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B型肝炎ウイルス再活性化について

(IASR Vol.44 p39-40: 2023年3月号)
 
B型肝炎ウイルス再活性化とは

B型肝炎ウイルス(HBV)現感染者またはHBV既往感染者において, 免疫に異常をきたしたり, 悪性腫瘍に対して免疫抑制・化学療法などを行った際に, HBVが再増殖することを「HBV再活性化」と定義する。特に, HBV既往感染者においてHBVが再活性化し肝炎を発症したものをde novo B型肝炎と呼び, 重症化率, 劇症化率が高く, 劇症化した際には救命が困難となる。HBV再活性化は重症化しやすいこととともに, HBV再活性化により本来, 免疫抑制・化学療法を行う必要がある免疫疾患や悪性疾患に対する治療が行えなくなる危険を有する。さらに, HBV肝炎の重症化・劇症化が起こった際に, 悪性疾患を有する症例では肝移植などの治療が困難となる。そのために, HBV再活性化のリスクを有する免疫抑制・化学療法が予定されたすべての患者において, 治療前にHBV感染スクリーニングを行うことが求められる。

HBV再活性化の基本的対策

免疫抑制・化学療法前のHBV感染スクリーニングとしてHBs抗原検査, HBc抗体およびHBs抗体検査, HBV DNA定量検査を行い, HBV再活性化予防が必要な症例, 要経過観察症例の絞り込みを行い, 必要な症例に速やかにHBV再活性化予防の治療を行うことが日本肝臓学会のB型肝炎治療ガイドライン1)で推奨されている。すなわち, HBs抗原陽性, および治療開始前のスクリーニング検査においてHBV DNA量が20 IU/mL(1.3 Log IU/mL)以上の症例に, 再活性化を起こす可能性のある免疫抑制・化学療法を行う際は, 速やかに核酸アナログによる再活性化予防目的の投与が推奨されている。また, 免疫抑制・化学療法開始前のスクリーニング検査においてHBV DNA量が20 IU/mL(1.3 Log IU/mL)未満のHBV既往感染者に対しては, 治療薬剤, 治療法ごとに推奨される期間で, 治療中および治療終了後にHBV DNA量のモニタリングを行い, HBV DNA量が20 IU/mL(1.3 Log IU/mL)以上となった時点で核酸アナログの投与開始が求められている。推奨される核酸アナログとしては耐性ウイルスが生じにくく, 治療効果の高いエンテカビル(ETV), テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)に加えてテノホビル アラフェナミドフマル酸塩錠(TAF)もある。最近, 我々は, 多施設共同前向き試験において, 新規の核酸アナログであるTAFが, 免疫抑制・化学療法時のHBV再活性化を効果的に予防できることを明らかにした2)。詳細なスクリーニング, 治療のフローチャートは肝臓学会のB型肝炎治療ガイドライン(https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b.html)を参照いただきたい。

注意を要する疾患からのHBV再活性化の対策

HBV再活性化のリスクはHBVの感染状態とともに, 治療による免疫抑制の程度に規定される。リツキシマブに代表される抗CD20モノクローナル抗体を含む治療は, 強い免疫抑制効果を有し, HBV再活性化リスクが非常に高く, HBV既往感染者からの再活性化にも十分注意する必要がある。抗CD20モノクローナル抗体治療中および治療終了後少なくとも12カ月間は, HBV DNA量を月1回モニタリングすることが推奨される。また, 造血幹細胞移植でも, HBV既往感染症例において高率にHBV再活性化が認められ, 治療終了後少なくとも12カ月の間, HBV DNA量を月1回モニタリングすることが推奨される。さらに造血幹細胞移植例では, 移植後長期間経過後にも再活性化が報告されており, 移植後長期間にわたり留意が必要となる。

膠原病やリウマチ性疾患に対する免疫抑制療法では, 6カ月以内のHBV再活性化の頻度が高いために, 治療開始後6カ月間は月1回のHBV DNA量のモニタリングが推奨され, それ以降は3カ月に1回程度のモニタリングが推奨される。

近年, 悪性疾患に対して, 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を用いた治療が行われる頻度が上昇している。ICIでは免疫関連副作用が惹起されることがあり, こうした場合には速やかなステロイド投与がされるとともに, 最近複数の大規模な後ろ向き研究が報告された。少なくともHBs抗原陽性例はICI投与によりHBV DNA量が上昇し, 肝障害を発症する可能性が報告され, そのために治療前に日本肝臓学会のB型肝炎治療ガイドラインのフローチャートに基づいた対応がICI投与時にも推奨されている。

また近年, 慢性C型肝炎に対する治療では, インターフェロン(IFN)を用いない直接作用型抗ウイルス薬(DAA)が中心となり, HBVとC型肝炎ウイルス(HCV)の重複感染例, あるいはHBV既往感染例において, DAAsをHCV感染に対して単独で行うとHBVの再活性化および重症肝炎が起こる可能性が指摘されている。そのために, 慢性C型肝炎患者に対してDAA治療を行う際には, HBV感染状況を検査することが推奨されている。またHBV既往感染例からの再活性化症例も報告されており, 注意を要する3)

最後に

現在も, ときおり免疫抑制・化学療法治療中のHBV再活性化症例が報告されており, HBV再活性化予防のための適切な核酸アナログの予防投与, 適切な治療中, 後のモニタリングのさらなる啓発が求められる。

 

参考文献
  1. 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編, 「B型肝炎治療ガイドライン(第4版)」, 2022年6月
  2. Suda G, et al., J Med Virol 95: e28452, 2023
  3. Kawagishi N, et al., J Hepatol 67: 1106-1108, 2017
北海道大学消化器内科
 須田剛生

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