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国内のネコ・イヌにおける重症熱性血小板減少症候群の発生状況

(IASR Vol. 44 p31-32: 2023年2月号)

 

 重症熱性血小板減少症候群(severe fever with throm­bocytopenia syndrome: SFTS)はDabie bandavirus(SFTS virus: SFTSV)によって引き起こされるダニ媒介性の動物由来感染症である。2017年4月にSFTS発症ネコ, 2017年6月にSFTS発症イヌが確認されて以降, 国内では継続的にネコおよびイヌにおけるSFTSの発生が確認されている。特に日本におけるネコの致命率64.7%, イヌでは26%と非常に高い。さらに, 発症動物からの飼い主あるいは獣医療関係者へのマダニを介さない感染が毎年数例報告されており, 獣医学的, 公衆衛生学的に重要な感染症となっている。本稿では, 国内の8研究機関および広島県獣医師会で検査され, 遺伝子検出および抗体検出で確定診断されたネコおよびイヌのSFTS発生症例の集計を基に, 国内のネコおよびイヌにおけるSFTSの発生状況について概説する。

ネコ・イヌにおける発生状況

 動物病院に来院したネコ・イヌで, 発熱・血小板減少・白血球減少・嘔吐などを呈しSFTSが疑われた症例の検体について, 国内の研究機関および国立感染症研究所獣医科学部で遺伝子検出および抗体検出によりSFTSの実験室診断を実施している。2022年9月までに, ネコ560症例とイヌ36症例がSFTSと確定診断されている()。2017年以降, ネコおよびイヌにおけるSFTSの症例確認数は増加を続けている。ネコでは2019年以降, 毎年100例を超える発症例が確認されているが, イヌではネコに比較して症例数は少ない。

地理的分布

 ヒトのSFTS症例は, 西日本を中心に発生が確認されている一方で, ネコ・イヌでは石川県や静岡県(, 赤色の府県は本研究で確認されたネコ・イヌでの発生地域)でも症例が確認されている。さらに, 富山県では2022年9月時点では患者の届出はないが, イヌのSFTS症例が報告されている1)。遡り調査で千葉県でのヒトのSFTS症例が確認されている2)。千葉県のイヌ・シカ・イノシシ, 富山県のイノシシにおいてSFTSVの中和抗体保有が確認されていることから, 東日本・北陸においてもSFTS発生のリスクが上昇している。

月別の発生数

 ネコにおいては1年を通してSFTSの発生が確認されている。特に2月から発生数が上昇し, 3~5月に発生数がピークを迎える。ヒトの症例と比較してネコの症例数の上昇が始まる時期は早いが, これは自然界における野生動物とマダニの間でのSFTSVの流行をネコがより早く検出できることを意味している。

ネコ・イヌにおける徴候および検査所見

 特にネコにおいては松鵜らの報告3)に加えて, 感染実験についての報告4)も存在し, 徐々にその徴候について明らかになってきている。ネコ・イヌのいずれについても, 主な徴候および検査所見として元気・食欲消失, 発熱, 白血球数減少, 血小板数減少, が認められている。それらに加えて, ネコでは嘔吐および黄疸, 総ビリルビンと血清アミロイドAの上昇が, イヌではCRPの上昇が高率に認められている。イヌに関しては, 症例数が少なく抗体保有動物も多いことから, 不顕性感染が多いと考えられる。また, ネコでは妊娠ネコがSFTSVに感染し, 流産した症例が確認されている。富山県のイヌの症例では, 発症から実に2カ月以上の長期間, 尿中にウイルスが検出され, 持続感染が示された1)

発症動物からヒトへの感染

 2022年7月31日時点で, 発症動物から獣医療従事者への感染が10例確認されている5)。それ以外にも, 我々の独自の集計では, 発症動物から飼い主への直接感染が9例以上確認されている。飼い主の安全に加えて, 獣医療従事者の職業上の安全を確保するためにも, 発症動物からの感染防御法に加えて, 発症動物の迅速な診断法, 効果的な予防・治療法の開発が求められている。

おわりに

 SFTSの国内における発生地域は拡大している傾向がある。ヒトの患者数よりも動物の患畜数が多いことから, 富山県のように動物での診断を確実にすることにより, ヒトへの感染リスクを知ることができる。流行地では飼育動物へのマダニ対策, 衰弱した動物への接触回避, 獣医師の個人感染防護具の適切な装着, などの感染防御対策をすることが必要である。また, 未発生地でも近隣の都道府県で発生があった場合は, リスクが高まったと考えて関係者への注意喚起が必要である。

 

参考文献
  1. 佐賀由美子ら, IASR 43: 218-219, 2022
  2. 平良雅克ら, IASR 42: 150-152, 2021
  3. Matsuu A, et al., Vet Microbiol 236: 108346, 2019
  4. Park E, et al., Sci Rep 9(1): 11990, 2019
  5. https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/3143-sfts.html

国立感染症研究所獣医科学部
 石嶋慧多 平良雅克 松鵜 彩 朴 ウンシル
 立本完吾 木村昌伸 藤田 修 前田 健
岡山理科大学獣医学部
 森川 茂
宮崎大学農学部
 岡林環樹
山口大学共同獣医学部
 早坂大輔
長崎大学熱帯医学研究所
 井上真吾 高松由基
東京大学
 桃井康行
東京農工大学
 水谷哲也
北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所
 松野啓太
広島県獣医師会
 山岡弘二

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan