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大阪府内における麻疹特異的抗体の保有状況と麻疹発生動向

(IASR Vol. 42 p184-185: 2021年9月号)

 

 麻疹は麻疹ウイルスにより生じる熱性発疹性疾患で, 予防にはワクチン接種が有効である。現在日本国内では麻しん風しん混合(MR)ワクチンの2回接種が定期接種として導入されているほか, 日本国内で麻疹を疑うすべての症例には基本的に遺伝子検査が行われている。高いワクチン接種率と地方衛生研究所が担う質の高いサーベイランスの実施により, 2015年には日本国内からの麻疹排除がWHO西太平洋地域事務局により認定され, 現在も麻疹排除は継続している。本稿では大阪府内における麻疹特異的抗体の保有状況と麻疹発生動向について報告する。

大阪府内の麻しんワクチン接種率と抗体価の推移

 現在, 大阪府内のMRワクチンの第1期接種率はおおむね95%に達しているが, 第2期接種率は2006年の制度開始当初(89%)から年々上昇しているものの, 現在まで1度も95%に達しておらず, 十分とは言えない。特に2008年から5年間の時限措置として実施された第3期接種(中学1年生対象)および第4期接種(高校3年生相当年齢対象)では, 大阪府内の接種率はそれぞれ77-87%および68-82%と低く, 今後, 当該の年代の患者(2021年4月1日現在21~31歳に相当)発生動向に注意が必要である。

 毎年実施されている感染症流行予測調査事業麻疹PA抗体価調査において, 大阪府内の健常人の麻疹抗体陽性率(PA抗体価1:16)は, 定期2回接種導入以降, 2歳以上のすべての年齢群で95%以上を達成, 維持している(図1)。一方で抗体保有者における幾何平均抗体価は2回接種導入以前(2003~2006年)より低下しており, 特に麻疹排除達成以降(2015~2020年)は2回接種導入以前と比べて10~14歳以上の年代ではすべての年齢区分で低下がみられた(図1)。麻疹特異的抗体価の低下は, 麻疹排除達成以降, 国内の麻疹発生が減少し, ブースター効果を得る機会が大きく減少したためであると考えられ, 集団免疫の低下による麻疹再流行予防のためには, 今後も継続的に集団における抗体価の推移を注視していく必要がある。

大阪府内の麻疹発生状況

 全数把握が開始された2008年に392人の患者が報告されて以降, 患者数は大きく減少し, 2015年にはこれまでで最も少ない年間2例に達した(図2)。しかし, 2015年の麻疹排除達成以降, 大阪府内での麻疹患者数は増減を繰り返しており, 海外からの輸入症例や, ワクチン接種歴を有し典型的な臨床症状をみない成人修飾麻疹患者が占める割合が増加している。特に修飾麻疹の割合は, 麻疹排除達成前は0-38.0%で推移していたが, 排除後は44.0-100%で推移しており, 顕著な増加がみられた。これらの状況は, サーベイランスの質の向上と先述の麻疹抗体価の低下を反映していると考えられ, 今後も修飾麻疹患者の増加傾向は強くなると予想される。修飾麻疹患者はウイルス排泄量が少ない傾向にあり1), 感染伝播リスクは低いが, 免疫を持たない感受性者への伝播は報告されている2)。したがって麻疹患者発生時の接触者調査や緊急ワクチン接種などの対応は, 今後も継続する必要があると考えられた。

 謝辞:感染症発生動向調査事業, 感染症流行予測調査事業にご協力いただいている諸機関の先生方, 関係者の皆様に深謝いたします。

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参考文献
  1. Hahné, et al., J Infect Dis 214(12): 1980-1986, 2016
  2. Kurata, T, et al., Vaccine 38(6): 1467-1475, 2020

大阪健康安全基盤研究所
 倉田貴子 上林大起 森 治代 本村和嗣 
微生物部ウイルス課  

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