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LAMP法による肺炎球菌血清型別の有用性

(IASR Vol. 44 p6-7: 2023年1月号)

 
はじめに

 肺炎球菌の血清型別は従来から莢膜膨化法が用いられ, 近年ではmultiplex PCR法(PCR法)による血清型別も開発されているが1), 従来法に比べ, 迅速・簡便・安価なLAMP法による肺炎球菌血清型別について報告する。

方 法

 沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)および23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)に含まれる血清型(1, 2, 3, 4, 5, 6B, 7F, 8, 9N, 9V, 10A, 11A, 12F, 14, 15B, 17F, 18C, 19A, 19F, 20, 22F, 23F, 33F)の肺炎球菌が持つ血清型特異的な塩基配列に対するLAMP法のプライマーを設計した2,3)。LAMPプライマーの配列, LAMP反応液の組成および反応条件は参考文献に示すが2,3), LAMP反応液は市販のキット(Loopamp DNA増幅試薬キット, 栄研化学)を用いてもよい。LAMP反応の検出は, リアルタイム濁度測定装置(LoopampEXIA/LA-200, 栄研化学)を用いて行ったが, ヒートブロックや恒温槽を用いて60分間保温し, 目視にて反応溶液の濁度で判定しても行える。

 本研究では, はじめに国立感染症研究所細菌第一部にて莢膜膨化法(Statens Serum Institute製血清)により血清型の確認を行い, 標的および関連する血清型を有する肺炎球菌株を用いて, 新たに開発された方法の検出感度および検出特異度を従来法のPCR法1)と比較し, 検討した。さらに, 臨床応用に向けて髄液検体および血液に目的の血清型ゲノムDNAをスパイクし, 検出感度を評価した。

結 果

 肺炎球菌株を用いた評価では, LAMP法の特異度は良好で, ワクチンターゲット以外の血清型との交差反応を認めなかった。LAMP法の検出感度は血清型により異なり, 反応当たり10-100DNAコピーであり, 10-106DNAコピーのPCR法と同等, もしくはそれ以上の感度を認めた。DNAをスパイクした臨床検体を用いた検出感度の評価では, LAMP法は精製されたDNAを使用した場合と同等の結果を得たが, PCR法では検出感度の減少傾向を認めた2,3)。特に, DNAをスパイクした血液検体を用いた場合では, LAMP法は18C, 22Fおよび23Fのみにおいて10倍の検出感度の減少を認めたのに対し, PCR法では血清型2, 8, 20および33Fのみにおいて精製されたDNAを使用した場合と同等の結果を得たが, それ以外の血清型においては10-1,000倍以上の検出感度の減少を認めた。

考 察

 LAMP法は迅速・簡便・安価で, 臨床サンプルによる反応阻害に対しても安定した結果を示している。途上国や設備の不十分な検査室でも使用できる可能性があり, 肺炎球菌血清型の疫学的研究を促進することが期待される。現在, PCV13やPPSV23の広範な使用後に出現することが予測されるnon-vaccine type(ワクチンに含まれない血清型の肺炎球菌)のLAMP法による血清型別についても準備を進めている。

 謝辞: 本研究は, 日本学術振興会・二国間交流事業(2014年度~)および韓国厚生省保健産業開発研究所(KHIDI)助成金(2019年度)を受領し行った。本研究にご協力いただきました日本大学医学部, 明海大学歯学部および韓国の漢陽大学薬学部の関係各位に感謝します。

 

参考文献
  1. Centers for Disease Control and Prevention, List of oligonucleotide primers used in 41 conventional multiplex PCR assays for pneumococcal serotype deduction of 70 serotypes
    https://www.cdc.gov/streplab/downloads/pcr-oligonucleotide-primers.pdf
  2. Takano C, et al., Sci Rep 9(1): 19823, 2019
  3. Lee J, et al., PLoS ONE 16(2): e0246699, 2021

明海大学歯学部形態機能成育学講座口腔小児科学分野
 関 みつ子 
国立感染症研究所細菌第一部
 常 彬

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan