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COVID-19の時代の, MSMを対象としたコミュニティセンターaktaの活動とAIDS対策の課題

(IASR Vol. 42 p219-220: 2021年10月号)

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は, 2020年4月以降, コミュニティセンターaktaのある新宿二丁目の街にも大きな影響を与えている。お店の多くが長らく休業を続けており, それによってaktaが続けてきたアウトリーチなどの, コミュニティ活動も制限されている。本稿では上記状況に対してaktaがどのように活動を変更して取り組んできたのか, また特にMSMを対象としたAIDS対策の課題について概説を行いたい。

 新宿二丁目の街にAIDS予防の活動の基点を置いてきたコミュニティセンターaktaでは, 従来のコミュニティ活動に制限がある状況が続いている。例えば, 毎週新宿二丁目にある170程度のお店へのアウトリーチ活動「デリバリーボーイズ」, コミュニティセンターへ集客してのイベント, またゲイバーで行われてきたHIV陽性者やその周囲の人たちの経験のリアリティを共有するイベント「Living Togetherのど自慢」など, aktaの基幹となるプロジェクトが規模の縮小を余儀なくされている。接触型のコミュニケーションがプロジェクト実施の要素として不可欠であったため, 当初は休止せざるを得なかった。しかし, aktaではこの時期, COVID-19の状況に合わせ従来のやり方を修正しつつ, 下記について取り組んだ。

COVID-19に関する啓発・情報提供

 主に新宿二丁目のお店で働く人達を対象に, COVID-19の情報提供を行っている。これは, コミュニティや, ぷれいす東京などの非営利団体(NPO)の他, 行政, 感染症の専門家などと一緒に取り組んでおり, 以前からAIDS対策で連携してきた背景があったために実現できた。新宿二丁目の街の人を対象とした勉強会を実施したり, 資材・ウェブサイトによる啓発をしたり(図1), 新宿二丁目のCOVID-19対応の状況やニーズを内閣官房や東京都の会議で報告を行った。

aktaのプロジェクトのCOVID-19流行にあわせた修正

 aktaは1回目の緊急事態宣言期間に休業したものの, その後現在(2021年8月末)まで感染予防対策を実施し, 営業時間を縮小しつつ開館を続けている。これはスタッフ間の議論により, HIVや性感染症の流行がMSMの間で終わったわけではないこと, また対面で会える場を維持することが重要と考えたためである。感染予防のためのガイドラインを決め, 関係者にCOVID-19の陽性事例が出た場合の対応法フローの作成, 見直しを続けている。

 またコミュニティ活動は, オンライン展開の試行を行っている。アウトリーチは規模を縮小しつつ, 協力店舗との専用のLINEグループを立ち上げてコミュニケーションを行うようにしている。さらにakta YouTubeチャンネルの充実化に取り組み, HIVや性感染症の基礎情報提供, 勉強会やLiving Togetherのイベントをオンライン動画にて実施している。なおオンライン化によって, 他の地域や海外からも参加が可能になったことは大きなメリットであった。

相談・情報提供

 2020年の休館期間を含め, aktaへの相談依頼の連絡や問い合わせは多くなっている。HIV検査の情報, スクリーニング陽性の結果を受け取ったがどうしたらよいか, などの相談のほか, COVID-19の流行による母国への渡航制限があるため, 帰国できず, 母国で得ていた抗HIV薬が残り少なくなってしまった外国籍の人のケースの相談も複数あった。ウェブサイトHIVマップにある滞日外国人ための情報集「H.POT」を見て連絡してきた方が多かったようだが, 相談支援を行う(Community Based Organizations:CBO)にリファーして対応している。

MSMを対象としたHIV検査の促進

 エイズ動向委員会報告によれば, 2020年の全国の保健所等でのHIV検査の実施件数は68,998件であり, 前年の件数の51%程度減少している。aktaのある東京都でも, 東京都新宿東口検査・相談室など一部を除き, 多くの保健所のHIV検査が休止している。保健所でのHIV検査はMSMにとっても依然重要な検査機会であり, 長期間のHIV検査の休止, 規模の縮小は, HIV感染の診断の遅れにつながる可能性があり, 喫緊に対応する必要のある課題である。

 aktaでは, 2021年2, 3月に, HIV・梅毒の郵送検査キットを配布するトライアル「aktaゆうそう検査」を実施した(図2)。このプロジェクトはMSM対策に関する厚生労働科学研究費研究班により行われた。また, 全国9つのMSMの性の健康に関する活動に取り組むCBOのネットワーク「MSM all Japan」を通じて, 各地で同様に取り組まれた。

 2021年2, 3月, aktaでは合計100件の予約枠を設定したが, ウェブ上で予約に関する広報を始めると, 数時間ですべての枠が埋まってしまった。MSMのHIV検査機会に関するニーズの高さをうかがうことができる。なおこのプロジェクトは, 行政や医療機関との連携をさらに進め, 2021年10月から規模を拡大して再スタートする予定である。

 以上のようにCOVID-19流行に大きく影響を受けつつ, aktaはMSMのAIDS対策を従来のやり方を修正しながら継続してきた。言うまでもなくCOVID-19の対策は非常に重要だが, MSMでのHIV感染流行が終わったわけではない。地域において, 持続可能で柔軟性のあるAIDS対策の体制の構築・維持が必要であり, aktaはコミュニティに根ざした立場から取り組みを継続していきたい。


特定非営利活動法人  
 akta理事長 岩橋恒太

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