国立感染症研究所

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鹿児島大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター・抗ウイルス療法研究分野の紹介

(IASR Vol. 43 p230-231: 2022年10月号)

 

 本邦には, HIVをはじめとするレトロウイルス感染症に関する基礎・臨床等の研究を遂行するセンターとして, 国立感染症研究所エイズ研究センター, 国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センターおよび鹿児島大学・熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター(ヒトレトロ研)があり, 連携をとりながら研究を推進しています。このたび2022年より, 鹿児島大学ヒトレトロウイルス学共同研究センターに, 新しく抗ウイルス療法研究分野を立ち上げましたので, 紹介させていただきます。HIVをはじめとするレトロウイルスに対する新しい治療薬・治療法の開発が研究テーマの中心となりますが, 肝炎ウイルスなどの難治性ウイルス疾患, さらには近年大きな問題となっている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する治療法の開発なども研究対象としております。

センターについて

 鹿児島大学(鹿大)ヒトレトロウイルス学共同研究センターは熊本大学(熊大)のヒトレトロウイルス学共同研究センター(旧エイズ学研究センター)との共同センターとして2019年に設立されました。統合の目的としては, 世界水準のウイルス研究を行うために, それぞれの研究分野の強みを活かしながら研究力の相乗効果を図るため, お互いの研究領域の乗り入れ, 研究設備および機器の共有, 人事などの共同運営を行うこと, があります。そのために両大学の研究部門を所属キャンパスによってではなく, 研究テーマに従い4つの研究部門(感染予防部門, 病態制御部門, 治療研究部門, 国際先端研究部門)に再編成しています。鹿大キャンパスの母体となった難治ウイルス病態制御研究センターは鹿大桜ケ丘キャンパスに1993年に設立されました。以降, HTLV-1によって起こる血液疾患である成人T細胞白血病(ATL)や神経疾患のHTLV-1関連脊髄症(HAM), HIV, B型肝炎ウイルス(HBV)などの難治性ウイルス感染症を中心とした研究を進めてきましたが, 並行して重症熱性血小板減少症候群(SFTS)や近年のSARS-CoV-2などの新興感染症に対する病態解明, 治療法開発も行ってきました。

 鹿大キャンパスの特徴として, 熊大キャンパスの研究室の多くがHIVの研究をメインに据えているのに対して, 鹿大キャンパスでHIVを主要テーマに掲げるのは私の教室のみで, それ以外はHTLV-1(HAM, ATL)を研究する分野や, HBVを含む複数のウイルス治療開発を行っている教室など, 非常に多岐にわたることが挙げられます。さらに, 熊大がワクチンや中和抗体など, 免疫学的研究を得意とするラボが多いのに対して, 鹿大は治療, 特に治療薬の開発研究を主要テーマとする分野が多く, それが大きな特色となっております。さらにヒトレトロ研となった後にトランスレーショナル部門が新たに設置され, 基礎研究のシーズをこれらのウイルス疾患に対する治療法として社会実装するための体制構築も進んでいるところです。

抗ウイルス療法研究分野について

 当分野は筆者(前田)が今年の4月に着任した新しい研究室で, 現在その立ち上げが進んでいるところです。教室は鹿大の大学病院がある桜ケ丘キャンパス内にあります。HIVやSARS-CoV-2の研究に必要な当分野のBSL3実験設備(p3実験室)は桜ケ丘キャンパスで唯一稼働中のp3実験室であり, ヒトレトロ研の各分野, あるいは鹿大病院・医学部の感染症に関連する部門との共同研究でも今後重要な役割を果たしていければと考えております。まだスタッフの数も少ないですが, 幸いに筆者がこれまでに行ってきた国内の複数の研究グループとの共同研究体制を現在も継続できており, これから鹿児島でできることを増やしていきたいと思っております。

 HIV感染症/AIDSの治療に関しては, 満屋裕明先生や当教室の前任教授の馬場昌範先生のお仕事である逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤, インテグラーゼ阻害剤など, 各種の抗HIV薬の開発により, HIV感染患者の予後とQOL(quality of life)は大きく改善しています。HIV創薬研究の次の大きな課題として, これら既存の治療(多剤併用療法: cART)では成し得ないHIVの体内からの駆逐(治癒)を可能とする新しい治療の開発が挙げられていますが, くしくも他のウイルス感染症, 例えば肝炎ウイルスなどでも, どのようにすればウイルスを体内から駆除できるのか, あるいは再燃を防ぐことができるのか, といった『治癒』を目指す試みが今, 活発に検討されているのは皆様ご存知の通りです。私はこれまでHIVの治癒を目指す研究を中心にやってきましたが, 鹿大キャンパスにはHBVやHTLV-1などで同じゴールを目指す研究グループがあるので, 是非それにも携わっていきたいと考えております。

 新しい場所での新しい教室の立ち上げは大変ではありますが, ここでのメリットを活かした独自のウイルス研究を目指して頑張りたいと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。


国立大学法人鹿児島大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター抗ウイルス療法研究分野
 前田賢次

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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