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岐阜県におけるつつが虫病患者発生状況(2017~2021年)

(IASR Vol. 43 p179-181: 2022年8月号)

 

 岐阜県は本州中部に位置する内陸県であり, 全国7位と広い県土の80%以上を森林が占める森林県でもある1)。この高い森林率もあってか, 岐阜県ではつつが虫病患者が毎年報告され, その数は東海北陸地方の中で最も多く, 人口当たりの患者届出数は全国上位に位置している2,3)。本稿では2017~2021年に県内保健所を通じて感染症発生動向調査(NESID)システムに届出されたつつが虫病患者について解析した結果と, 岐阜県保健環境研究所(当所)で行ったリケッチア感染症疑い症例における遺伝子検査結果について報告する。

 2017~2021年に県内で届出があったつつが虫病患者の年次ごとの患者届出数を図1に示す。2017~2019年は患者数が8-12人と低く推移していたが, 2020, 2021年はそれぞれ25, 26人と増加した。この増加は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の蔓延により人々が人混みを避け, 近隣の田畑を含む山野に出かける機会が増えたことも一因と考える。この岐阜県の年別患者届出数の推移は全国の動向と一致しており, 過去の酢谷の報告2)による2006~2017年の傾向と一致していた。

 一方, 患者の発症月は全国的には春先と秋~初冬の2つのピークがあるといわれているが3), 岐阜県では10~12月に95%以上, 11月がピークで60%以上が集中しており, 春先の発症例はわずか1例にとどまっていた(図2)。

 年齢群別患者届出数は10代1名, 30代, 50代が各2名, 60代23名, 70代32名, 80代20名, 90代以上が4名であり, 性別は男性52名, 女性32名で, 特に70代男性が21名と, 全体の25%を占めた()。

 推定感染機会は田畑での作業, 山に入った, 除草作業など, となっており, 自宅付近での感染と思われる症例が多くみうけられた。感染原因が狩猟とされ, 推定感染地不明とされた事例が2例あり, 推定感染地, 経緯ともに不明の症例も2例あった。推定感染地域は県中部の郡上市が最も多く, 岐阜市, 下呂市, 美濃市, 揖斐川町と, 以前から患者数が多いといわれている地域が続いた(図32)

 当所におけるリケッチア感染症関連の検査は, 遺伝子検査のみを行っており, 「リケッチア感染症診断マニュアル」記載の56kDaポリペプチド領域の血清型特異的nested PCR法による遺伝子増幅(2021年からリアルタイムPCRによるスクリーニングを追加)と, PCR増幅後のシーケンス解析によりOrientia tsutsugamushiOt)遺伝子を検出している4)。今回報告した84例のうち, 当所でOtを検出した症例は10例であり, 8例がKawasaki型, 2例がKuroki型と同定された。このうち4例(Kawasaki, Kurokiそれぞれ2例, いずれも2017年)は, 病院が委託した民間検査機関による血清学的検査ではつつが虫病と判定できなかったものの, 臨床所見から医師がつつが虫病を強く疑い, 当所に相談があった症例である。薬剤投与前の全血は確保できなかったものの, 提出された痂疲からOt遺伝子が検出されたことから, つつが虫病と判定された。一方, 残りの74例は民間検査機関による血清学的検査を基に発生届が出されているが, 血清型にかかわる記載があるものは1例(Kato/Gilliam 320)のみであった。

 発生届に血清学的検査結果を記載することにより, 県内のサーベイランスを充実させ, さらなる情報発信により患者発生抑制に繋げていく必要があると思われる。なお, 当所ではリケッチア感染症関連の遺伝子検査を受けるに当たり, 医療機関には適切な検体採取〔痂疲および(または)薬剤投与前のEDTA血〕をお願いするとともに, 並行してつつが虫病の血清学的検査を民間検査機関等にて行ってもらっている。刺し口が見つからない場合等で検体が急性期血清のみの場合は, 回復期血清採取を依頼し, ペア血清提出をもって国立感染症研究所ウイルス第一部へ行政検査を依頼している。

 

参考文献
  1. 林野庁計画課, 森林資源の現況, 平成29(2017)年3月31日現在
  2. 酢谷奈津, 岐阜県保健環境研究所報 26: 1-3, 2018
  3. IASR 38: 109-112, 2017
  4. 国立感染症研究所, リケッチア感染症診断マニュアル, 平成12(2000)年, 令和元(2019)年6月版

岐阜県保健環境研究所     
 葛口 剛 山口智博 西岡真弘 浦本雄大
 岡 隆史 今尾幸穂 亀山芳彦

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