国立感染症研究所

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南スーダンにおけるE型肝炎のアウトブレイク事例

(IASR Vol. 42 p286-287: 2021年12月号)

 
事例の概要

 南スーダンでのE型肝炎の症例は2015年以降継続して報告がされているが, 2019年1月~2021年8月にかけて, 国内避難民(internally displaced persons: IDPs)を受け入れているベンティウ(Bentiu)難民キャンプで1,001例の症例と9例の関連する死亡例が報告されている(死亡割合0.9%)。2021年19~30週の間には, 2019年の同時期の約10倍, 2020年の同時期の約2倍の症例数が報告された。症例数は19週以降特に多くなっている。2021年には2例の死亡例が報告されており, うち1例は27歳の妊婦であった。症例の約半数は男性(52%)で, 年齢は15~44歳であった。同キャンプはスーダンとの国境に近いユニティ州ルブコナ郡にあり, 2021年7月の時点で107,130人(男性52%)の国内避難民を受け入れている。難民キャンプは国内外の非政府組織(NGO), 複数の国連機関からの支援を受けているが, 資金が激減し, 結果として, 手洗い場の減少, 水の供給低下, 屋外での排泄が多くなるなど, 衛生サービスが低下している。また, キャンプ内の2カ所の診療所が閉鎖され, 基本的な医療サービスの低下もみられる。キャンプ内の5つの区域すべてで同程度に多数のE型肝炎の症例が報告されており, キャンプ内で感染が広がっていると考えられる。また, 難民キャンプ外でも多くの症例が報告されていることから, ベンティウでは, 同キャンプ外でも地域での感染が広がっていることが示唆されている。

 ベンティウを含むユニティ州では降雨量の増加による洪水が続き, 州内9郡のうち7郡で推定112,000人が避難生活を送っている。このような人の移動に伴い州内外にE型肝炎が広がるリスクが高くなる可能性がある。以前からこの地域の住民はスーダンとの交易などで国境を越えた移動が多いことが知られていた。また, スーダンでは現在, エチオピアからの難民におけるE型肝炎のアウトブレイクが発生しており, 疾患が地域的に拡大するリスクがある。この地域での発生中の洪水は感染拡大防止のための支援物資の不足を招き, 難民キャンプの衛生状態を悪化させている。

公衆衛生対応

 保健省は政府, ヘルスクラスター注1)およびWASHクラスター注2)からのパートナーとともに州のE型肝炎タスクフォースを立ち上げ, 衛生状況, E型肝炎のアウトブレイクの推移, 人道的支援のレビューを実施している。

 ・ 家庭レベルでの衛生環境の改善とニーズの評価を目的に合同評価チーム(JAT)がレビューを実施している。

 ・ 保健省はE型肝炎のサーベイランスを継続し, 発生状況の把握とアウトブレイク対応を行っている。

 ・ 患者の同定と受診は外部の支援者が調整し, プライマリーケアクリニックが支援している。

 ・ 支援パートナーは患者の診療も支援している。

状況の解釈

 ベンティウ難民キャンプでのE型肝炎の発生は数年続いているが, 医療, 衛生サービスの低下により, 2021年に症例が急増した。症例の多くは難民キャンプの外部から発生していることが報告されており, ベンティウ難民キャンプのホストコミュニティにおいてもE型肝炎の流行が起こっていることを示唆している。同時に発生している洪水災害と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行の中で, 難民キャンプ内の医療, 衛生サービスを回復し, E型肝炎の流行を制御するためには, キャンプの運営に対して国際的な支援が必要である。

提案された対応

 ・ 支援パートナーの対応を促進するための緊急的な資源の動員

 ・ スーダンやエチオピアへの国境を越えたE型肝炎の蔓延のリスクを回避する必要があるため, 洪水からの避難民に特に注意を払う。

 注1)ヘルスクラスター:人道的かつ健康的な緊急事態に対して迅速かつ効果的に対応すべく, 国内の公的機関や国際的NGOが協働する枠組み。WHOがリードコーディネーターとなることが多い。

 注2)WASHクラスタ ー:WHO, UNICEFなど77の組織で構成される水, 衛生サービスの供給に関する国際的なパートナーシップ。世界各国で地域でのニーズをもとに人道的支援を行う。

 (https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/344613/OEW35-2329082021.pdf


抄訳担当:国立感染症研究所        
実地疫学専門家養成コース
 太田雅之   
実地疫学研究センター
 島田智恵 砂川富正

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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