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つつが虫病の臨床的特徴と, 類似疾患との比較

(IASR Vol. 43 p186-188: 2022年8月号)

 

 近年, リケッチア症の中で, 日本紅斑熱の届出数が増加しているが, つつが虫病も報告数が年間500例前後と多い。つつが虫病は治療可能な疾患であるにもかかわらず, 治療しないと死に至ることもあり1), 適切な診断・治療が重要である。

臨床的特徴

 リケッチア症で報告数の多い, つつが虫病と日本紅斑熱は症状が似ており, 発熱, 倦怠感, 頭痛, 悪寒などの非特異的症状を主訴に受診することが多い2)。また, つつが虫病患者はツツガムシというダニ類(タテツツガムシやフトゲツツガムシなど)の幼虫に刺咬された, と自覚することは稀である。例外的にアカツツガムシは刺咬後数時間すると, 「イラ感」=小棘の刺さったような痛み, を自覚する場合があるとされる。

 つつが虫病と日本紅斑熱の臨床的特徴は, 「①発熱, ②皮疹, ③刺し口」のいわゆる3徴が共通している。自験例3)での, つつが虫病(188例)と日本紅斑熱(31例)の3徴はそれぞれ, ①発熱(>37.5℃)を認めたものは73%と74%にとどまったが, ②皮疹は96%と100%, ③刺し口は87%と89%, と身体診察時に高頻度で認めた。しかし, 患者が自覚していたのは, つつが虫病と日本紅斑熱ではそれぞれ, ②皮疹は44%と60%, ③刺し口は12%と4%のみであった。3徴は, 医師が診断例で認識した頻度にすぎない。患者が必ずしも受診時に発熱を認めるとは限らず, 患者が皮疹や刺し口の存在を自覚したり, 自ら医師に伝える頻度は低いため, 医師が積極的にリケッチア症を疑って身体診察を行う必要がある(表1)。

身体所見(皮疹と刺し口)

 まず, 全身観察によって皮疹の分布や性状を評価する。両疾患における皮疹の共通点は, 表皮には異常を来さず, 辺縁不整のバラ疹であり, 浸潤を触れることもある。1つ1つの皮疹は, 濃淡・大小が混在し, 皮疹の中心部の方が濃い傾向があり, つつが虫病では小豆大~小指頭大, 日本紅斑熱は点状や米粒大~小豆大の大きさが多い。筆者はつつが虫病と日本紅斑熱の皮疹をそれぞれ, 「ぼたん雪様」と「粉雪様」と形容している。実際は, 多様性があり, 皮疹のみで診断するのは難しいこともある。皮疹が手掌や足底に見られるのは, 自験例において, つつが虫病で7%と少ないが, 日本紅斑熱患者は84%と多い。また診断時に, つつが虫病の紅斑が紫斑化していることは2%と稀だが, 日本紅斑熱では44%が紫斑化していた。

 そして, 刺し口は臨床的診断の決め手となるため, 全身くまなく検索する必要がある。特に下着の当たる所は見落としやすく, 注意して検索する。刺し口の性状は, 中心は潰瘍の上に黒色痂皮をともない, その周辺が辺縁不明瞭な紅斑で, 一部落屑をともなうというのが, つつが虫病の診断時の典型例である。時期によっては潰瘍ではなく, 水疱様のこともある。また, 自験例における刺し口の大きさは, つつが虫病(9.7±5.6mm) のほうが日本紅斑熱(5.8mm±2.1mm) より大きい。このように相違点はあるものの, 両疾患を臨床的に区別することは困難であることが多い。

鑑別診断

つつが虫病や日本紅斑熱の鑑別診断は, わが国では表2が参考になる。この表に含まれていないが非重症薬疹も重要である。また, ウイルス感染症の中でも重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)は, 執筆時点では主に西日本に届出例が多いが, 近年千葉県で感染例があることが報告され4), これまで届出のなかった地域でも注意が必要である。SFTSと日本紅斑熱を比較した研究5)では, SFTSは日本紅斑熱と比べ, CRPが基準値内, 白血球減少症, 皮疹や刺し口を認めない例が多い, と報告されているが, SFTSとつつが虫病を比較した研究でも同様の結果であった6)

治 療

 つつが虫病と日本紅斑熱はともに, テトラサイクリン系抗菌薬が第一選択薬である。内服/注射で, 成人はドキシサイクリン/ミノサイクリン1回100mgを, 小児(<45kg)は1回2.2mg/kgを12時間ごとに投与する。血清学的検査やPCRは急性期の感度が十分ではないため, 確定診断を待たず, 臨床的に疑った時点で治療を開始する必要がある。特に成人の重症例では, 初回200mgでローディングを行うと, より早期に血中濃度が安定するとの報告がある7)。ドキシサイクリンのほうがミノサイクリンより副作用が少なく推奨されるが, 日本でドキシサイクリンの注射薬が(執筆時点では)使用できない。つつが虫病は第二選択薬としてアジスロマイシンがあり, リファンピシンも有効である。つつが虫病にニューキノロンは無効であり, 使用を推奨しない。

 一方, 日本紅斑熱に推奨できる第二選択薬はない。同じ紅斑熱群リケッチア症のロッキー山紅斑熱に対する第二選択薬はクロラムフェニコールであり, ニューキノロン系抗菌薬は推奨されない〔米国疾病予防管理センター(CDC)〕8)

 自験例では, つつが虫病はテトラサイクリン系抗菌薬での治療開始後, 3日以内に87%が解熱したが, 日本紅斑熱は63%にとどまり, 発熱が遷延する傾向があった。しかし, 両疾患とも治療失敗例はなかった。

 つつが虫病と日本紅斑熱の治療期間に明確な根拠はない。米国CDCの推奨は, ロッキー山紅斑熱等への治療期間は解熱後最低3日間かつ臨床的改善を認めるまで, とある。治療への反応が良好な場合は最低5~7日程度で, 重症例や合併症例ではさらに治療期間を延長する。筆者は, 両疾患とも経験的に7~14日間の治療としている。

 
参考文献
  1. Taylor AJ, et al., PLoS Negl Trop Dis 9: e0003971, 2015
  2. Sando E, Hospitalist 5(3): 519-528, 2017
  3. Sando E, et al., Emerg Infect Dis 24(9): 1633-1641, 2018
  4. 平良雅克ら, IASR 42: 150-152, 2021
  5. Kawaguchi T, et al., Open Forum Infect Dis 7(11): ofaa473, 2020
  6. Park S-W, et al., BMC Infect Dis 19(1): 174, 2019
  7. Cunha BA, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 37(1): 15-20, 2018
  8. Holly M, Biggs, et al., MMWR Recomm Rep 65(2): 1-44, 2016
    *特に引用文献の記載のない内容は参考文献2)内に記載

福島県立医科大学総合内科・臨床感染症学講座         
北福島医療センター総合内科・感染症科
北福島医療センターリケッチア症研究所
 山藤栄一郎

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan