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3歳未満小児におけるインフルエンザワクチンの有効性:2018/19~2019/20シーズンのまとめ(厚生労働省研究班報告として)

(IASR Vol. 42 p255-257: 2021年11月号)

 
背 景

 インフルエンザワクチンの有効性研究は, 「複数シーズンにわたり, 統一的な疫学手法で継続的に有効性をモニタリングする」という考え方が主流になっている。欧米諸国で採用されている疫学手法は, 症例・対照研究の一種であるtest-negative designである。検査確定インフルエンザを結果指標としながらも, 受診行動に起因するバイアスを制御できるという利点がある1-4)

 厚生労働省研究班(研究代表者・廣田良夫)では, test-negative designにより, 小児におけるインフルエンザワクチンの有効性を継続的にモニタリングしている。2013/14~2017/18シーズンの5シーズンは, 6歳未満小児を対象に調査を実施した。2回接種の有効率は41-63%と, すべてのシーズンで統計学的に有意であり, 接種により発病リスクが約1/2に低下するという一定の見解を得た5)

 2018/19シーズン以降は規定接種量の少ない3歳未満小児に対象を絞り, これまでと同様の手法で調査を実施している。本稿では, 公表済みの2020(令和2)年度報告書に基づいて6,7), 2018/19~2019/20シーズンのまとめを報告する。なお, 2018/19シーズンの結果は, 2019(令和元)年度の報告書および2020年の病原微生物検出情報(IASR)で報告しているが8,9), 再解析の必要性が生じたため, 令和2年度報告書で最終結果として改めて報告したものを提示する6)。そのため, IASR既公表分とはワクチン有効率の推定値が異なっていることをご了承いただきたい。

方 法

 デザインは多施設共同症例・対照研究(test-negative design)である。大阪府内あるいは福岡県内の小児科診療所で, 本研究への参加に同意した7施設が参加した。研究期間は, 各地域におけるインフルエンザ流行期である。

 対象者の適格基準は下記の通りである。

 ①研究期間に, インフルエンザ様疾患〔ILI:38.0℃以上の発熱+(咳, 咽頭痛, 鼻汁and/or呼吸困難感)〕で参加施設を受診した小児

 ②受診時の年齢が3歳未満

 ③38.0℃以上の発熱出現後, 6時間~7日以内の受診

 その他, 調査シーズン10月1日の時点で月齢6か月未満の者などを除外した。

 本研究のソース集団(研究対象者を生み出す集団)から研究対象者(病原診断の検査結果を有する者)を選定する過程で, 選択バイアス(selection bias)が生じることを回避するため3,4), 「偏りのない登録と検査」を達成しうる系統的な手順をとった()。登録時に, 対象者の個人特性に関する情報(含:インフルエンザワクチン接種歴)を収集するとともに, 全例から鼻汁を吸引し, real-time RT-PCR法でインフルエンザウイルス陽性の者を症例, 陰性の者を対照とした。条件付き多重ロジスティック回帰モデルにより, 「医療機関受診検査確定インフルエンザ」に対するワクチン接種の調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出し, ワクチン有効率は(1-OR)×100%で推定した。

結 果

 に, 2シーズンの主要結果を示す。最終解析対象は, 2018/19シーズン397人(平均年齢1.3歳), 2019/20シーズン642人(平均年齢1.4歳)であった。

 2018/19シーズンは, 1回接種の調整ORは0.17(95% CI:0.04-0.67), 2回接種は0.58(95% CI:0.29-1.13)であった。ワクチン有効率は1回接種で83%(95% CI:33-96%), 2回接種で42%(95% CI:-13-71%)であった。2回接種ではORが低下する傾向を認めたが, 統計学的に有意ではなかった。

 2019/20シーズンは, 1回接種の調整ORは0.27(95% CI:0.11-0.69), 2回接種は0.38(95% CI:0.19-0.75)であった。ワクチン有効率は1回接種で73%(95% CI:31-89%), 2回接種で62%(95% CI:25-81%)であり, 統計学的に有意であった。亜型・系統別の分析では, 最も多く検出されたA(H1N1)pdmに対して2回接種の有効率は58%(95% CI:15-79%)と有意であった。

考 察

 3歳未満小児における2018/19シーズンのワクチン有効率は, 検査確定インフルエンザに対して1回接種で83%, 2回接種で42%であった。2回接種では発病を予防する傾向を認めたが, 統計学的に有意ではなかった。理由として, 当該シーズンは結果的に流行期間外の登録となってしまった者が多く, 解析対象者が少なくなったことが挙げられる。さらに, 地域におけるサーベイランスデータと本研究における登録数の推移からみて, 福岡県で流行のピークを逃したことも大きく影響した。

 2019/20シーズンのワクチン有効率は, 検査確定インフルエンザに対して1回接種で73%, 2回接種で62%といずれも統計学的に有意であった。症例における亜型・系統の内訳からみて, ほぼA(H1N1)pdmに対する有効率と考えられた。2019/20シーズンはワクチン株と流行株の抗原性の合致度はA(H1N1)pdmにおいて良好であり, 当該合致度を一定程度反映する結果となった。また, 2018/19シーズンの教訓を活かし, 流行のピークを確実に捉えて解析対象者数を確保することができた。

 以上より, 2018/19シーズンと2019/20シーズンで統計学的有意性の有無に違いはあったものの, 3歳未満小児においても, インフルエンザワクチン2回接種によりインフルエンザの発病リスクは約1/2程度に低下すると考えられた。

 

参考文献
  1. Jackson ML, et al., Vaccine 31: 2165-2168, 2013
  2. Foppa IM, et al., Vaccine 31: 3104--3109, 2013
  3. Fukushima W, et al., Vaccine 35: 4796-4800, 2017
  4. Ozasa K, et al., J Epidemiol 29: 279-281, 2019
  5. 福島若葉ら, IASR 40: 194-195, 2019
  6. 福島若葉ら, 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性と効果的適用に関する疫学研究 令和2年度総括・分担研究報告書, pp 27-35, 2021
  7. 福島若葉ら, 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性と効果的適用に関する疫学研究 令和2年度総括・分担研究報告書, pp 36-45, 2021
  8. 福島若葉ら, 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性の臨床評価とVPDの疾病負荷に関する疫学研究 令和元年度総括・分担研究報告書, pp 60-68, 2020
  9. 福島若葉ら, IASR 41: 204-205, 2020

厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)
ワクチンの有効性・安全性と効果的適用に関する疫学研究
定点モニタリング分科会長:福島若葉(大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学) 
共同研究者:森川佐依子 松本一寛 藤岡雅司 松下 享 久保田恵巳 八木由奈 
高崎好生 進藤静生 清松由美 廣井 聡 中田恵子 伊藤一弥 
前田章子 近藤亨子 迎 恵美子 加瀬哲男 大藤さとこ 廣田良夫

 

 

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