印刷
IASR-logo

バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の臨床・治療について

(IASR Vol. 42 p163-164: 2021年8月号)

 
臨床像

 入院中の患者は院内の環境, もしくは, 医療従事者・デバイスなどを介してバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci: VRE)を獲得したのち消化管内に保菌することが多く, その一部が発症する。VREの感染・保菌のリスク因子としては, 抗菌薬曝露歴(特に第3世代セファロスポリンやバンコマイシン), 在院日数, 重症度, 侵襲的デバイス, ICU入室, 長期介護施設入所, VREの保菌患者もしくは汚染された環境への曝露, などが知られている1,2)。VREが医療施設関連尿路感染症(特にカテーテル関連, ならびにカテーテル未使用例も含む)の重要な起炎菌であり, また, 血管内カテーテル関連血流感染症, 感染性心内膜炎, 腹腔内感染症, 皮膚軟部組織感染症, 骨髄炎, 髄膜炎, 手術部位感染症などの原因ともなる1,3)。メタアナリシスによると, VRE菌血症の致命率のオッズ比はバンコマイシン感性腸球菌に比べ, 1.8倍であった4)

 海外で医療曝露歴のある患者の入院に当たっては, VREの検出例も散見されることから, 保菌の有無の確認が終わるまでは, あらかじめの個室隔離・接触感染対策を行う5)

治 療

 保菌例は原則として治療の対象とならず, 感染症の発症例を治療対象とする。①感染巣の特定, ②主要な抗菌薬への感受性ならびにアレルギー歴の確認, が重要である。

 ①に関して, 感染性心内膜炎や髄膜炎の場合, 抗菌薬併用療法も含めた慎重な対応が必要になり, 感染症専門医への相談を推奨する。膿瘍を伴う感染症やカテーテル関連血流感染症など, 外科的ドレナージやデバイスの除去を行わないと, 抗菌薬のみでの治癒は困難な感染症もある。アンピシリン感性VREの治療において, アンピシリンは重要である。ペニシリンアレルギー歴を自己申告した患者のうち, 実際にペニシリンが使用できない患者は少ないとされており6), 感染症専門医や薬剤師による評価も行う。

 感染性心内膜炎を除くVRE血流感染症への単剤治療例をにまとめた。Enterococcus faecalisやVanC型VREはアンピシリン感性のことが多い1,3)。また, VanB, VanC型VREでは通常テイコプラニン感性である1)。これら以外のVREの治療では, ダプトマイシンやリネゾリドが抗菌薬治療の軸となる1,3)

 ダプトマイシンはVRE感染症に対して添付文書上の適応はないが, 殺菌的に働き, 各種ガイドライン等で推奨され治療に用いられている3,7)。耐性誘導の懸念があるため, 特に感染性心内膜炎に対しては高用量(8-10mg/kg)での使用を勧める専門家がいるものの1,3,7), 添付文書上の推奨からはずれる。VRE菌血症に対し, 高用量(10mg/kg以上8)や9mg/kg以上9))をそれよりも低用量と比較し, 致命率の低下を示した観察研究もある。実臨床でのデータは少ないが, ダプトマイシンをβ-ラクタム薬(アンピシリンなど)やアミノグリコシド, チゲサイクリンなど他剤と併用することでVREに対する抗菌活性が増強するといわれている10)。特にダプトマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)が3-4μg/mLに上昇している場合, 単剤でVRE菌血症治療を行うと, MICが低い群と比べて微生物学的治療失敗が多いとの報告があり3,11), 特に感染性心内膜炎などではアンピシリンなど他剤との併用が勧められる。

 リネゾリドは添付文書上, E. faecium感染症に適応があるが, 静菌的な活性, 重篤な副作用, 耐性誘導の観点から第一選択になり難い。VRE菌血症の後ろ向きコホート研究では, リネゾリド投与群がダプトマイシン投与群に比べて有意に治療失敗が多く, 30日死亡率も高かった12,13)。菌血症や感染性心内膜炎に対しては, 他剤が薬剤耐性や毒性, 同薬による治療失敗などで使用できない場合にのみ使用を検討する。

 

参考文献
  1. Cetinkaya Y, et al., Clin Microbiol Rev 13: 686-707, 2000
  2. Mayers DL, Antimicrobial Drug Resistance 2nd ed
  3. Bennett JE, Principles and Practice of Infectious Diseases 9th ed
  4. Prematunge C, et al., Infect Control Hosp Epidemiol 37: 26-35, 2016
  5. 国立国際医療研究センター 国際感染症センター
    https://dcc.ncgm.go.jp/prevention/resource/resource05.pdf(アクセス日2021年6月29日)
  6. Wurpts G, et al., Allergol Select 4: 11-43, 2020
  7. Baddour LM, et al., Circulation 132: 1435-1486, 2015
  8. Nicholas S, et al., Clin Infect Dis 64: 605-613, 2017
  9. Chuang Y, et al., Clin Infect Dis 64: 1026-1034, 2017
  10. Yim J, et al., Pharmacotherapy 37: 579-592, 2017
  11. Bhavarth S, et al., Clin Infect Dis 62: 1514-1520, 2016
  12. Nicholas S, et al., Clin Infect Dis 61: 871-878, 2015
  13. Nicholas S, et al., Antimicrob Agents Chemother 61(5): e02216-16, 2017

国立国際医療研究センター国際感染症センター総合感染症科
 宮里悠佑 早川佳代子 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan