国立感染症研究所

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小児侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の発生動向および起炎菌血清型変化の解析

(IASR Vol. 44 p11-12: 2023年1月号)

 
はじめに

 日本では, 小児の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)予防を目的として2010年2月から7価肺炎球菌結合型ワクチン(7-valent pneumococcal conjugate vaccine: PCV7)が導入され, さらに2013年11月には13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)への切り替えが行われた。ワクチン導入後に, 小児のIPD罹患率は有意に減少した1)。しかしながら, PCVはワクチンに含まれない血清型の莢膜多糖体抗原(non-vaccine serotypes: nVT)を持つ肺炎球菌感染症に対しては予防効果を示さないため, nVT肺炎球菌による感染症の相対的, あるいは絶対的増加が, 血清型置換(serotype replacement)として世界的に問題視されている2,3)。本稿では, PCV13導入後の小児IPDの疫学的, 細菌学的変化に着目して概説する。

対象と方法

 われわれの研究班は, 小児侵襲性細菌感染症のアクティブサーベイランスをワクチン導入前の2008年より継続して実施している。調査対象地域は, 北海道, 福島県, 新潟県, 千葉県, 三重県, 岡山県, 高知県, 福岡県, 鹿児島県, 沖縄県の1道9県である。報告対象患者は, 生後0日~15歳未満のIPD全例である。罹患率の算出には, 総務省統計局発表の各年10月1日時点の県別推計人口を用いた。ワクチン導入後の罹患率の変化を評価するために, 2008~2010年の罹患率をベースとして, 各年における罹患率の減少率を計算した。菌の同定・血清型解析は, 国立感染症研究所で実施し, 血清型分布の変化について検討を行った。

結 果

 2008~2021年までの14年間で, 1,994例の5歳未満IPD患者が報告された。5歳未満人口10万人当たり罹患率は, PCV7公費助成前のベースライン期では25.0であったが, その後減少傾向となり, PCV13へ切り替え後の2014年から2019年にかけて罹患率が25.0→10.7へと, 57%減少した(図1)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの2年間では, さらなる罹患率の減少が認められた(2020年6.0, 2021年5.9)。

 起炎菌血清型解析が可能であった5歳未満のIPD症例1,454例より分離された肺炎球菌の血清型別割合の推移を示す(図2)。ワクチン導入前にはPCV7含有血清型が約80%を占めていたが, 2013年には4.3%まで減少した。PCV7導入後から増加傾向を示し, 2013年には49%であったPCV13含有(PCV13-PCV7)血清型は, PCV13への切り替え後に減少し, 2021年には起炎菌血清型はすべてnVTとなった。2021年に最も多く検出された血清型は15A(17%)と24F(17%)であり, 次いで24B(13%), 15C(9%)であった。

 起炎菌血清型別にみた5歳未満IPD罹患率の推移を図3に示す。PCV13含有血清型肺炎球菌によるIPDは, 2014年以降減少していったが, nVT(non-PCV13 type)によるIPD罹患率は絶対的増加を認めた(2013年5.1, 2019年9.8)。

考 察

 PCV13は, ワクチンでカバー可能な血清型の肺炎球菌による小児IPDの予防に極めて有効であることが示された。しかしながら, 高い接種率で予防接種が実施された結果として, serotype replacementが観察され, ワクチンでカバーされない血清型によるIPDの罹患率増加が起こったことも明らかになった。また, COVID-19パンデミックにともなうIPD罹患率低下が認められたことは, マスク着用や行動制限などの非特異的感染予防策も, IPD発症予防に一定の効果があることを示唆している。

 Serotype replacementに対して, さらに幅広い血清型をカバーするワクチンや, すべての肺炎球菌の共通抗原をターゲットとした次世代型ワクチンの開発が望まれる。現在のところ, PCV15(PCV13+22F, 33F)の製造販売承認申請が行われ, PCV20(PCV15+8, 10A, 11A, 12F, 15B)の治験が進行中である。本研究班の2021年のデータに基づくと, PCV20の導入によりさらに5歳未満IPDの約20%程度が予防可能であると推測される。起炎菌血清型の変遷に注視して引き続きサーベイランスを継続し, 新規ワクチンの有効性を評価していく必要がある。

 

参考文献
  1. Suga S, et al., Vaccine 33: 6054-6060, 2015
  2. 菅 秀ら, IASR 39: 112-114, 2018
  3. Hanquet G, et al., Emerg Infect Dis 28(1): 137-138, 2022

国立病院機構三重病院小児科 菅 秀
北海道大学 石黒信久
福島県立医科大学 細矢光亮
千葉大学 石和田稔彦
新潟大学 齋藤昭彦
岡山大学 小田 慈
高知大学 藤枝幹也
福岡看護大学 岡田賢司
鹿児島大学 西 順一郎
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 張 慶哲
国立感染症研究所 常 彬

 

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