国立感染症研究所

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の共感染例の臨床像

(IASR Vol. 44 p14-16: 2023年1月号)

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック後は侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の有病率の低下が報告されている1)が, 我々はCOVID-19にIPDが共感染した症例を経験したので提示する。

<症例>

 60代, 男性

 肺炎球菌ワクチン接種歴なし

 現病歴: 2020年4月に発熱と咳嗽を認め, 4日目に近医を受診し, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RT-PCR検査陽性となった。7日目に酸素吸入が必要な状態となり入院した(図1)。8日目に呼吸状態が悪化し, 前医に転院した。胸部CTでは両肺野胸膜下や気管支血管周囲にすりガラス陰影および浸潤影を認めた(図2A, B)。同日気管内挿管し, 人工呼吸器管理となった。12日目にPaO2/FiO2比120へ悪化し, 体外式模型人工肺(ECMO)治療目的に札幌医科大学附属病院に転院した。

 併存症: 高血圧症で降圧薬内服 手術歴:なし

 喫煙歴: 20本/日20~40歳

 飲酒歴: 焼酎200-300mL/日

 生活歴: 94歳の母, 妻, 息子と同居。小児との接触はない。

 血液検査: 白血球10.0×103/µL(好中球88.7%, リンパ球7.1%, 好酸球0.0%), Hb9.3g/dL, 血小板251×103/µL, CRP37.92mg/dL, PCT3.08mg/dL, BUN50mg/dL, Cre1.45mg/dL, LDH393U/L, D-ダイマー16.6µg/mL。SARS-CoV-2 RT-PCR陽性。

 入院後経過: 12日目の血液培養4/4ボトルからStreptococcus pneumoniae培養陽性。血清型3型でムコイド型, ペニシリン感性(PCG≦0.03)であった(前医8日目の血液培養は陰性)。胸部CTは広範な両側性のすりガラス陰影と浸潤影を認めたが(図2 C, D), 細菌性肺炎の像を区別するのは困難と考えられた。同日VV-ECMOを開始し, シクレソニド800µg/日, タゾバクタム(TAZ)/ピペラシリン(PIPC)4.5g 6時間ごと, リネゾリド(LZD)600mg 12時間ごとで治療を開始した(図1)。抗菌薬は14日目にde-escalationした。16日目に血液培養は陰性化した。呼吸管理が長期化し35日目に気管切開した。56日目の胸部CTでは両肺のすりガラス陰影は改善を認めた(図2 E, F)。しかしながら下痢と腸管出血が44日目から持続していたため, 55日目に小腸を外科的切除した。病理では小腸粘膜組織に上皮びらんと出血を認めたが, 血栓はなかった。57日目に胆嚢切除術を施行し, 急性壊疽性胆管炎も併発した。76日目に多臓器不全の状態となり, 85日目に死亡した。

<考察>

 本患者はSARS-CoV-2に感染するまでおおむね健康であったが, 感染症の重症度が高く, さらに様々な病態を併発した。Toombsらは2例のCOVID-19とIPDの共感染例を報告しており, うち1名は死亡した2)。英国の報告ではCOVID-19とIPDの共感染はSARS-CoV-2感染の0.025%, IPDの3.5%と稀であるが, 単独感染に比べ致命率が高いとされている3)

 なお, 本症例の詳細は文献4に報告しており, 参照いただきたい。

 

参考文献
  1. Juan HC, et al., J Infect 82: 282-327, 2021
  2. Toombs J, et al., J Med Virol 93: 177-179, 2021
  3. Amin-Chowdhury Z, et al., Clin Infect Dis 72: e65-e75, 2021
  4. Kuronuma K, et al., J Infect Chemother 27: 1108-1111, 2021

札幌医科大学医学部呼吸器・アレルギー内科学講座
 黒沼幸治

 

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