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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行後の成人侵襲性肺炎球菌感染症の血清型別罹患率と臨床像

(IASR Vol. 44 p13-14: 2023年1月号)

 
背 景

 肺炎球菌は主に乳幼児の鼻咽頭に保菌され, 主に飛沫感染によって水平伝播する。また, しばしば小児, 成人に侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)を発症する。わが国では厚生労働省研究班において2013年度から国内10道県(北海道, 宮城県, 山形県, 新潟県, 三重県, 奈良県, 高知県, 福岡県, 鹿児島県, 沖縄県)の成人IPD届出症例を対象として成人のIPDサーベイランスを実施しており, これまでに公衆衛生に資する情報提供, 予防接種施策を評価してきた。本稿では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行後の成人IPDの血清型別罹患率, 臨床像の変化について記述する。

方 法

 2017~2021年の期間に, 本サーベイランスに登録された15歳以上の患者のうち, 患者情報, 菌株の血清型情報が評価可能な1,573例を解析対象とした。2017~2019年をCOVID-19流行前(以下, 流行前), 2020~2021年をCOVID-19流行後(以下, 流行後)とし, 人口10万人当たり罹患率(報告率), 臨床像の推移を解析した。血清型は既報1)に従い, PCV7型, PCV13-非PCV7型, PPSV23-非PCV13型, 非ワクチン血清型(nVT), に分類した。臨床病型は, 菌血症をともなう肺炎, 髄膜炎, 巣症状をともなわない菌血症, その他(肺炎, 髄膜炎以外の病型), に分類した。

結 果

 血清型別成人IPD罹患率の推移をに示す。流行前の罹患率は全体で平均2.0/10万, 血清型別罹患率はPCV7型0.17/10万, PCV13-非PCV7型0.43/10万, PPSV23-非PCV13型0.68/10万, nVT0.77/10万であった。流行後, 全体の罹患率は0.85/10万と, 58%の減少が認められた。罹患率の減少に関し, 血清型, 年齢による違いは認められなかった。

 臨床像の推移をに示す。流行前はIPD症例の約60%が男性, 年齢中央値72歳, ≧65歳および併存症の割合がそれぞれ約70%, 約75%, の所見は流行後も変わらなかった。一方, 免疫不全の割合は24%から30%に増加(p=0.028), 発症10日以内に季節性インフルエンザを併発した割合は5.3%から1.2%に減少した(p=0.001)。病型別では菌血症をともなう肺炎の割合は60.7%から49.9%に減少したのに対し, 巣症状をともなわない菌血症の割合は17.7%から25.4%に増加した(p<0.001)。致命率(発症30日以内)に差は認められなかった。

考 察

 COVID-19流行後, 成人IPDの罹患率は年齢や血清型に関係なく減少した。解釈には注意を要するが, COVID-19対策としての対人距離の確保, マスク着用等の国民の行動変容, 患者の受診控えや医療体制の変化が影響した可能性が考えられた2)

 臨床像としての菌血症をともなう肺炎の割合が減少し, 巣症状をともなわない菌血症の割合が増加した所見については, 年齢, 血清型による差は認められなかった(データ未記載)。菌血症をともなわない肺炎球菌性肺炎は, 鼻咽腔に定着した菌が下気道へ吸引されることによって発症すると考えられており, 菌血症をともなう肺炎に進展する場合もある。したがって, COVID-19流行後の菌血症をともなう肺炎の割合の減少は, 前述の飛沫感染予防等のnon-pharmaceutical intervention(NPI)が影響した可能性がある。また, 2020年以降に国内で季節性インフルエンザの流行がみられなかったことも, インフルエンザ後の二次感染にともなうIPDの発症を減少させている可能性として考えられる3,4)。一方, ドイツではCOVID-19流行後に減少したIPD罹患率が2021年には小児, 高齢者で流行前と同程度まで増加したことが報告されている5)。国内においても今後, COVID-19感染対策が緩和された場合, IPD罹患率, 死亡者数の増加が懸念される。引き続き動向を注視する必要がある。

 

参考文献
  1. Tamura K, et al., Vaccine 40: 3338-3344, 2022
  2. 侵襲性肺炎球菌感染症の届出状況, 2014年第1週~2021年第35週
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/pneumococcal-m/pneumococcal-idwrs/10779-ipd-211126.html
  3. IASR 42: 239-241, 2021
  4. McCullers JA, Clin Microbiol Rev 19(3): 571-582, 2006
  5. Perniciaro S, et al., Clin Infect Dis 75: 1149-1153, 2022

富山県衛生研究所
 田村恒介 大石和徳
国立感染症研究所細菌第一部
 常 彬 明田幸宏
同感染症疫学センター
 新橋玲子 有馬雄三
東京慈恵会医科大学細菌学講座
 金城雄樹
成人IPDサーベイランスグループ
 渡邊 浩 田邊嘉也 黒沼幸治 大島謙吾 丸山貴也
 仲松正司 阿部修一 笠原 敬 西 順一郎 横山彰仁

 

 

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