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海外におけるつつが虫病

(IASR Vol. 43 p185-186: 2022年8月号)

 

 つつが虫病は, 日本国外においても発生しており, アジア・太平洋地域の広範囲で流行している。東は極東ロシアのカムチャツカ半島, 西はパキスタンやアフガニスタン, 南はオーストラリア北部を結んだ地域が“Tsutsugamushi Triangle”と呼ばれ, 年間100万人以上の患者が発生していると推定される(1)。近年, 本地域の外においてもつつが虫病に関する知見が増えている。

 “Tsutsugamushi Triangle”内の中国におけるつつが虫病を示す記述は西暦313年に遡る2)。当初, 揚子江以南の中国南部~南東部沿岸にかけて患者が発生していた。1986年に初めて揚子江を越えた山東省にて集団発生が確認され, その後は中国中東部でも患者流行地域が認められるようになった3)。患者報告数は2006~2016年の間に1,254例から21,562例へと17倍以上に増加している4)。広西省, 広東省, 湖南省, 福建省など南東部沿岸地域が最大の患者集積地であり, 4月下旬~12月上旬にかけて患者が発生している。また, 南西部の雲南省と四川省においても5月下旬~11月にかけて発生している。一方, 中東部の山東省, 江蘇省, 安徽省では9~11月にかけて発生し, 秋冬型のつつが虫病として, 南部の夏季を含む発生状況とは異なる3,4)。これら3つの流行地域で中国全体の患者報告数のほとんどを占める。患者の男女比はほぼ1:1で, 農業従事者が70%を占める。南部でのベクターはデリーツツガムシが主であり, 他の地域ではフトゲツツガムシやタテツツガムシがベクターと考えられ, 複数の血清型のOrientia tsutsugamushiが認められている3)

 台湾では, 1955年からつつが虫病が届出疾患になって以降1970年代に流行が大きくなり, その後全土に広がっている。2011年は322例であったが, ここ数年は毎年約400-500例の報告がある5)。花蓮県, 台東県, 南投県, 高雄市などの台湾本島東南部と金門県や澎湖県などの島しょ部に患者集積がみられる。年間を通じて患者が発生しているが, 4月から急増し7月をピークとする。男女比は1.7:1で男性が多く, 患者年齢は20代以上が大半であるが, 50代, 40代, 20代の順に多い。台湾本島でのベクターはデリーツツガムシが主で, 島しょ部での冬型つつが虫病はタテツツガムシがベクターである。検出されるOrientia tsutsugamushiはオリジナル株の遺伝子配列と若干異なるものの, Karp, Kuroki, Gilliam, Kato型など多様である。

 韓国の患者発生は朝鮮戦争中の1951年に英国で記録があり, 韓国国内での初報告は1985年である6)。患者報告数は1994年に238例であったが, 2005年に6,000例, 2016年に11,105例と最大を記録した。その後減少に転じ, 2019年には4,005例となった6,7)。男女比は1:1.5で女性が多く, 患者年齢は40代以上が9割を占め, 70代, 60代, 50代の順に多い。年間を通して患者が報告されているが, 大半が11月に集中して発生している。中国同様に農業従事者での発生が多い。慶尚南道や全羅南道などの南部地域ならびに忠清南道や京畿道などの中部地域に患者集積がみられる。原因となるO. tsutsugamushiの血清型はBoyong型が大半で, Kawasaki型も多く認められる6)。南部地域はタテツツガムシ, 中部はフトゲツツガムシが主なベクターである6)

 さらに, タイやベトナムをはじめとした東南アジアでも情報が集積されている。近年, ミャンマーやインドなどからも患者情報が多く発信されている2)

 一方, “Tsutsugamushi Triangle”外の地域では, アラブ首長国連邦からオーストラリアに帰国した旅行者が発熱し, つつが虫病と診断された8)。患者血液から新規のOrientiaが分離され, Candidatus Orientia chutoと新種提案された。媒介ツツガムシは不明である。また, カメルーンやコンゴ, タンザニアから帰国した旅行者が血清学的につつが虫病と診断された症例報告もある2)。しかし, どの症例においてもOrientiaの遺伝子は検出されていない。また, ケニアのツツガムシ(Microtrombicula natalensis)とセネガルのハツカネズミからCa. O. chutoに近いOrientiaの遺伝子が検出されている9,10)

 南米では, チリ中南部のチロエ島においてつつが虫病の患者が発生したと2011年に報告された。その後, 北部のビオビオから南端のティエラ・デル・フエゴまで1,900kmの間で多数のつつが虫病患者の報告がある11)。患者から検出されたOrientiaは, Ca. O. chiloensisとして新種提案され, 媒介ツツガムシはHerpetacarus属のツツガムシと推測された12)

 日本では, 2007~2021年の感染症発生動向調査(NESID)によると, 海外を推定感染地域とする症例が26例届出されている。内訳は, 韓国が6例, 台湾, ラオス, カンボジアが各3例, アフガニスタンとマレーシアが各2例, インド, フィリピン, ミクロネシア, 香港, アラブ首長国連邦, イタリア, フランスが各1例である。

 新型コロナウイルス感染症(COVD-19)にかかる各国の入国規制が緩和されるにともない, 再び日本人の海外渡航の機会も増加する。渡航後の熱性疾患としてのつつが虫病も注意する必要がある。

 

参考文献
  1. Xu G, et al., PLoS Negl Trop Dis 11: e0006062, 2017
  2. Richards AL and Jiang J, Trop Med Infect Dis 5: 49, 2020
  3. Musa TH, et al., Hum Vaccin Immunother 17: 3795-3805, 2021
  4. Li Z, et al., Emerg Infect Dis 26: 1091-1101, 2020
  5. Taiwan Centers for Diseases Control
    https://www.cdc.gov.tw/En/Category/ListContent/bg0g_VU_Ysrgkes_KRUDgQ?uaid=nx2oarjBljCn_78hBlI5fA (accessed on 13 June 2022)
  6. Chung MH and Kang JS, Infect Chemother 51: 196-209, 2019
  7. Korea Disease Control and Prevention Agency Annual Surveillance of Infectious Diseases
    https://www.kdca.go.kr/npt/biz/npp/portal/nppPblctDtaView.do?pblctDtaSeAt=1&pblctDtaSn=2139(accessed on 13 June 2022)
  8. Izzard L, et al., J Clin Microbiol 48: 4404-4409, 2010
  9. Masakhwe C, et al., J Clin Microbiol 56: e01124-18, 2018
  10. Cosson JF, et al., Parasit Vectors 8: 172, 2015
  11. Weitzel T, et al., Clin Microbiol Infect 27: 793-794, 2021
  12. Weitzel T, et al., Clin Infect Dis 74: 1862-1865, 2022

国立感染症研究所
 ウイルス第一部   
 安全実験管理部   
  邱 永晋 安藤秀二
 感染症疫学センター

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