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東京都における新型コロナウイルス感染症の重層的モニタリング項目の活用と全数届出の変更にともなうモニタリング項目の見直し

(IASR Vol. 43 p282-284: 2022年12月号)
 

 東京都は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策として, 都内における発生動向に関する複数のモニタリング項目を設定し, 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議で最新の発生動向についてモニタリング分析の結果を報告・公表するとともに1), 東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)で, モニタリング項目およびその他参考指標のデータを都民向けに提供してきた。

 モニタリング項目は, 区分として感染状況および医療提供体制に分け, 感染状況については①新規陽性者数に加え, 潜在・市中感染を示す②#7119(東京消防庁救急相談センター)における発熱等相談件数, ③新規陽性者における接触歴等不明者数(本指標の解釈においては感染の発生状況とともに, 調査体制・強度も同時に反映することに留意), を設定した。また, 医療提供体制では, 検査体制として④検査(PCR/抗原)の陽性率および検査人数を, 患者受入体制としては, ⑤救急医療の東京ルールの適用件数, ⑥入院患者数, ⑦ 重症患者数を設定し, 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議で前回との比較状況を提示し, 総括コメントを付した(図上)。これらの指標は, 東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトのダッシュボードでユーザーが描画範囲の日数や対象を選び, 必要なグラフを可視化できるようにした。また, データの解釈に関する注釈等とともに, オープンデータとして利活用が可能な状態で提供してきた。

 国立感染症研究所感染症疫学センターでは, いわゆる症候群サーベイランスとして東京都が公開したモニタリング項目等のオープンデータを基に, COVID-19の東京都における発生動向を把握するために, 検査数と陽性数から求められる陽性率, モニタリング項目に含まれる#7119(東京消防庁救急相談センター)における発熱等相談件数, 救急医療の東京ルールの適用件数に加え, 東京都発熱相談センターにおける相談件数, 新型コロナコールセンター相談件数を複合的かつ経時的にモニタリングしてきた。東京都発熱相談センターにおける相談件数, 新型コロナコールセンター相談件数は, 発熱や関連する相談など, 診断を要しない症状等に起因する指標であり, これらのいわゆる症候群サーベイランスとしての指標は, 陽性数より立ち上がりが若干早く, 検査体制や検査キャパシティ等の検査と関係するバイアスを受けない特徴がある。ただし, 同様な症状・所見を起こす他の要因の影響を受けることから, 他の指標とあわせて解釈することで活用する必要がある(図下)。

 なお, 東京都では, 2022年9月26日の全数届出の見直しを契機として, モニタリング項目の見直しを行った。まず, 各項目について分析する意義や精度を整理し, 「接触歴等不明」の新規陽性者数など, 一部の項目の分析を終了するとともに, 「検査の陽性率」については, 「医療提供体制」から「感染状況」にその位置付けを変更した。これは「検査の陽性率」が感染状況を反映し, 発生動向の変化を捉えていたことを考慮し変更したものである(図下)。また, 「入院患者数」と「重症患者数」の分析項目には, それぞれ「酸素投与が必要な入院患者数」と「オミクロンの特性を踏まえた重症患者数」を追加するなど, 重症・中等症の患者数のモニタリングについて一層の重点化を行うこととした。このように, モニタリング項目の整理・集約を行うとともに, 重症・中等症の患者数などに焦点を当て, 分析を継続し, 次の感染拡大も見据えたモニタリング体制へ移行した()。

 以上, 東京都におけるCOVID-19の重層的モニタリング項目の活用と全数届出の変更にともなう項目の見直しについて報告した。COVID-19の発生動向の監視として, 複数の指標を重層的に活用するとともに, 感染状況および医療提供体制を的確に把握できるよう情勢変化に合わせて指標となる項目の見直しを行い, 継続したデータ収集と分析により公衆衛生対策につなげることが重要である。

 (補足)東京都福祉保健局ホームページ「最新のモニタリング項目の分析・総括コメントについて」においても, モニタリング項目の分析結果を掲載している(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/info/monitoring.html)。

 

参考文献

 

東京都福祉保健局             
 杉下由行(現墨田区保健所) 道傳 潔
 高庄卓也 須田一馬 土本 哲 生江有理沙
 高木颯統 鈴木和典 西塚 至      
国立感染症研究所感染症疫学センター第四室, 第六室     
 高橋琢理 新城雄士 笠松亜由 小林祐介
 新橋玲子 有馬雄三 大谷可菜子 神垣太郎
 加納和彦(現品質保障・管理部) 土橋酉紀(現地疫学研究センター)
 大塚美耶子(現長崎大学大学院プラネタリーヘルス学環)
 髙 勇羅(現東北大学大学院医学系研究科微生物学分野)
 山内祐人(現国際協力機構人間開発部) 鈴木 基

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