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感染症発生動向調査に届出された腸管出血性大腸菌感染症における溶血性尿毒症症候群, 2021年

(IASR Vol. 43 p110-111: 2022年5月号)

 

 溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)は腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の重篤な合併症の1つである。本稿では2021年に感染症発生動向調査(NESID)に届出されたEHEC感染症のHUS発症例に関するまとめを報告する。

HUS発生状況

 NESIDに基づくEHEC感染症の届出数(2022年4月1日現在, 以下暫定値)は, 2021年〔診断週が2021年第1~53週(2021年1月4日~2022年1月2日)〕は3,241例(うち有症状者2,026例:63%)で, そのうちHUSの記載があった届出は59例であった。性別は女性27例, 男性32例で, 男性が多かった(1:1.2)。年齢は中央値が7歳(範囲:1-84歳)で, 年齢群別では0~4歳が19例(32%)で最も多かった。有症状者に占めるHUS発症例の割合は全体で2.9%, 年齢群別では5~9歳が5.8%で最も高く, 次いで0~4歳が4.5%の順であった()。

EHEC診断方法と分離菌およびO抗原凝集抗体

 診断方法は, 菌の分離が38例(64%), 患者血清からのO抗原凝集抗体の検出または抗Vero毒素抗体の検出が19例(32%), 便からのVero毒素(VT)検出が2例(3%)であった()。

 38例から分離された菌の血清群と毒素型は, 血清群別ではO157が76%(29例)を占め, 毒素型ではVT2陽性株(VT2単独またはVT1&2)が61%(23例)を占めた。また, 患者血清のみで診断された19例のうち, 抗O157 LPS抗体陽性は9例であった。

感染原因・感染経路

 確定または推定として報告された感染原因・感染経路(重複含む)は, 経口感染が27例(46%), 接触感染が13例(22%), 動物・蚊・昆虫等からの感染が4例(7%), 「記載なし」または「不明」の報告が11例(19%)であった。経口感染と報告された27例中13例に肉類の喫食の記載があり, うち生肉(ユッケ, レバー, 牛刺し, 加熱不十分な肉等)の記載は5例(牛生肉1例, 牛内臓肉2例, 生焼けの牛肉2例)であった。

臨床経過(症状・転帰)

 保健所への届出時に報告されたHUS発症例59例の臨床症状は, 昨年と同様に腹痛, 血便はそれぞれ50例(85%), 48例(81%)と多く報告されていた。なお, 届出時に脳症を合併していた症例はなかった。また, 届出時点で死亡例として報告された症例もなかった。

考 察

 2021年に届け出られたEHEC感染症の有症状者数(2,026例)は, 2020年(1,987例)のそれと比べて大きな変化はなかった。またHUS症例数は, 現在の届出基準で比較可能な2006年以降では最少の59例であったが, 有症状者に占めるHUS発症例の割合では2020年とほぼ同等の2.9%であった。なお2006~2021年のHUS発症例の割合は, 2.1-4.3%であった。また10歳未満の小児が多数を占め, 例年とは異なり, 女性よりも男性が多い傾向であった。

 感染原因・感染経路では, 2021年においても例年同様「肉類の喫食」が一定数報告されており, うちEHEC感染リスクが高い生肉喫食の記載も依然として数例報告されていた。EHEC感染に伴うHUS等の重症化の機序は不明な点が多いため, 重症例を減らすためには, EHECの感染そのものを予防することが重要である。EHECの感染予防策としては, 生肉(加熱不十分な肉を含む)の喫食を避けること, 食事前に手を洗うこと, 調理時の食品を適切に取り扱うこと, 等の基本的な食中毒予防策の実施だけでなく, 患者や動物との接触後の手洗いの実施などの感染症対策に留意することも重要である。


国立感染症研究所感染症疫学センター第四室

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