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神戸市における侵襲性肺炎球菌感染症由来12F型の分子疫学解析

(IASR Vol. 44 p8-9: 2023年1月号)

 
はじめに

 侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)は, 髄膜炎や菌血症など無菌的部位から肺炎球菌が検出される感染症であり, 2013年4月1日に5類感染症の全数把握対象疾患に指定された。神戸市では2016年から感染症発生動向調査(NESID)の一環としてワクチン接種済みの小児・成人, およびワクチン接種対象外の成人IPD症例を対象として, 分離された肺炎球菌の血清型別を実施している。2017年10月~2018年5月にかけて血清型12F型によるIPD症例数の割合が増加したことから, 神戸市内における12F型の分子疫学解析を行った。

対象と方法

 菌株は, 2016年1月~2018年5月の間に届出されたIPD症例のうち, 神戸市医療機関から収集した肺炎球菌45株中12F型と同定した14株(31%)を解析対象とした。薬剤感受性試験は微量液体希釈法を用いて行い, 薬剤耐性遺伝子はPCR法により検出した1)。multilocus sequence typing(MLST)法を用いて遺伝子型を決定した。遺伝系統内の詳細な比較はMiSeq(Illumina)を用いて全ゲノム配列を取得し, kSNPによる系統解析を実施した。

結果と考察

 神戸市において2017年5月~2018年5月にかけて検出された12F型14株をにまとめた。沈降7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)または沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)を接種した1~6歳の小児9検体とワクチン接種対象外の成人5検体から検出された。10株がST6945であり, 残り4株はST4846と同定された。小児では7株がST6945であり, ST4846よりも多い傾向であった。14株すべてがクリンダマイシンとエリスロマイシンに耐性を示し, マクロライド耐性に寄与するermB遺伝子を保有していた。

 諸外国における12F型の集団事例の多くはST218やST220で起こっており3), 神戸市で検出された遺伝子型とは異なる遺伝系統である。しかしながら, 2018年に山形県において12F型ST4846による集団事例が報告されたことから4), 神戸市内で検出された12F型との遺伝的関連性を詳細に検討するために全ゲノムによるSNP系統解析を行った。その結果, ST6945株とST4846株は2つのクレードに分かれ, 全体として2,100のコアSNPsが検出された()。ST6945の株間では0-7個のコアSNPsしか検出されなかったことから, 同一クローンがこの期間に神戸市内で流行していたと考えられた。一方で, ST4846の株間では13-47個のコアSNPが検出されたことから, 神戸市内においては散発的な発生であることが示唆された。また, 神戸市で分離されたST4846は, 山形県の集団事例株とは遺伝系統的に離れた株であることも判明した。

 今回の事例のように, MLSTでは同一STと確認される集団が, ゲノム解析によりそれぞれは別物であると判明するケースが近年増えてきている。全ゲノム解析による分子疫学は, より詳細な地域内流行を把握できることから, 今後, 病原体サーベイランスに積極的に活用していく必要がある。

 謝辞: 菌株の収集にご協力いただいた市内の医療機関の関係各位に感謝します。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル「侵襲性肺炎球菌感染症」
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/invasive_pneumococcal_disease20210423.pdf
  2. Nakanishi N, et al., J Infect Public Health 12: 867-872, 2019
  3. Deng X, et al., Clin Infect Dis 62: 1126-1132, 2016
  4. Ikuse T, et al., Epidemiol Infect 146: 1793-1796, 2018

神戸市健康科学研究所・感染症部
 中西典子 米澤武志 田中 忍 濵 夏樹 岩本朋忠 野本竜平
神戸市保健所         
 白水有紀 内藤由貴 尾崎明美 伊地智昭浩

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan