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福島県におけるつつが虫病の発生状況(2017~2021年)

(IASR Vol. 43 p177-178: 2022年8月号)

 

 福島県において, つつが虫病は重要な地域特有の疾患であり, 2009年および2010年の届出数は全国で最多であった。近年においても届出数は全国上位に位置している。

 今回, 福島県における2017~2021年のつつが虫病の発生状況について報告する。

 過去5年間で県内で感染したと推定される症例は96例で, 60代~80代の報告が多く, 全体の約8割を占めていた。男女別の比較では, 2017~2019年および2021年は男性が半数以上を占めたが, 2020年は女性が7割以上を占めた。

 感染時の作業内容は, 農作業41例(42.7%), 庭の手入れ13例(13.5%)と, 上位2つで半数以上を占めた。また, 散歩中の感染が疑われる症例もみられ, 日常生活でも感染に注意を払う必要がある。

 発生届および県独自に行っている調査票の記載による主な症状・所見は, 発熱94例(97.9%), 発疹91例(94.8%), 刺し口78例(81.3%), 全身倦怠感60例(62.5%), 頭痛37例(38.5%)などが認められ(重複を含む), 播種性血管内凝固症候群(DIC)を併発した症例は12例, 死亡例は2例であった。

 発症月別の症例数では, 10~11月の秋季に最も多く, 次いで4~6月の春~初夏の時期に多くみられ, 二峰性のピークを認めた。全国的につつが虫病の発生状況は, 春~初夏および秋~初冬の2つの発生ピークがみられ1), 当所の2010年の報告2)においても, 二峰性のピークを示しており, これらと同様な結果であった(図1)。

 届出のあった症例のうち, 当所で実施した56kDa外膜タンパク遺伝子を標的とした遺伝子解析の結果, 春~初夏(4~6月)に発症した症例はすべてKarp型, 秋季(10~11月)に発症した症例は, Kuroki型およびKawasaki型に分類された(図2)。一般的にフトゲツツガムシはKarp型およびGilliam型を, タテツツガムシはKuroki型およびKawasaki型を媒介するといわれており, 当県において春~初夏の発生はフトゲツツガムシ, 秋季の発生はタテツツガムシが媒介していることが示唆された。

 春~初夏(4~6月)の推定感染地域は, 県内の広範な地域から発生がみられた。一方, 秋季(10~11月)に発生した症例の推定感染地域は, 53例中49例(92.5%)が県中および県南地域からであった(図3)。つつが虫病を引き起こすリケッチアは, ツツガムシからツツガムシへ経卵感染により感染性が受け継がれるため, 特定の場所に病原体を保有したツツガムシがとどまり, ベクターと保有病原体の地域的集積がみられたと考えられる。

 福島県において, つつが虫病は近年も多数の患者が発生し, 死亡例も報告されている。今後も発生動向を的確に把握し, 福島県がつつが虫病の好発地域であることを地域住民や医療機関と共有することで, つつが虫病対策への意識向上や早期の医療機関受診, 疑い症例に対しての早期の適正治療開始を呼びかけ, 重症化および死亡例の発生を抑制していくことが重要である。

 

参考文献
  1. IASR 38: 109-112, 2017
  2. 栁沼 幸ら, 福島県衛生研究所年報 28: 39-42, 2010

福島県衛生研究所       
 藤田翔平 鈴木理恵(県中支所) 斎藤 望
 北川和寛 柏原尚子 木幡裕信

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan