国立感染症研究所

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大阪府における侵襲性肺炎球菌感染症由来菌株の血清型分布: 2018~2021年

(IASR Vol. 44 p7-8: 2023年1月号)

 侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)は, 菌血症, 菌血症をともなう肺炎, 髄膜炎など肺炎球菌が無菌部位から検出される感染症で, 2013年4月1日より感染症法の定める5類感染症の全数把握疾患となっている。予防のためワクチンの接種が推奨されており, 5歳未満の小児用には沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13), 65歳以上の高齢者には23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)が定期接種化されている。これらワクチンの効果検討のため, 厚生労働省による感染症流行予測調査事業の一環としてIPDの感染源調査が行われており, 大阪府では2013年8月より当該事業に参画して菌株の収集および解析を実施してきた。今回は, 2018~2021年に大阪府内で発生したIPD由来株を収集し血清型別を実施したので報告する。

 対象と方法: 2018年1月1日~2021年12月31日までに大阪府内で発生したIPD症例を対象とし, 0~4歳を小児, 5~64歳を児童~成人, 65歳以上を高齢者, と定義した。届出症例のうち, 医療機関等から分離菌株の提供を受けたものについて, デンカ生研およびSSI Diagnostica製の抗血清を用いて血清型別を実施した。なお, 年別の集計には診断日を用いた。

 結果: 大阪府内のIPD届出件数は2014年より増加傾向にあったが1), 2020年以降著しく減少し, 2021年の届出件数は最も多かった2018年の33%となった(図1)。世代別の届出数を2021年/2018年で比較すると, 児童~成人28%(12/43), 高齢者30%(55/183)と顕著に減少したが, 小児では49%(27/55)の減少にとどまっていた。

 届出症例(770件)のうち菌株を収集できたのは51%(395件)で, それらの血清型別の結果を図2に示す。全世代を通じて多かった血清型は, 12F, 10A, 15A, 35B, 15B型の順で, 高齢者では3型と12F型, 児童~成人では12F型, 小児では24F型が最も多かった。接種対象世代別のワクチンカバー率(ワクチン対応血清型の割合)は, 小児に対するPCV13では4%, 高齢者に対するPPSV23では63%となった。小児由来113株のうち, PCV13含有血清型分離症例(5例)はいずれもPCV13接種歴があり, 3型(1株, 1回接種済み), 19A型(2株, 4回接種済み), 23F型(2株, 3回接種済み)であった。一方, 高齢者由来219株のうち, ワクチン接種歴が確認できたのは19例であった。このうち, ワクチン対応血清型が分離されたのは10例で, 多い順に3型(4例), 19A型(3例), その他(3例)となった。

 分離株の上位5種類の血清型の年次推移については, 図3に示したように, 2017年に引き続き12F型が2018年も最多となったが, その後減少に転じて2020年以降ほとんど検出されなかった。他の血清型は明らかな増減傾向を示さなかった。

 考察: 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックがさまざまな感染症の発生状況に影響しており, 世界的なIPDの減少2), 大阪府におけるA群溶血性レンサ球菌感染症を含む小児感染症の減少が報告されている3)。本報告でも同様に, 2020年以降に大阪府内のIPDの顕著な届出数減少が認められ, COVID-19パンデミックの影響によって手洗いやマスク着用などの生活様式に変化が生じたため, 発生が抑制されたと推測された。

 小児のワクチンカバー率は2011~2013年が64%1), 2014~2017年が9%1), 2018~2021年が4%と, 引き続き減少傾向にあった。このことから, ワクチンによる予防効果があった一方で, ワクチン対応血清型から非対応血清型への血清型置換が生じたものと推測された。高齢者においては, ワクチンカバー率(63%)は以前の報告(69%)1)とほぼ同じであり, 明確なワクチンの効果は認められなかった。

 2017年から確認されてきた12F型の増加については, 2020年にほぼ終息した。PCV13に含まれていないなど何らかの要因で12F型が流行していたと考えられ, 今後もこのようなワクチン非対応血清型によるIPD増加に注意が必要であることが示唆された。

 謝辞: 本調査研究に対する医療機関, 臨床検査機関, 関連自治体のご協力に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. 河原隆二ら, IASR 39: 110-111, 2018
  2. Angela BB, et al., Lancet Digital Health 3: e360-e370, 2021
  3. Sakon N, et al., Microorganisms 10: 1947, 2022

阪健康安全基盤研究所微生物部細菌課     
 河原隆二 山口貴弘 安楽正輝 河合高生  
大阪府健康医療部保健医療室感染症対策企画課    
 山地良彦 西森彩音 池条裕希絵 上野菜美

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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