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東京都におけるつつが虫病の発生状況

(IASR Vol. 43 p178-179: 2022年8月号)

 

 東京都におけるつつが虫病患者は, 1980~1990年代までは伊豆七島での発生(いわゆる七島熱)が多くを占めてきたが1), 近年の島しょ部と都内多摩地区のそれぞれの患者発生数は1-7例と, ほぼ同じ程度で推移している(図1)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により, 2020年は多くの疾患の報告数が著しく減少したが, つつが虫病の報告数は22例であり, 東京都では過去10年間で最も多い報告数であった。2020年の患者の内訳は男性13例, 女性9例であり, 推定感染地域は島しょ部: 7例, 都内多摩地区: 3例, 他府県: 11例, 不明1例であった。また, 2021年の患者の内訳は男性10例, 女性1例で, 推定感染地域は島しょ部: 3例, 都内多摩地区: 5例, 他府県: 3例であった。この2年間に発生した33例の患者において, 発熱, 刺し口, 発疹がそれぞれ93.9%, 90.9%, 90.9%と高率に認められた。

 東京都健康安全研究センター(当センター)におけるつつが虫病を疑う患者検体の検査は「リケッチア感染症診断マニュアル」(国立感染症研究所)に準拠し, 市販抗原スライドによるOrientia tsutsugamushi Karp株, Gilliam株, Kato株の3株の間接蛍光抗体(IF)法と, nested-PCR法による遺伝子検出を実施している。nested-PCRは急性期(抗菌薬投与前)の血液や, 痂疲, 皮膚生検試料からDNAを抽出し, 56kDaのポリペプチドを対象とした34’/55’のプライマーペアにShimokoshi株を考慮したSH6プライマーを加えた1stPCR, 10’/11’および10m2/11’のプライマーペアを2ndPCRで使用している。nested-PCR反応後, 電気泳動により481-507bpに増幅された特異バンドの有無を確認し, その後, 塩基配列解析を行っている。

 2020~2021年の当センターへのつつが虫病疑いの検査依頼はほぼ島しょ部からであり, 2020年は患者6例由来6件の試料が搬入され, うち5例からO. tsutsugamushi遺伝子が検出された。同様に2021年は患者5例由来8件から3件, 2022年は現在のところ患者2例由来2件からそれぞれO. tsutsugamushi遺伝子が検出されている。図2に示した検出例10例の塩基配列はいずれも島しょ部で発症した患者由来検体から得られたO. tsutsugamushiの配列である。患者年齢は27~83歳で, 男性が6例, 女性は4例であった。発熱は37-38℃台で, 刺し口は10例中8例で認められた。

 系統樹解析の結果, O. tsutsugamushi Karp株系統は大島, Kawasaki株系統は大島と新島, Kuroki株系統は式根島と御蔵島由来の患者検体からそれぞれ検出されており, 検出されたO. tsutsugamushiの系統の分布には地理的要因との関連も推察された。一方, 大島において検出されたKarp株系統の中で分岐した塩基配列(20-205Ohshima, 21-266Ohshima)は, 他地域においても検出されているJP-2系統2)に属するSato株に近縁であった(図2)。

 今後は, 都内におけるリアルタイムな流行状況の把握に加え, 他の遺伝子領域や他地域検出例との比較など, さらなる解析が必要と思われる。

 

参考文献
  1. 伊藤忠彦, IASR 15: 100-102, 1994
  2. Enatsu T, et al., FEMS Microbiol Lett 180: 163-169, 1999

東京都健康安全研究センター微生物部
 森 功次 鈴木 淳 糟谷 文 熊谷遼太 鈴木 愛
 原田幸子 天野有紗 長谷川道弥 長島真美 貞升健志

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan