2021年の日本の伝播性薬剤耐性HIVの動向
(IASR Vol. 43 p225-226: 2022年10月号)
抗HIV治療歴のないHIV感染者において, 薬剤耐性変異をもつHIVが検出される場合があり, これらの伝播性薬剤耐性および治療前薬剤耐性の動向は, 初回推奨抗HIV療法の選択や予防投与の選択に必要な基礎情報である。
全国の医療機関の協力のもと, 2003年から研究班において新規未治療HIV感染者の伝播性薬剤耐性の動向調査を行っており1), 2021年(1~12月)は442例の新規登録例を解析した。これは, この期間にエイズ発生動向調査で報告されたHIV感染者とAIDS患者の合計を分母とすると, 約41.8%に相当する。
2021年新規登録例のサブタイプ・CRFは, B:77.3%, CRF01_AE:13.8%, GまたはCRF02_AG:1.6%, C:1.8%, CRF07_BC:2.0%, A:0.2%, その他:3.2%であった。
本邦での新規未治療HIV感染者の伝播性薬剤耐性変異の動向を図に示す。サーベイランスのための伝播性薬剤耐性変異のリストは, プロテアーゼ阻害薬(PI), 核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI), 非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)について2009年2)に, インテグラーゼ阻害薬(INSTI)について2019年3)に世界保健機関(WHO)のワーキンググループにより作成されたリストに従った。
図にはNRTI, NNRTI, PI, INSTIの4つのクラスの伝播性薬剤耐性変異の動向を, それぞれを色分けして示した。4クラスのいずれかの伝播性薬剤耐性変異を保有する率は2018年, 2019年に一時的に低下したものの, 2007年以降8-10%前後で推移し, 2021年は8.6%(38/441)であった。
2021年の薬剤クラス別内訳ではNRTI 5.9%(26/441), NNRTI 1.1%(5/441), PI 2.0%(9/441), INSTI 0.5%(2/440)であった。2021年新規未治療HIV感染者に検出された伝播性薬剤耐性変異の内訳を表1に示す。NRTIのラミブジン(3TC)やエムトリシタビン(FTC)に対する耐性変異であるM184Vは2020年の4件に引き続いて2021年も3件検出されており, 注意が必要である。比較的古い世代のPIに対する耐性変異のM46I/L, NRTIのジドブジン(AZT)などに対する耐性変異の復帰変異であるT215C/D/E/S/I/V(T215X)などは, 本邦で複数の伝播クラスタを形成して定着している。その他, 表1にリストされていないpolymorphic mutationも含めたminor mutationを表2に示す。NNRTIのリルピビリン(RPV)に対する耐性変異のE138A/G/Kは毎年3件以上検出されており, 2021年も3件検出された。
国内流行株の動向の変化とともに, 抗HIV薬の曝露前予防内服(PrEP)の普及や抗HIV薬の使用動向等の影響を受け, 本邦の薬剤耐性動向は変化していく可能性があり, 引き続き注視する必要がある。
本研究は日本医療研究開発機構エイズ対策実用化研究事業「国内流行HIV及びその薬剤耐性株の長期的動向把握に関する研究」により行われた。
参考文献
- 薬剤耐性HIVインフォメーションセンター
https://www.hiv-resistance.jp/ - Bennett DE, et al., PLoS ONE 4(3): e4724, 2009
- Tzou PL, et al., J Antimicrob Chemother. 75(1): 170-182, 2020
- Stanford University, HIVDB Algorithm Version 9.0
https://hivdb.stanford.edu/page/algorithm-updates/