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広島県におけるつつが虫病患者発生状況と検査対応状況

(IASR Vol. 43 p181-182: 2022年8月号)

 

 広島県では年間十数-20例前後, 多い年で40例程度のつつが虫病患者の届出がされている(図1)。全国の届出状況をみると, 年間50-80例程度の届出数の県は複数あり, それらと比較すると広島県の届出数は多いとはいえないが, 年間数例程度の県も多くあることからみると, 国内では中程度の届出数であるといえる。県内ではつつが虫病に臨床症状が類似するマダニ媒介感染症である日本紅斑熱や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の患者も多く発生し届け出られており(図1), ダニ類媒介感染症に対する医療関係者や住民の認識は他県に比べて高い水準にある。このことは, これら疾患の認知に貢献し, 届出数に反映されていると考えている。なお, つつが虫病患者の推定感染地域はほぼ県内全域であり, 届出数については特に県西部の広島市および廿日市市が多い(図2)。

 つつが虫病については民間検査機関での抗体検査(標準3株:Kato, Karp, Gilliam株)が可能であり, 県内の届出の多くがこれらの検査結果により行われている。しかし, 図1に示した3つのダニ類媒介感染症の臨床症状は類似しており, 臨床症状のみでの鑑別が困難であるため, 広島県立総合技術研究所保健環境センター(当センター)では毎年多くの鑑別検査を実施している。この検査結果により届出されるつつが虫病の例も多く, 多い年では届出数の5割を超えることもある。当センターのつつが虫病検査は遺伝子検査と間接蛍光抗体(IF)法によるペア血清での抗体検査(標準3株およびKawasaki, Kuroki株)が実施可能であるが, 近年は検査依頼のほとんどが急性期血液や痂皮等を用いた遺伝子検査となっている。遺伝子検査は国立感染症研究所(感染研)作成の「リケッチア感染症診断マニュアル」に記載された方法に準じて, DuplexリアルタイムPCRによる, つつが虫病および紅斑熱群リケッチアのスクリーニング検査を行い, つつが虫病リケッチア陽性となった検体について, 56kDaタンパク遺伝子の型別PCRを行っている。当センターでの過去10年間の月別・遺伝子型別陽性患者数を図3に示す。県内の患者発生のほとんどはKawasaki型とKarp型によるもので, 小さな春のピークと大きな秋のピークの二峰性を示すが, 秋季にはKuroki型も3例確認されている。Kawasaki型のほとんどは県西部(主に広島市と廿日市市)で発生しており, Kuroki型も山口県との県境に近い県西部(廿日市市, 大竹市, 安芸太田町)で確認されている。一方, Karp型については県内各所で確認されている。KawasakiおよびKuroki型については, 過去に県内の医療機関を受診した山口県の住民からも検出されており, 広島県と山口県では, つつが虫病の検査診断において, 民間検査機関の抗体検査で対応していない両型による患者の存在を考慮する必要がある。なお近年, 岡山県および島根県でShimokoshi型によるつつが虫病患者が報告されているが, 現在までのところ広島県では確認されていない。しかし, いずれも隣県であり, 今後県内でもShimokoshi型の患者が発生する可能性を考慮する必要がある。現在, 当センターではShimokoshi型の遺伝子検出は可能であるが, 抗原を保有していないため, 抗体検査については未対応である。今後, 感染研からShimokoshi株の分与を受け, 自家製抗原による検査対応の整備を行う予定である。

 

広島県立総合技術研究所保健環境センター
 島津幸枝 高尾信一 池田周平

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