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2019~2021年に届出された先天性風疹症候群について

(IASR Vol. 43 p3-4: 2022年1月号)

 
はじめに

 風疹に対する十分な免疫のない女性が妊娠20週頃までに風疹ウイルスに感染すると, 胎内感染により胎児が先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)を発症することがある。CRSの3大症状は先天性心疾患, 難聴, 白内障で, その他にも網膜症, 肝脾腫, 血小板減少, 精神発達遅滞などの症状を呈することもある。

 予防で重要なことは, 母親が子供の頃を含め妊娠までに2回の風しんワクチン接種を終え, 風疹に対する免疫を獲得しておくことと, 風疹の発生自体を抑えることだが, 2018~2019年には全国で比較的大規模な風疹の流行がみられた。この流行との関連が疑われる6例のCRSの報告が2019~2021年に感染症発生動向調査(NESID)に届け出られた。本稿ではこの6例について報告いただいた情報をまとめた。

CRS児の特徴

 CRS児の届出年は, 2019年4例, 2020年1例, 2021年1例であった()。都道府県別では東京都2例, 福島県1例, 埼玉県1例, 大阪府1例, 岡山県1例であった。診断方法(重複あり)は, 風疹特異的IgM抗体の検出が6例(100%), 咽頭, 唾液, 尿, 血液検体等からのPCR法による病原体遺伝子の検出が2例(33%)であった。全症例が生後0~1か月と早期に診断されていた。性別は男児が5例(83%)であった。届出基準における病型は, (1)白内障または先天性緑内障, 先天性心疾患, 難聴, 色素性網膜症, (2)紫斑, 脾腫, 小頭症, 精神発達遅滞, 髄膜脳炎, X線透過性の骨病変, 生後24時間以内に出現した黄疸, のうち「(1)から2項目以上」または「(1)から1項目と(2)から1項目以上」を満たすものをCRS典型例, 「(1)または(2)から1項目以上」を満たす者をその他としている1)。本報告ではCRS典型例5例, その他1例であった。診断時点の症状・所見に関しては, 4例で先天性心疾患を認め, そのうち動脈管開存症2例, 卵円孔開存症1例, 末梢性肺動脈狭窄症1例であった。また, 難聴3例, 白内障1例であった。CRSの3主徴である心疾患, 白内障, 難聴をすべて認めた症例はなかった。届出時点での死亡例はなかった。

CRS児の母親の特徴

 母親の出産時年齢は中央値26歳(範囲21-36歳)であった(不明の2例を除く)。妊娠中の風疹罹患歴は, 罹患あり2例, 罹患なし2例, 不明2例で, 罹患歴があった母親が風疹を発症した妊娠週数は9週および10週であった。妊娠前の風しん含有ワクチン接種歴は, 2回接種歴のあった母親はおらず, 1回接種歴があった母親が3例, 不明が3例であった。

考 察

 風疹の流行年とCRSの発生の多い年度は一致することが知られている2)。わが国における近年の風疹とCRSの届出数は, 2018年(2,941人), 2019年(2,306人)と流行があり3), 2019~2020年に5例のCRSの届出があった。以降, 風疹の届出数は2020年(100人), 2021年(第43週時点で10人)と減少し2), CRSの届出も1例のみであった。今回検討したCRS児6例と, 2012~2014年に届け出られた45例4)は, ワクチン接種歴の判明した母親において2回接種歴のあった者はおらず, 2回接種による十分な免疫の獲得がCRS発生の予防に重要であると示唆した。今回, 母親の感染源はいずれも不明であったが, 家庭や職場における接触で風疹ウイルスに感染する可能性を考えると, 妊婦本人だけでなく, 周囲の人も風疹ウイルスに対する免疫を獲得することが必要である。日本では, 定期接種制度の変遷のため1962(昭和37)年度~1978(昭和53)年度生まれの者は女性だけが風疹の定期予防接種(定期接種)を受けた。この年度生まれの男性は定期接種の機会がなく, この年代の男性を対象とした風疹の第5期定期接種が2019(平成31)年度から開始されている。これには, 男性本人だけでなくパートナーや家族, 友人, 同僚として接触する妊婦の風疹ウイルス感染予防と, CRSの発生を防ぐという大きな意義があり, しっかり活用すべきである。世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で約8千万人の小児が必要なワクチンを接種できなかったと推定しており, 風疹を含むvaccine preventable diseasesの世界的流行に警鐘を鳴らしている5)。COVID-19流行後これまで様々な社会活動が制限されてきたが, 各種予防策の実施や国内における流行の低減, 治療薬の開発にともない制限緩和が進められている。今後, 国内の移動に加え, 国際的な往来も再開されれば, 男性に蓄積された風疹感受性者が減らない限り, 現在, 風疹の発生数が少なくなっている日本でも再流行が生じる可能性が高い。CRSの予防のためにも確実な風しん含有ワクチン接種の推進が必要である。

 

参考文献
  1. 先天性風しん症候群, 厚生労働省
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-10.html
  2. 先天性風疹症候群とは, 国立感染症研究所
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/429-crs-intro.html
  3. 風疹に関する疫学情報:2021年11月4日現在, 国立感染症研究所
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/2021/rubella211104.pdf
  4. 金井瑞恵ら, IASR 39: 33-34, 2018
  5. At least 80 million children under one at risk of diseases such as diphtheria, measles and polio as COVID-19 disrupts routine vaccination efforts, warn Gavi, WHO and UNICEF, WHO
    https://www.who.int/news/item/22-05-2020-at-least-80-million-children-under-one-at-risk-of-diseases-such-as-diphtheria-measles-and-polio-as-covid-19-disrupts-routine-vaccination-efforts-warn-gavi-who-and-unicef

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