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2014~2021年に愛知県で検出されたRSウイルスの分子疫学解析

(IASR Vol. 43 p82-83: 2022年4月号)

 

 RSウイルス感染症は乳幼児の主要な呼吸器感染症であり, 原因ウイルスであるRSウイルス(RSV)はGタンパクの性状の差から2つのサブグループ(RSV-A, RSV-B)に大別され, それぞれさらに複数の遺伝子型に分類される1)

 愛知県におけるRSV感染症の流行動態はおおむね全国的な傾向と同様で2,3), 2016年頃から流行時期がそれまでの初冬から夏~秋に移行し, また, 2020年には流行が認められず, 2021年は第25週をピークにこれまでにない大流行となった。

 本稿では, 2014年1月~2021年12月に名古屋市を除く県内の病原体定点医療機関を受診した患者の検体から当所で検出したRSV 165件について報告する。

 既報のプライマー4)を用いたnested RT-PCR法によりG遺伝子の第二可変領域を増幅し, ダイレクトシーケンス法にて塩基配列を決定した。系統解析の結果, RSV-AのNA1が7件(4.2%), ON1が70件(42.4%), RSV-B BA9が88件(53.3%)であった(図1)。患者の発生動向と比較すると, 流行の主流となるサブグループが1, 2シーズンごとに遷移する一方, 多くのシーズンで両方のサブグループが検出された(図2)。

 2021年に検出された株はBA9の中でまとまったクラスターを形成し, 同年に東京で検出された株5)に近縁であった(図1B)。ただしこの結果は, RSVの流行を受け医療機関に検体提出を特に依頼し, 同一保健所管内の2医療機関から1カ月程度の短期間に提出された検体から得られたデータのため, 他の地域・時期において別の系統の流行があった可能性も考えられた。2021年にRSVが検出された患者のうち2歳以上は40.5%であり, 2014~2020年の28.6%より高い傾向がみられ, 他の報告3,5,6)と同様であった。

 患者の臨床診断名は, 下気道炎が82.9%, 上気道炎が13.4%であったが, 急性脳症3例, 劇症型心筋炎1例からも検出された。これら気道炎以外の4例から検出されたRSV(図1中矢印)は, 呼吸器症状のみを示す患者からの株と塩基配列上の差異が認められず, 一部の領域の解析ではあるが, 症状の違いは宿主側の要因によることが示唆された。ウイルス分離が陰性であったこともあり, 臨床症状との関連は必ずしも確定的ではないものの, 急性脳症7,8), 心筋炎患者9,10)からのRSVの検出は過去にも報告されている。これらの疾患では後遺症が残る症例や死に至るケースもあることから, RSV感染症の流行時には呼吸器外症状の可能性も含めて注意喚起していく必要があると考えられた。

 

参考文献
  1. Hibino A, et al., PLOS ONE 13(1): e0192085, 2018
  2. Miyama T, et al., Epidemiol Infect 149: e55, 2021
  3. 感染症発生動向調査週報(IDWR), 2021年第29号
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2487-idsc/idwr-topic/10564-idwrc-2129c.html
  4. Sato M, et al., J Clin Microbiol 43(1): 36-40, 2005
  5. 糟谷 文ら, IASR 42: 261-263, 2021
  6. 江川和孝ら, IASR 42: 195-197, 2021
  7. 国立感染症研究所, IASR 40: 93-94, 2019
  8. Bohmwald K, et al., Front Cell Neurosci 12: 386, 2018
  9. Miura H, et al., BMC Pediatr 18(1): 51, 2018
  10. Erdoğan S, et al., Turk J Anaesthesiol Reanim 47(4): 348-351, 2019

愛知県衛生研究所       
 安達啓一 廣瀬絵美 中村範子 新美 瞳 皆川洋子
 齋藤典子 伊藤 雅 安井善宏 佐藤克彦

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