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第35回日本エイズ学会学術集会・総会
―未来統合型社会・臨床・基礎連携:SCB to the future―開催報告

(IASR Vol. 43 p231-232: 2022年10月号)

 
はじめに

 第35回日本エイズ学会学術集会・総会は, 国立感染症研究所エイズ研究センター 俣野哲朗センター長が会長を務め, 2021年11月21日(日)~23日(火)に, グランドプリンスホテル高輪にてハイブリッド形式で開催された。私は, プログラム委員長として, エイズ研究センターメンバーとともに本大会の主催・運営に携わる機会をいただいた。本稿では, 第35回日本エイズ学会学術集会・総会の開催概要について, ご報告したい。

日本エイズ学会学術集会・総会の特色

 日本エイズ学会(The Japanese Society for AIDS Research)は, HIV/AIDSに関する諸問題の研究の促進, 会員相互の交流および知識の普及と啓発を図ることを目的としており, HIV/AIDSにかかわるすべての人が会員になることができる。年1回開催される学術集会・総会は, さまざまな背景を持つ人々が集まり, HIV感染症のコントロールに向けて, 最新の研究成果の発表, 情報の共有・発信, 議論を行う場となっている。病態解明, 治療薬・ワクチン・検査法開発, 疫学研究などを行う基礎研究者(基礎部門), 医師・看護師・薬剤師・ケアワーカーなどHIV/AIDS診療を担う医療従事者(臨床部門), HIVの予防対策や啓発に関する研究を行う社会学者, HIV陽性者, また陽性者を支援する団体関係者など(社会部門)が主な参加者である。このように, 基礎研究から社会学まで, 1つの感染症克服に向けて, 当事者・関係者が一堂に会することのできる学術集会は, 私の知る限りでは国内にはなく, 唯一無二の場となっている。基礎・臨床・社会の3部門から構成され, 各部門のプログラム委員長が中心となり, プログラム全体を構成している。また, 学術集会の開催に合わせ, 市民公開講座を開催し, 地域コミュニティーの皆様にHIV/AIDSや感染症に対する知識を深めていただく機会を設けている。例年, 3日間の日程で, 日本各地で現地開催されてきたが, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大により, 第34回(2020年)はオンラインでの開催となり, 第35回は現地開催とweb配信によるハイブリッド形式での開催となった。

第35回日本エイズ学会学術集会・総会のトピックス

 1. 社会(Social), 臨床(Clinical), 基礎(Basic)の連携

 日本エイズ学会学術集会・総会では, 会長の思いを込めたメインテーマが掲げられ, 各会の特色を打ち出しているが, 本大会では「未来統合型社会・臨床・基礎連携:SCB to the future」をメインテーマとした。これまで, HIV/AIDS研究では, HIV感染症への取り組みとして, 分子・細胞レベル, 個体レベル, 集団・社会レベルそれぞれでの課題克服, さらにレベル間の相互連携の重要性が考慮されてきた。本大会では, 各分野の研究の進展に加え, SCBの連携をさらに発展させることで, HIV感染症コントロールを目指し, 未来に向けた新たなメッセージを発信していきたいと考えた。例年, 基礎-臨床, 臨床-社会といった2分野間での連携シンポジウムは開催されてきたが, 本大会では全部門横断的な「SCBシンポジウム」を企画した。難解になりがちな基礎研究の講演では分かりやすい説明を心がけていただき, 参加者全員が問題意識を共有し, 理解し, 意見を交換する場となった。「HIV感染症の根治に向けての課題」, 「ゲノム研究とその応用に向けた陽性者, コミュニティー, 研究者, 医療者の対話」, 「HIV感染者のワクチン接種」では, HIV/AIDSに残された重要な課題について, 議論が交わされた。さらに, 〔COVID-19 & HIV感染症~「みえない感染拡大」の脅威と制御~〕をテーマとした2つのSCBシンポジウムも開催された。HIV感染症は, 長い無症候期間を経てAIDSを発症する感染症であるため, 私達HIV/AIDS関係者は, 症状のない方が感染を拡げてしまう「みえない感染拡大」の制御の難しさに直面してきた。現在, SARS-CoV-2の感染拡大において, 「みえない感染拡大」の脅威を再認識させられており, その制御には, 研究者・医療者のみでなく, コミュニティー・社会全体で取り組まなければならないことを実感している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病態・ワクチン/治療薬/検査法開発, HIV感染者におけるCOVID-19診療, COVID-19拡大下でのHIV検査やHIV治療における課題, についての講演が行われた。専門家による分かりやすい説明により, COVID-19についての正しい知識を得られ, またCOVID-19がHIV感染症の現場に与えている影響についても整理することができるシンポジウムとなった。

 SCBシンポジウムでは, 各専門家からの発表に対し, 専門外の参加者からの素朴な疑問や新たな視点での質疑応答が交わされており, 参加者の1人として大変有意義な時間を過ごすことができた。

 2. 国際連携

 SARS-CoV-2の感染拡大では, 感染症に国境はなく全世界共通の脅威となること, 国際連携が重要であることを再認識することとなったが, HIV感染症に対する取り組みとして, その感染拡大から約40年を経過した現在でも, 国際連携は最重要項目として位置付けられている。本大会では, HIV/AIDS研究の第一線で活躍されている海外研究者から多くの講演をいただいた。基調講演として, 南アフリカ共和国で長年HIV/AIDSに関するさまざまな研究・対策を推進してこられ, 現在はSARS-CoV-2対策の陣頭指揮も執っておられるSalim S. Abdool Karim博士に「AIDS and Covid-19: The imperative to control these colliding pandemics」と題したご講演をいただいた〔Karim博士ご夫妻は, 令和4(2022)年8月3日, これまでのエイズ予防・治療への貢献に対し, 日本政府から第4回「野口英世アフリカ賞」を授与された〕。HIV/AIDS, COVID-19両者の最新の研究成果とともに, 感染症対策のポイントについて明快にお話しいただき, 大変充実した内容であった。基礎部門では, 日米医学協力共催シンポジウム, 日仏シンポジウム, 臨床部門では, 欧州エイズ学会との共同企画シンポジウム, 社会部門では, 共催シンポジウムとしてアジア諸国の識者によるシンポジウムが開催された。感染症対策のため, 残念ながら海外演者の方々に来日いただくことは叶わなかったが, ライブ講演では時差を感じさせない活発な議論が行われ, SARS-CoV-2の感染拡大後, 海外学会参加の機会を奪われている若手研究者や学生の皆さんに対して, 貴重な機会を提供できたように思う。

終わりに

 第35回日本エイズ学会学術集会・総会は, 参加登録者数は1,311名, 現地来場者数は延べ786名にのぼり, ライブ配信視聴数は約6,800回であった。約1カ月間のオンデマンド配信期間の総接続数は25,000回に迫るものであり, 盛況のうちに幕を閉じた。本大会では, “連携”がキーワードであったと考える。HIV/AIDSとCOVID-19, いずれも解決すべき課題が残されているが, 本大会が国内外での関係者, 社会全体での連携をさらに強化し, これらの感染症克服に向けて一助となることを, 主催者の一員として願うばかりである。


国立感染症研究所エイズ研究センター
 立川(川名) 愛

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