IASR-logo

基幹定点医療機関とJANISにおけるペニシリン耐性肺炎球菌感染症報告の推移

(IASR Vol. 44 p16-17: 2023年1月号)

 

 国内のペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae: PRSP)のサーベイランスには, 1999年4月施行の感染症法に基づく, 基幹定点医療機関の入院患者におけるPRSP感染症が月ごとに届出される感染症発生動向調査(National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseases: NESID)と, 統計法に基づき任意参加の医療機関で行われている, 保菌を含めたPRSP検出状況が把握できる厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infections Surveillance: JANIS)検査部門がある。

NESID

 都道府県が定めている小児科と内科を標榜している病床数300以上の医療機関からなる約500の基幹定点から報告されている(図1)。肺炎球菌の薬剤感受性はClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)の耐性基準を基に最小発育阻止濃度≧0.125を用いている(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-37-01.html)。2012~2021年までに全国の基幹定点医療機関から報告されたPRSP感染症(n=20,466, 2022年10月31日時点)は, 2012~2013年は年間3,000例を超える報告数であったが, 2014~2019年は年間2,000例前後で推移し, 2020年以降は年間1,000例を下回った(2021年定点当たり報告数1.78)。性別は男性が12,147例(59%)と多く, 年による変化を認めなかった。年齢群別の報告数は, 4歳以下の減少が継続していたが, 2021年は増加し, 65歳以上は2020年以降も減少傾向が継続した(2019年856例, 2020年501例, 2021年403例)。分離検体は喀痰が48%と最も多かった。血液あるいは髄液から分離された, いわゆる侵襲性PRSP感染症, と考えられる報告は10年間でそれぞれ806例, 144例であった(重複なし)。2020年以降, 年間報告数はほぼ半減した(2019年115例, 2021年52例)が, 届出数に占める血液と髄液から分離された割合はほぼ横ばいであった(2019年6.6%, 2021年6.1%)。

JANIS検査部門

 陽性陰性を含む培養検査結果を収集する, 世界で最も包括的な薬剤耐性サーベイランスの1つである。2021年時点の集計対象医療機関数は2,220医療機関で, これは国内医療機関約8,300の約27%であった。肺炎球菌の薬剤感受性はCLSIの耐性基準を基に, 髄液検体では最小発育阻止濃度≧0.12を用い, 血液検体では≧8を用いている〔https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2014/3/1/ken_Open_Report_201400(clsi2012).pdf〕。2021年の入院における総検体検査数は8,056,447検体であった。検出患者および薬剤感受性の算出に当たり重複処理を行った。血液検体および髄液検体それぞれで検出患者を集計し, 同一患者から陽性検体が重複した場合は最初の検体の薬剤感受性のみを採用した。

 2018~2021年までの年ごとの入院外来を含めた血液検査由来および髄液検査由来の肺炎球菌をペニシリン感受性, 低感受性, 耐性に分類し, その分離患者数と, 総検体提出患者10万人当たりの分離率を図2に示す。2021年の血液および髄液由来肺炎球菌検出患者数は1,532名および128名で, 血液検体由来, 髄液検体由来ともに2020年, 2021年の分離患者数およびそれを各検体提出患者数で除した分離率が2019年以前より減少していた。また, 耐性率(肺炎球菌分離患者数に占めるPRSP分離患者数の割合)については, 血液検体由来では2021年で0.2%であったのに対し, 髄液検体由来では2021年で61%であり, 前年の33%と比較し上昇していた。この点は, 髄液検体由来分離患者数が128と少数のため, 注意深く経過を追う必要がある。

 年齢別肺炎球菌検出患者数は血液検体由来, 髄液検体由来ともに未就学児と高齢者が多かった(図3)。

 本稿で示す通り, 2020年以降のPRSP感染症は, 侵襲性, 非侵襲性ともに減少してきている可能性が示唆され, これはフィジカルディスタンスやマスク着用など, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の影響があると考えられた。検体ごとのPRSP検出の頻度やその経年変化には違いがあり, その動向に注意していく必要がある。


国立感染症研究所
 実地疫学専門家養成コース(FETP)
  大竹正悟
 実地疫学研究センター
  島田智恵 砂川富正
 感染症疫学センター
  新橋玲子 有馬雄三 鈴木 基
 薬剤耐性研究センター
  梶原俊毅 矢原耕史 北村徳一 山岸拓也 黒須一見 菅井基行

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan