。

 前述した方法ではVRE陽性の場合, 最短で検体処理の翌日にはVCMディスクでの阻止円形成の有無が確認でき, 迅速な報告ができる。一方, VRE陰性の最終報告は検体処理から4日後と遅くなる。VREを含め, 多くの抗菌薬への耐性を獲得している多剤耐性菌の増殖速度は, そうでない菌と比較し遅い3)ことが知られている。実際我々は検体処理後3日目にしてVREが発育してきた症例を経験している。

 また, 同日に行う入院患者一斉スクリーニング検査のメリットは, 病棟を移動する患者を逃すことなく把握できる点である。特に手術や検査のため病棟を移動する患者の多い急性期病院においては, 病棟単位でスクリーニング検査を行っていると陽性者が検査対象からもれる可能性がある。そのため, いったん患者の動きを止めて行う同日入院患者一斉スクリーニング検査は隔離予防策を確実, かつ早期に発見できるため, 非常に有用である。

 最後に, VREアウトブレイク中の同日入院患者一斉スクリーニング検査は月1回程度の間隔で実施し, ベンチマーク評価を継続していくことが望ましいと考える。検査間隔が長いと院内感染を見逃す可能性があることは言うまでもないが, 逆に短すぎるとコストと手間がかかり, 医療従事者の疲弊につながるためである。この定期的な同日入院患者一斉スクリーニング検査は各病棟の感染対策評価にもつながり, 実際当院では最初のVRE検出から10カ月後には新規院内発生者を0人にすることができた。

 

参考文献
  1. IASR 42: 100-101, 2021
  2. 鈴木里和ら, バンコマイシン耐性腸球菌我が国における院内感染対策事例と対策(青森県VRE対策会議資料)
  3. 石井良和, 環境感染誌 34: 282-286, 2019

八戸市立市民病院臨床検査科
 堀内弘子 

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